News 2003年8月4日 10:27 PM 更新

ワイヤレスが「鈴鹿」を変える(1/2)

8月3日に行われた鈴鹿の“8耐”では、さまざまな地点に置かれたカメラに視点を切り替えられる動画の配信やホットスポットの設置など、情報技術が積極的に取り入れられていた。運営責任者の三原哲夫氏によれば、狙いは観客の満足度向上。そして、鈴鹿からモータースポーツ観戦のワールドスタンダードを生み出していくことだと言う。

 昨日行われた「2003“コカ・コーラ”鈴鹿8時間耐久ロードレース」は、残り1時間を切った段階でトップを走行していたチームがリタイアするというどんでん返しの末、最後は“街のバイク屋さん”、Team桜井からから参戦したベテランペア、生見・鎌田組の優勝で幕を閉じた。  序盤から波乱の幕開けとなった今年の8耐は、序盤2週目でリタイアした有力2チームの監督が抗議の声明を出すなど、荒れ模様の展開だった。


名門復活をかけ必勝態勢で臨み、決勝でもっとも強いと前評判だったヨシムラスズキGP-1 DAXIMだが、わずか1周しただけでオイルに乗って転倒、マシンが炎上しリタイアとなった


結局、Team桜井がプライベート参戦チームとしては1982年以来の優勝を飾る。その瞬間、Team桜井のピットは歓喜に包まれた

 その忙しいレース中、運営責任者である鈴鹿サーキットランドモータースポーツ事業部業務室長、三原哲夫氏に、インテル・日本ヒューレットパッカード(HP)・マイクロソフトの共同サポートで実施したブロードバンド配信、および会場内の無線LANサービスに関して、その目的と将来について話を伺った。

「鈴鹿からワールドスタンダードを生み出していく」

 決勝前日のレポートでもお伝えしたように、今回の8耐では、無線技術を用いたサービス品質の向上を一つのテーマにしていた。例えば、任意のポイントに置かれたカメラに切り替えることができる動画やあるいは実況映像のストリーミング配信、順位やラップタイムデータのリアルタイム表示といったサービスを提供している。

 また観戦スタンドのある東コースをカバーする、無線LANアクセスの回線を用意した。汎用性と処理能力が高いPCを用いて多角的かつリッチなコンテンツを、あるいは手軽に利用できるPDAを用い、どこでもレース情報や指定カメラの映像を楽しむことができるのだ。

 インテルはCentrinoモバイルテクノロジを、ヒューレットパッカードは新型ノートPCと半透過型で屋外でも見やすいiPAQを、マイクロソフトはWindows Media 9 Seriesのプロモーションを行うため、この8耐に参加した。だが、そもそもこのプロジェクトは、鈴鹿サーキット側の「ITをモータースポーツの現場で活用したい」との考えに端を発したプロジェクトだった。

 三原氏がこのプロジェクトを強力に推し進めてきた背景には「サーキットに足を運んでくれる観客、取材を行うメディア、それにレースに参加する各チームへのサポートで世界一であり続けたい」という想いがあるという。

 鈴鹿サーキットは言うまでもなく、四輪、二輪、それぞれのトップカテゴリーであるF1、MotoGPを含むさまざまなロードレースが開催される世界でも有数のサーキットである。だから、こうした情報技術の導入は、トップカテゴリーを受け入れるサーキットとして、国際的な競争、あるいは大改修によって復活を目指す富士スピードウェイなど国内の他サーキットとの競争の中で、より品質の高いサービスを提供することを意識したもの、と考えるのが普通だろう。

 しかし三原氏は「われわれは、国際的サーキットに求められる以上の設備・サービスをこれまでに取り入れてきた。鈴鹿で導入されたシステムがFIAやFIMで評判となり、ワールドスタンダードとなったケースは多数ある。運営面でも観客を楽しませる、サーキットに足を運びたいと考える工夫を施してきた。例えば、F1やフォーミュラニッポンでも、そして今回の8耐でも行われているワンラップ計測の予選も、私が最初に(フォーミュラカーや二輪GPなどのヨーロピアンレースへ)導入した。周囲は大反対で批判も受けたが、始めてみると観客、スポンサーなどの大好評を得て、今ではF1さえもが採用するに至っている」と話す。

 その三原氏が次に考えるのが、無線技術の応用というわけだ。もちろん、レースにおいて無線通信は既に重要な役割を果たしており、ピットとレーサーの通信やF1におけるテレメトリシステムなどに使われている。しかし、同氏が考えているのは、こうした従来の無線通信ではない。高速かつローコストで汎用性の高いデジタル通信を可能にする無線LAN技術を応用することで、より高度なサービスを目指そうというのである。

[本田雅一, ITmedia]

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