News 2003年8月4日 10:33 PM 更新

ワイヤレスが「鈴鹿」を変える(2/2)


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 今回の8耐で導入された無線LANのアクセスポイントは、そのままメディアや観客へのサービスとして残される。鈴鹿サーキットに行くことがあるなら、無線LANに対応したPCやPDAを持ち込んでみるといいだろう。メインスタンドや1-2コーナー、カシオトライアングル周辺のスタンドであれば、802.11bのアクセスポイントを探し出すことができるだろう。

 しかし三原氏の最終目的は、鈴鹿サーキットのホットスポット化だけではない。

 鈴鹿サーキットにやってきた顧客向に対して、鈴鹿サーキット内のアクセスポイントだけからアクセス可能な専用コンテンツを用意する構想があるという。例えば、8耐に来てもらった人には、過去の8耐の名場面や出場選手データなどを写真やビデオでダウンロードし、そのまま自宅に持ち帰るといったサービスも検討する。

 また、パドックでは観客とは別の視点の情報を、プレスセンターでは報道向けデータをと、それぞれに最適な情報を提供する構想もある。三原氏は「鈴鹿に足を運ぶことのプレミアム性を高めるコンテンツを提供したい。鈴鹿サーキット自身が主催するレースに関しては、その過去の資産を最大限に活用してサービス向上に努めたい」と語った。

 プレス向けにWebベースで情報提供を行う計画はすでに動き出しているとのことだ。現在、モータースポーツの取材現場では順位やラップタイムデータを紙で配布していることがほとんど。配布されたデータを手で打ち直し、編集部に送信している風景が、今回の8耐でも多数見かけられた。ノートPCを使って現地からのレポートを書き、無線LANでインターネットに接続する姿は多数見受けられたが、肝心の情報配信・取得は不効率なままというのが現状のようだ。

「鈴鹿でのワイヤレスネットワークや情報配信の利便性が認められるようになってくれば、おそらくそうした設備をF1開催サーキットの条件などに(FIAが)盛り込むようになるだろう。鈴鹿がワールドワイドのスタンダードを作っていく」。三原氏のビジョンは壮大だ。

将来を見据えた明確なビジョンは、まだまだある

 三原氏が考える“モータースポーツへのIT応用”は、単なるネットワークインフラの整備や既存の情報配信手段を改善するといったアプローチに止まらない。モータースポーツに携わり26年という同氏ならではのアイディア、秘策があるようだ。

 例えばタイムの自動計測用にマシンに取り付けられている装置を用い、指定したゼッケン番号のマシンがどの位置を通過しているかを把握。その上で、特定のマシンを捉えるカメラへと自動的に切り替えるといったことも「やろうと思えばすぐに可能だ(三原氏)」という。

 テレビ放送やスタンド前のオーロラビジョンでは、どうしても有力チーム、上位チームを追いかけざるを得ないが、こうしたシステムが確立されれば上位、下位にかかわらず、お気に入りのチームをカメラで追いかける新しい観戦手法が生まれるだろう。

 また、各所に配置されたカメラは光ファイバーによるネットワークで接続されているため、将来はコース全域をカバーする広帯域のネットワークインフラとして活用することも可能だろう。

 そうした点を踏まえ(観客席やプレスセンター、パドック以外に)、コース上を無線LANでカバーする考えもある。「時速300キロまで加速するマシンが、次々に異なるアクセスポイントへとローミングしていくシステムにチャレンジしたい。従来の無線技術では、全車からの情報をネットワークで取得することはできないが、無線LANならば可能になる」と三原氏は将来のビジョンを話す。

 双方向の通信を許可してしまうと、例えばエンジンマネージメントをピット側で随時変更するといった細工が可能になってしまうため、マシンからピット方向への通信のみしか許可できないだろうと断った上で、三原氏は「公開しても問題がない情報、例えばライダーの心拍数がどのように変化しているかなどのデータをリアルタイムで観客に伝えることができれば、より深くレースを楽しむことが可能になるはずだ」と言う。

 二輪、四輪、国内、国外を問わず、モータースポーツは一部のコアなファンを除き、観客数は減少傾向にある。F1でさえ視聴率問題に悩み、8耐も一時期のバイクブームが去った。ルール変更や海外有力ライダーの参加が減ってきたことなどもあって、バイクファン以外からの注目度は下がってきているように見える。

 しかし、新しい観戦手法を生み出し、顧客満足度の向上を目指し続ける鈴鹿サーキットには、まだまだ観客を引きつける秘策がありそうだ。

 三原氏に来年の8耐ではどんなサービスを考えているのか?と問いかけてみた。「今までお話ししたことは、もうお話ししたことですから。将来はもちろんやっていきたい。また現在は限られた数のユーザーしかサポートできない映像配信サービスも強化する必要があるでしょう。しかし来年のことは話せません」と三原氏。秘めたる作戦は、まだまだ尽きることがないようだ。


レースをもっと楽しんでもらうためにと三原氏。「文系出身」と本人は謙遜するが、無線やオーディオを自作するなどの趣味を持ち、ITにも明るい人物だった



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[本田雅一, ITmedia]

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