News 2003年8月12日 03:09 PM 更新

どこでも聴ける・見られるデジタルTV――「モバイル放送」を試してみました(2/2)


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 今回のデモは、別の衛星(スーパーバード)からギャップフィラーを通して放送電波(実験用番組)を流している。実験用番組はデモコンテンツとして、映像付きが9チャンネル、音声だけが11チャンネルで行われている。

 同乗した車内では、後部座席でモバイル放送を視聴し、比較のために一般のTV放送も同時に受信した。今回使用した1世代前の実験用車載デモチューナー端末は助手席シートの後ろのポケットに取り付け、サイズも大きめだ。アンテナは車載用平面アンテナを車体屋根に取り付けている。


助手席シートのポケットに本体、右上の画面で受信映像状態を確認するようになっている。


車載デモ端末本体はサイズ280×230×50ミリと大きめだが、すでに手のひらサイズのチューナーが試作済みで、製品化時にはカーナビやオーディオ機器に組み込まれる程度のサイズとなるという


自動車の屋根に取り付けた平面アンテナ。これも製品化されたときは、より小型化され目立たないようになる

受信状態は安定している

 デモのポイントは移動体向け放送であることから、自動車に搭載し、高速移動中でも映像、音声とも本当に安定受信ができるかにある。結論から言えば、車内での映像、音声ともきれいに安定して受信できている。

 高速走行になるとアナログTVのほうはノイズの入ったチラチラ画面になったりするが、モバイル放送画面は安定している。

 この違いはトンネルのような所に入ったときは顕著にあらわれる。一般TVは二重三重に重なって見えるゴースト映像や音声にノイズが入るような状態でも、モバイル放送側は問題なく安定に受信できていた。

 先に述べたように、この受信端末は直接電波であろうと反射電波であろうと、有効な電波はすべて取り入れ、上位12番の電波を合成する仕組みなので、多少電波が弱くても問題はない。携帯電話のように強い電波を出す基地局一つを選ぶよりも賢いと言うべきかもしれない。もっとも、それらの電波も受信できないと、映像と音声は止まってしまう。

 この実験デモルートで問題になったのは、霞ヶ関入口付近と国会議事堂前の2カ所だった。1カ所目の首都高速道路の霞ヶ関入口付近では公官庁街ゆえ、アンテナの設置場所がなかなか見つからないそうだ。同様に2カ所目の国会議事堂前は、周りにビルがないので設置困難になっている。しかし、この障害物のない国会議事堂エリアはその分、衛星からの電波が直接サポートするだろうと余り心配していないようだった。

 現在、このように調査を繰り返し、ギャップフィラーをどの場所に設置するのが良いか検討中とのこと。実際のこのギャップフィラー1個設置工事にはその工事作業の他、2〜3日間10台の車両を使用して電波の測定、実験確認作業を行っているという話だった。

高速道路の対応について:

 ここで高速道路の対応はどうなるか聞いてみた。モバイル放送のメリットとして全国同一放送ゆえ、長距離運転のトラックや長距離バスなどで利用されると思ったからだ。それについては全国の高速道路約6000キロを魚眼レンズを用いてビデオ録画し、車と衛星間を妨害する物がどの程度あるか調査したという。

 それによると道路上83%は衛星電波を受信でき、6%が陸橋など短時間、陰になる部分、11%はなんらかの対策が必要な場所となったそうだ。陸橋など短時間陰になる部分については電波のインターリーブ機能という補正機能を使うことで1.3秒間までの信号断には、何の対策もしないでできるそうだ。長時間、陰になる場所については、ギャップフィラーを設置する予定とのこと。

 面白いことにトンネル内の場合は、電波の反射を拾い、利用するこの受信端末が、普通のTV受信では絶対ありえない鮮明な映像・音声で受信できるとも語っていた。

 また、九州のように南北に道路がある所は問題が少ないが、中国地方のように東西道路の場合は結構衛星が陰になる部分が多かったそうだ。正式衛星によって運用されれば、全国の高速道路はほぼ完璧にモバイル放送を受信できるのということになる。これで、長距離トラック運転者は好きな音楽を連続的に聞きながら運転することができることになる。

エリア割合対策
衛星が見えるエリア83%何もしなくてよい
短時間陰になるエリア 6%電波のインターリーブで対応しているため何もしない予定
長時間陰になるエリア11%ギャプフィラーなど設置工事を行う

表:全国の高速道路調査結果

 一方、高速での他の移動手段となると、おそらく電車だろう。JRなど鉄道の対応については現在調査をまとめているところで、通勤電車で携帯受信端末を使用して受信できるようになるとのことだった。このパラボラアンテナなしで衛星放送が受信できるという携帯受信端末については、お借りして実際電車に乗っての試用レポートをお届けする予定だ。

 もう1つ気になったのは韓国SK Telecom社がこのモバイル放送に参加していることだ。これは同じ衛星からの電波の偏波を変えたビームにて韓国向けのモバイル放送も行われるためだ。韓国の放送センターよりこの衛星に番組電波を打ち上げして、韓国内にサービスされる。

今後の課題はなにか

 このモバイル放送は有料番組ゆえ、サービスエリア、コンテンツ内容等提供するサービス品質、端末の普及状況などが当面の課題と思われる。この他にすでに同種の移動体向けサービスが発表されている。一つは8月6日から試験電波が始まった地上波デジタル放送(12月1日本放送開始)、二つ目がCRL(独立行政法人 通信総合研究所)から来年4月にSバンドで移動体向けの技術実験衛星8型を打ち上げられる。

 このモバイル放送については10月に行われるCEATECやモータショーの展示会に出展予定なので、自分で確認してみるのもよいだろう。

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[後田敏, ITmedia]

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