News 2003年11月14日 01:44 AM 更新

ロボットの“運動神経”がコンシューマ機器にも――RTOS「VxWORKS」(1/2)

産業機器のみならずデジタル家電などにも採用が増えている組み込みOS「リアルタイムOS」。iTRON/Linux/WindowsCEなどに注目が集まるが、航空宇宙/防衛/産業機器分野で定評のあるウインドリバー「VxWORKS」も、ヒューマノイドロボットからコンシューマ機器にまで採用が広がっている。

 産業用機器などの組み込みシステムでは、瞬時に処理プログラムを呼び出したりといった高速な制御が欠かせない。このようなリアルタイム制御が必要なシステムや組み込みプロセッサのためのOSとして「リアルタイムOS」が使われており、最近では情報通信機器やデジタル家電にも採用が増えている。国内ではTRONベースのμiTRONが広く使われているが、LinuxやWindowsCEも勢力を伸ばしている。

 リアルタイム制御のカタマリみたいなものといえば、2足歩行をこなすヒューマノイドロボットだ。その代表格は、本田技研工業の「ASIMO」だろう。人間のように滑らかな歩行をこなすASIMOには、もちろんリアルタイムOSが使われているのだが、それはiTRONでもLinuxでもない。

 パシフィコ横浜で開催している組み込み技術展「Embedded Technology 2003」で、ASIMOの“運動神経”を担っているウインドリバーのリアルタイムOS「VxWORKS」のプライベートカンファレンスが実施。運動能力ではASIMOにもひけをとらないヒューマノイドロボット「morph3」の生みの親である未来ロボット技術研究センター所長の古田貴之氏が、ヒューマノイドロボットの制御におけるVxWORKSのメリットについて語った。


運動能力ではASIMOにもひけをとらないヒューマノイドロボット「morph3」にも、ASIMO同様にリアルタイムOS「VxWORKS」が使われている

 文部省の特殊法人「科学技術振興事業団 ERATO北野共生システムプロジェクト」から生まれたmorphは、今年6月に、古田氏らmorph開発チームとともに千葉工業大学の未来ロボット技術研究センターに移籍。最新のmorph3は、同センターで継続的に研究開発が行われている(morph3の詳細は別記事を参照)。

 “アスリートロボット”の異名を持つmorph3の特徴は、なんといってもその柔軟かつ高速な運動能力だ。滑らかな2足歩行やダンスだけでなく、前転/後転、バック転、素早い受け身、空手の型までもこなす。


片足でバランスをとりながらハイキックなんて、体の弱りきった筆者でも無理…

 「morph3の運動能力は、30個のモーターのリアルタイム制御と全身138個のセンサーを分散制御によるもの。これにより、モーター定格出力の5倍くらいのハイパワーを瞬発力に使った起き上がりから、リアルタイムで姿勢制御を行いながらの階段昇降、床体操のような柔軟な動作まで、パラメータを瞬時に変更して動きをエミュレーションできる」(古田氏)


 なぜ138個ものセンサーが必要なのだろうか。

 「30個のモーターの中にトルクセンサーや温度センサーが数多く装備されている。トルクセンサーで力関係を監視し、温度センサーでトルク負荷時の温度管理を行い、各モーターがどのくらいまでトルクをかけれるかを測っている。そのほか、胸には地磁気センサー、両手両足と腰には加速度センサー、外装に8個の触覚センサー、距離も計測できる赤外線センサーなどmorph3は全身がセンサーのカタマリ」(古田氏)

 このような30個のモーター制御と138個のセンサーの情報管理、その他すべてのタスクをリアルタイムで処理するには、1つのCPUモジュールでの集中制御は難しい。そこでmorph3は、メインCPUに複数のサブCPUが連なる分散制御システムを導入。その制御OSに、ウインドリバーのVxWORKSを採用した。

 「分散制御にはリアルタイムOSが欠かせない。またロボットには安定した制御が求められる。信頼性の高さや実績から、morphの運動制御にはVxWORKSを選んだ。VxWORKSの統合開発環境であるTORNADOを導入することで、morph3の制御システム開発期間も非常に短くて済んだ」

情報通信機器やデジタル家電にもVxWORKS

 もともとVxWORKSは、安全性が最重要視される航空宇宙、防衛、産業機器分野などの1台数百万〜数億円する組み込み機器で広く使われてきた。OSライセンス料がネックだったが、近年のライセンス体系の見直しで、防衛/宇宙/産業用に比べて単価の安いコンシューマ機器にも採用が進んでいる。

[西坂真人, ITmedia]

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