News 2003年11月18日 06:42 PM 更新

早稲田がMicrosoftと手を組んで期待する「教育効果」とは

17日に行われたスティーブ・バルマー氏の講演。でも早稲田大学の大隈講堂を埋めた学生たちは来年から始まる「Microsoftの特別授業」のほうが気になっているかもしれない。

 来日中のスティーブ・バルマー氏(Microsoft CEO)が早稲田大学で約700名の学生、教育関係者を前に講演を行ったことは、先日ZDNetでも紹介したとおり。

 さらに、Microsoftと早稲田大学はコンピュータセキュリティ分野における人材育成で提携を結び、来年度からは「Microsoft社員」による講義も始まる予定だ。Microsoftと早稲田が期待する「教育的指導」の効果とは何なのだろうか。


Microsoft CEO スティーブ・バルマー氏

コンピュータサイエンス学位卒業生の半分はインドと中国が輩出

 学生を前にエネルギッシュな講義を行ったバルマー氏。彼は、PCが発展していく方向性として「現在まだ30%しかインデックス化されていないインターネット上での検索機能の向上」「すぐ取り出せるデジタル写真管理」「音声認識によるパーソナルデータ管理」などを学生たちに紹介してくれた。

 バルマー氏は「コンピュータはあくまでもツールである。処理能力のみではなく、重要なのは情報をいかに活用し、利用できるかにある。いつでも、どこでも、すべてのところからアクセスできるかが重要」とモバイル環境における常時接続ネットワーク環境を描いている。

 「Microsoftの“ナンバーワンプライオリティ”はセキュリティ」と講演で発言したバルマー氏だが、その発言の背景にあるのは、最近の「無限に続くセキュリティーパッチ」ではなく、常時接続が実現するイノベーションの発展に伴うものだったようだ。バルマー氏は「このようなネットワークでは、セキュリティ問題がまったくなくなる可能性は少なく、今後業界全体がこの問題に取り組む必要性がある」と述べている。

 そのセキュリティー問題を解決するために、R&Dや人材育成への投資が必要であると強く主張するバルマー氏によれば、Microsoftはこれから世界中の大学と提携を結び、共同で研究開発を行っていく予定になっている。

 「IT分野において世界中のどこよりも急速に発展する中国とインドからは、全世界におけるコンピュータサイエンス分野の卒業生のうちの半分が輩出されることになる。しかし、日本はゲームやエンターティメント分野コンテンツ開発の中心。だから、君たちにも世界を変えるチャンスがある」と日本の学生たちにエールを送っている。

 バルマー氏は、学生からの質問にたいする回答で日本がMicrosoftにとってどのような位置付けになっているかについても触れてくれた。

 「私は、日本を世界第二位の経済大国であり重要なマーケットと見ている。顧客ニーズも高く規模も大きいこの市場を体感するために、私自身も年2回ベースで日本に来ている」

 「現在、日本では調布の施設でR&Dを行っている。しかし、電子的なやりとりが可能となった現代でも、膝と膝を交えた議論によってアイディアが生み出されると思っているので、Microsoftとしては、エンジニアを同じ場所に集中させたいと考えている。米国の研究所はビルゲイツのオフィスから徒歩10分ほどのところにあるが、日本にちょっと歩いてというわけにはいかないからね」(バルマー氏)


早稲田大学大隈講堂には、学生、教育関係者を中心にホームページで行った事前登録608名と当日の参加者を併せた約700名の聴衆が集まった

早大の「Microsoft派遣講師」による講義内容とは

 今回、Microsoftと早稲田大学が結んだ提携内容は、早稲田大学の「セキュリティ技術者養成センター」において、Windowsプラットフォーム向けのカリキュラムを実施するというもの。バルマー氏は、Microsoftにおけるインターンシップ制度や共同研究も予定している述べている。

「コンピュータセキュリティ技術カリキュラム」は、来年4月から実施される予定。受講対象は同大学理工学部の学部学生と大学院理工学研究科の大学院生(今後は早稲田大学の他学部、他研究科の学生も対象予定もあり)で、Microsoft関係者が非常勤「講師」として派遣される。バルマー氏は「企業ができないところを大学の研究室が補完してくれる」と提携によるメリットを語っているが、では、Microsoftが行う「特別講義」は早稲田にどのようなメリットをもたらしてくれるのだろうか。

 これまで、早稲田におけるコンピュータ関連カリキュラムは、あくまでコンピュータの基本的な講座(たとえば、1年めでJAVAを習得し2年めでC言語というような、大まかなテーマでまとめた講座を用意している)が用意されているだけで、Windowsなど特定の製品に特化した話はできなかった。

 早稲田がMicrosoftとの提携で期待するのが、現在進行形の最先端の技術について、その分野の専門家から生徒に直接伝授してもらえる講義の実現だ。「学校関係者だけでセキュリティやOSについての話を教授するとなると、情報の機密性などどこまでを話してよいのかなどがあいまいだ。Microsoftと共同で行うことでそういった危険を犯す可能性を回避できる」(早稲田大学理工学部コンピュータ・ネットワーク工学科 中島達夫教授、山名早人助教授)

 Microsoftの特別講師が行うカリキュラムは、現在のところ「Windowsの技術的変遷と内部構造」「Windowsのセキュリティ技術とセキュリティ対応」「NET Frameworkによる実践プログラミング」「プロジェクト管理技術の基礎と実践」の4テーマが予定されている。

 早稲田大学によれば、今回のカリキュラムはまず第一歩であって、今後も様々な研究開発や人材育成のためのプログラムを行っていく予定になっている。また、こうした提携をほかの企業とも積極的に進めていくことも明らかにしている。

 中島氏は、「あくまでも中立という立場で、特定の技術にだけ依存することはない大学のポジションを守っていく」と述べ、WindowsといったひとつのOSに特化するというつもりはなく、オープンソース系などの話も進めていくことを示唆した。


早稲田大学 理工学部コンピュータ・ネットワーク工学科 中島達夫教授(右)と同学部同学科 山名早人助教授(左)

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[遠竹智寿子, ITmedia]

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