News 2003年7月30日 07:33 PM 更新

HPC導入が続くOpteronの「サーバ市場侵攻作戦」とは?

IBMが投入したOpteron製品は「eServer」といいながらもターゲットはHPC市場。発表会に同席したAMDの吉沢氏は「最初はそんなものでしょう」と言いながらも「Opteronをサーバ市場に普及させる」作戦をしっかり描いているようだ。

 日本アイ・ビー・エム(IBM)は7月30日、Opteronを搭載するサーバ製品「IBM eServer 325」を発表した。IBMは1058台のeServer 325で構成されるスーパーコンピュータを産業技術総合研究所(産総研)に納入し、来年初めから運用を開始する。

 IBMのサーバ製品には、これまで「zSeries」「iSeries」「pSeries」「xSeries」と4シリーズのラインアップが用意されていたが、今回発表されたeServer 325は「eSeries」とも言うべき、新たに追加された第5のサーバラインアップとして位置付けられる。

 筐体はxSeriesと同様のラックマウント形式を採用するが、eServer 325系列はOpteronを実装することでxSeriesとの差別化を図っていく。発表会に出席した日本IBMの橋本孝之氏(BP&システム製品事業担当常務執行役員)は、「コストパフォーマンスに優れたOpteronは、グリッドコンピューティングなどの並列処理システムに適している。Opteronを搭載するeServerは、HPCなどのスペシフィックの分野に投入していくだろう」と語った。

 ただし、IBMがこれから積極的に展開していくグリッドコンピューティングのハードウェアが、Opteron搭載製品で統一されるわけではなく、「クライアントの要求にしたがって、Power 4/5やItanium 2を使い分けていく」ことになるらしい。


IBM 橋本氏。SCOとの問題をどのように顧客に説明しているのか、との質問に、「いわれのないことであり、ユーザーには何の心配もないと説明している」と回答した

 IBMも今回の発表会で、Opteronサーバのポジショニングはまだ明確に決定していない、と明言している。同じラックマウントサーバであるxSeriesとの切り分けについて、日本IBMの岩井淳文氏(システム製品事業部IAサーバー&PWS事業部長)は「Opteron搭載サーバの特徴は、コスト、パフォーマンス、(64ビットという)ソリューション。しかし、まだ登場したばかりなので、現時点でははっきりとしたポジショニングができていない」と説明している。

 産総研に納入するシステムは、eServer 325を基幹とするサーバソリューション製品「Linux Clusters e1350」として納入される。eServer 325は、2wayのOpteronに対応したマザーボードを採用した1ノード2プロセッサ構成。また、搭載されるOpteronは200シリーズのOpteron 240(動作クロック1.4GHz)、もしくは現在未発表のOpteron 246(動作クロック2.0GHz)だ。


産総研に納入されるAISTスーパークラスタ。世界最大のLinuxスーパーコンピュータで、最新のGlobus Toolkit 3で構築されたグリッドコンピューティングを実現する予定。官民協同のグリッドコンピューティングの研究としては、国立情報学研究所主導の超高速コンピュータ網形成プロジェクト」(NAREGI)も現在進められている。ちなみに「純国産グリッドコンピューティング技術の育成」が目的のNAREGIに協力する企業は国内メーカーで占められている

 AISTスーパークラスタは、2wayのOpteronを搭載したeServer 325を1058台接続して構成される。Opteron以外のCPUも含め、総プロセッサ数は2636個。産総研は理論的パフォーマンスとして、11テラFLOPSという値を予想している。先日ビジュアルテクノロジーから発表されたOpteron 244による512プロセッサ構成HPC「VT64 Optreon Cluster」が1テラFLOPSであるのと比べると、プロセッサ数が4倍ながら、パフォーマンスは11倍にも達することになる。

 VT64 Opteron Clusterのノード間接続がギガビットイーサネットを採用しているのに対し、Linux Cluster e1350で2倍の帯域幅を出せる「Myrinet-XP」を採用しているが、それ以外にも「産総研独自のテクノロジーのおかげで、高性能を発揮できていると思われる」(岩井氏)。

 なお、Opteronを採用するメリットとして繰り返し述べられた「コストパフォーマンス」であるが、産総研が導入するシステムの納入価格は「ノーコメント」(橋本氏)。「Itanium 2で同程度のシステムを構成するコストの3分の1で済んでいる」(橋本氏)と回答するにとどまった。

 発表会に同席した日本AMD取締役の吉沢俊介氏は「64ビットコンピューティングによるハイパフォーマンス」「過去資産を継承した64ビットコンピューティングへの移行」「ユーザーの導入コスト負担を軽減する低コスト」と、Opteronの発表会でも述べられた内容を繰り返しアピールした。


AMD 吉沢氏。「競合他社」を意識した発言は吉沢氏お得意のもの。しかし、今回は「CPUの開発に専念するAMD」「シンプルなプラットフォームラインナップのOpteron」と、これまでにも述べられた発言に終始した

 最近のOpteron導入リリースのほとんどが、HPCとしての事例であることに対し、吉沢氏は「サーバとしての大規模導入は現在のところない」としたうえで、「われわれも最初はHPCのようなハイパフォーマンス市場から普及していくと予想していた」と現在のビジネス展開はAMDの想定どおりでありことを強調した。

 また、NECがVALUMOの発表会で「サーバシステムにOpteronを採用するには、AMDは信頼性に欠ける」と発言するなど、国内大手サーバベンダーがOpteronの信頼性について疑問を感じていることについても「サーバ市場に入っていくには、確かに実績が必要。AMDにはその実績がまだ備わっていない」(吉沢氏)と述べた。

 その上で吉沢氏は「まずは信頼性より性能が求められるHPCでOpteronを普及させ、その実績を下地にしてサーバ市場に入っていきたい」と、Opteronをサーバ市場に展開していく「作戦」を示唆した。

 その足がかりがIBMが対応を表明している「DB2」によるデータベースシステム市場への普及だ。発表会でも「これから積極的に展開していく」(吉沢氏)とサーバ市場への意気込みを語った。

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[長浜和也, ITmedia]

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