News 2003年7月24日 09:11 PM 更新

実用段階に入った自律型分散コンピューティング「N1」

サンが推進するN1プロジェクト。分散化コンピューティングのライバルであるIBMやHPに先んじて製品化された「N1 Provisioning Server 3.0」は、急速に普及が進む高集積ブレードサーバの管理労力を劇的に削減してくれる。

 Sun Microsystemsは7月24日、ブレードサーバに対応したサーバ管理システム「N1 Provisioning Server 3.0 Blades Edition」(N1 Server 3.0)を発表した。出荷は24日から開始され標準価格は58万8000円。

 N1 Server 3.0は2002年にSunが買収したTerraspringの製品がベースになったもの。ちなみに、この製品のバージョン1.0はヒューレット・パッカードから販売されている。

 N1は、Sunが2002年に発表した分散型コンピューティングプロジェクトの名称。ネットワーク上に分散して存在するサーバやストレージを、一つのリソースとして仮想的に扱えるのが特徴。同様の技術として「グリッドコンピューティング」やIBMが開発を進めている「オートノミックコンピューティング」、NECの「VALUMO」などがある。

 最近のサーバシステムで顕著になっている、大規模、高性能に伴なうTCOの増加に対して、N1プロジェクトでは、システム構成と管理方法をシンプルにすることで、TCOを削減し、既存のネットワークインフラに容易に導入できることを目指している。

 製品発表会でプレゼンテーションを行った山本恭典氏(プロダクト・マーケティング本部 本部長)は「最近のシステムベンダーには、“スケーラビリティ”について大きな誤解をしているところがある。性能を上げ拡張するために、システムを複雑にしてユーザーの負担を増加させている。真のスケーラビリティは、ユーザーに負担をかけることなく、システムはシンプルなままに、性能向上と拡張を実現しなればならない」と、いつものSunらしく「競合相手」を攻撃しつつ、N1のメリットをアピールする。


N1アーキテクチャは、CPUやネットワークカードなどの「基盤リソース」、物理的なリソースを論理的リソースに定義する「仮想化」、論理リソースの環境を構築する「プロビジョニング」、リソース配分などのポリシー設定を自動で行う「ポリシーオートメーション」、実際のシステム構築を提案する「コンサルティングサービス」といったレイヤーで構成される。今回発表されたN1 Server 3.0はプロビジョニングレイヤーまでを実現している

 今年の4月、国内でN1プロジェクトを発表したときに、Sunは「3段階でN1を実現していく」と発表しているが、N1 Server 3.0は第1段階の「インフラの仮想化とプロビジョニング」をサポートしている。

 また、N1はもともと複数のサーバが稼動している「データセンター」における運用を想定しているが、「多種多様のサーバハードウェアの検証に時間がかかるため」(山本氏)、今回はブレードサーバプラットフォーム「Sun Fire B1600」のみをサーバハードウェアとしてサポートする。

 なお、データセンターに対応したN1 Server 3.0は今年中に投入の予定。ただし、こちらも、クライアントのハードウェア環境に合わせた段階的なサポート対応になる見込みだ。


発表会のデモで使用されたSun Fire B1600。本来ならネットワークで接続されたサーバを一つに仮想化して管理するところだが、まずは、検証作業が容易な「特定筐体内で接続されたサーバ」を対象に仮想化を実現した。「今回発表したN1 Server 3.0は、筐体内の閉じた世界でN1を体験したもらうのが目的。いわばN1へのファーストステップ」(山本氏)。用賀のSun本社にはクライアントや協業パートナーが利用できる評価用システムが用意されている

 発表会では、N1 Server 3.0アーキテクチャの紹介や、サーバ管理ツール、環境設定エディタのデモンストレーションなどが行われた。

 N1 Server 3.0は、システムが出力するXMLをWebブラウザベースのツールで管理する仕組みになっている。システムが出力するXMLには物理的リソースの状況を記述する「WML」、システムの論理構成を記述する「FML」、WMLとFMLを突き合わせてアサインされたリソース状況を記述する「MML」の3種類がある。管理ツールはWebブラウザでMMLの中身を編集する。Sunでは、FMLの自動生成も予定しているが、実現するのは数年先の予定だ。


N1 Server 3.0のアーキテクチャ。システムが出力したWML、FML、ユーザーが記述したMMLの情報をProvisioning Softwareが参照して、分散されたリソースの仮想化や一元管理を実行する



GUIで操作できるシステムエディタ。画面左上にあるリソースアイコンを、マウスでドラッグ&ドロップすれば、ネットワークの接続やサーバの配置が可能。配置したアイコンをクリックすると、クリックしたリソースの設定を行うダイアログが表示される。Sunは、このエディタによって、従来数日かかっていたシステム設定作業が、数時間で終了するとしている


システムモニターツール。論理的サーバの単位である「フレーム」で異常が発生して停止した場合、WMLとFMLの情報から新しいフレームを作成して、短時間で復帰できる

 いまだ実験段階にあるオートノミックや、ビジネス展開が遅れているグリッドコンピューティングと異なり、いち早く分散コンピューティングの実用化に踏み出した、とSunがアピールするN1プロジェクト。リソースの自律的管理機能は2005年の実現を予定しているが、オートノミックもグリッドも、それまでに実用化される見込み。

 N1が先行のアドバンテージを発揮できるかは、N1 Server 3.0の本格的普及を目指すデータセンターバージョンが予定通り投入されるかにかかっている。

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[長浜和也, ITmedia]

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