News:アンカーデスク 2003年8月26日 05:43 PM 更新

PS3――久夛良木氏が語る「実現への道筋」(1/2)

映画『マトリックス』の世界を現実のものにするという次世代プレイステーション(PS3)。だが、そのビジョン実現には、空白の部分がまだ数多く残されている。どうやってそれを埋めていくのか、今回はSCE社長兼CEOの久夛良木健氏に、その“ロードマップ”を聞いた。
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 時にソニー・コンピュータエンタテイメント社長兼CEOの久夛良木健氏の話は、単なる空想科学のように伝えられることも多い。久夛良木氏は次世代の製品に関する具体的な技術や製品概要については、必要な時以外はほとんど語らないが、そのさらに先にある世界や技術的なコンセプトについては楽しく話す。また半導体技術の将来的な展望についても、同氏は快く解説してくれる。

 しかし、将来のビジョンを話す部分では将来のコンピュータ技術を用いたエンターテイメントの世界が広がっているものの、現実と照らし合わせてみると、その間にはスッポリと大きなすき間が空いていることが多い。その間をどうやってつなげるのか? その部分については、想像を巡らせるほかなかった。このあたりが「久夛良木氏は将来ビジョンばかりで現場の技術を知らない」と匿名で揶揄する人が絶えない理由だろう。

 しかし実際にインタビューした久夛良木氏は、現在から未来に至るまでの間をきちんとフォローアップし、経営と技術、そして市場の関係を細かく計算しながら、将来のビジョンを語る人物に見えた。そう見えてきたのは、少しずつではあるが久夛良木氏の口からも、将来につなげるためのビジョンが示されるようになってきたからなのかもしれない。

PS3の「箱」――ゲーム機としてのPS3も存在するが、それは本質ではない

 筆者にとって、久夛良木氏へのインタビューは2回目である。はじめて話を伺ったのは2002年1月のことだ。このとき、同氏は次のように話していた。

 「次世代プレイステーション(PS3)についてアレコレと話が出ているが、単体のコンソールゲーム機とそれに対応するフォーマットを普及させるやり方(PS2とPS2対応ソフトによるビジネス手法)は、PS2で終わりになる。PS3という“箱”は存在しないし、PS3フォーマットという形式的なソフトウェアパッケージも存在しない」(久夛良木氏)

 「PS3の実態は一つの箱ではなく、あらゆるデジタル機器の中に存在し、それらがネットワークで結びつくことで仮想的なコンピューティングパワーを発揮する。またPS3フォーマットに相当するソフトウェアも、ネットワークの中にある」(同)

 加えて同氏はこのとき、映画『マトリックス』の話を繰り返ししていた。マトリックスではコンピュータが創り出した仮想現実の中にすべての人間が存在する。リアリティの高い仮想現実を創り出す(それは高度なシミュレーションが同時並行で行われ、ネットワーク化される世界)には、ネットワークに対応した巨大な仮想コンピュータを生み出す技術的な基盤が必要だ。

 少々、SFチックに感じるかもしれないが、コンピュータサイエンスの動向からすれば、それ自身は突拍子もない話ではない。ただ、それだけが語られてしまうと、(その間を推論しなければ)本当にただのSFで終わってしまう。そこで、PS3の「箱」が存在するのかを聞いてみた。

 「PS3フォーマットに関しては“ある”と言っても差し支えはないでしょう。メインプロファイル(SCEではアプリケーションごとのフォーマット仕様を“プロファイル”と表現する)の“ようなもの”はあります。また"メタファー(暗喩)としての“PS3”という箱も、登場することにはなります」

 「しかし、PS3そのものはホームサーバやテレビなどの中に“溶けていく”ものです。PS3のアーキテクチャーは、ホームサーバの中にあったり、AVラックの中に存在したり、あるいはゲームコンソールの形でもかまいません」(久夛良木氏)

 つまりゲーム機としてのPS3は存在するが、それがPS3の本質ではなく、またソフトウェアに関しても(PS2のDVDのような)物理的なフォーマットを意識しないでほしい、というわけだ。なぜならPS3はネットワーク指向の強い、スケーラブルに成長するアーキテクチャーを採用するからだ。

 前回のコラムでも紹介したように、久夛良木氏はPSXとそのバリエーションモデル以外にはPS2のアーキテクチャーを用いないことを表明した。またソニーグループ全体が、PS3アーキテクチャーで使われるCELLプロセッサとその周辺チップを採用していくことになっている、とも明言している。

 ホームサーバやテレビの中に溶けていくというのは、すなわちデジタルAV家電のキーコンポーネントとして、SCE開発の半導体が組み込まれていくことを示している。だからこそ、“箱としてのPS3”は、PS3を表現するメタファーでしかないのだ。

PS3の成長ステップには複数のマイルストーン

 久夛良木氏はネットワークでつながる次世代PSアーキテクチャーについて、次のように語っていたこともある。

 「日本では家庭向けブロードバンド接続が爆発的に普及しています。将来、光アクセスの時代になれば、帯域は無限に拡大していく可能性があります。将来の光アクセスラインが可能にする帯域に比べれば、ローカルのバス帯域の方がずっと狭い。コンピューティングパワーはネットワークの中に求めるべきでしょう」

 もっとも、いくらブロードバンドの普及が急とはいえ、インターネットでCELLを結び、巨大なコンピューティングパワーを実現するというやり方は、非リアルタイムのアプリケーションでは現実のものとなっているものの、インタラクティブ性が強く求められるゲームの世界ではスグには実現できないだろう。

[本田雅一, ITmedia]

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