News 2003年11月25日 11:55 PM 更新

実用段階に到達?オートノミックの最前線

すでに「オートノミックループ」は製品に実装されている。いつのまにか始まっているオートノミックコンピューティングの時代。しかし、それは「できるところから始める」という幕開けでもあったようだ。

 IBMの最新技術をクライアントにアピールする「IBM オンデマンド・テクノロジー・フォーラム」が11月25日に行われた。別記事でも紹介されているように、IBMの最優先キーワードとなっている「オンデマンドビジネス」を実現する技術の最新動向を紹介する基調講演に続いて、オンデマンド実現のための基幹技術として位置付けられている「オートノミックコンピューティング」「グリッドコンピューティング」をテーマとして取り上げた分科会が行われた。

 どちらの分科会も、それぞれの最新動向の紹介やビジネスへの適用事例が報告されていたが、とくにオートノミックコンピューティングの分科会では、IBMのオートノミックコンピューティング担当バイスプレジデントであるアラン・ガネック氏が、オートノミックコンピューティングのレクチャーに加えて、IBMが実現した自己修復機能のアーキテクチャについて説明を行った。


IBMオートノミックコンピューティング担当バイスプレジデントのアラン・ガネック氏

 デバイスやネットワークインフラなどの「システムリソース」の状態を逐一把握し、発生したイベントやトラブルに対して、システム自らが適切な処理を実行するのがオートノミックコンピューティングに求められる最も基本的な機能。

 この「状態を把握して適切な処理を実行する」ために、オートノミックコンピューティングシステムには、デバイスの情報を「センサー」によって収集する「モニター(監視)機能」、モニターが把握した情報から何が発生しているのかを判断する「アナライズ(分析)機能」、分析した結果から判明した発生状態に最も適した処理を立案する「プランニング(計画)機能」、そして、立案した計画を「エフェクター」を介してシステムリソースに対して行う「エクゼキュート(実行)」機能が必要とされる。

 これら四つの機能をユーザーが設定する「ポリシー」や「アクティビティログ」を参照することで管理するのが「ナレッジ(知識)」機能で、以上の五つの機能をまとめて「オートノミックマネージャー」と呼んでいる。


オートノミックコンピューティングの自律機能を実現する五つのユニットで構成されるオートノミックマネージャー。この下位にセンサーとエフェクターといったインタフェースで接続されるエレメント(システムを構成する個々のリソース)が存在する

 10月に発表された「IBM Tivoli Intelligent ThinkDynamic Orchestrator」と「Tivoli ProvisioningManager」の組み合わせは、オートノミックマネージャーで実行される「監視→分析→計画→実行」といった「オートノミックループ」を実現し、システムの状態に合わせたリソースの再構成を自動で行えるようにした製品。

 また、実装されている「Tivoliオートノミック・モニタリング・エンジン」では、分析フェーズでモニター部が把握したシステムリソースの情報をシンプトン・サービスに蓄積されたケーススタディと照らし合わせて「原因」を推測する機能や、計画フェースで立案した処理を設定されているポリシーと比較して実行が許可できるか「判断」する機能を実装するべく、現在開発が進められている。

 IBMでは、異なるベンダーやシステムから発行される様々なフォーマットのログデータから、一貫した情報を取得して短時間で状態を分析するために、共通の統一フォーマット「コモン・ベース・イベント」(CBE)を提唱している。これまでは、ログ出力ツール間で共通のインタフェースが存在しなかったために、相互に関連性のないログを解析して時間がかかっていた分析フェーズが、共通のフォーマットにそろえることで、短時間でできることが期待されている。

 このCBEで出力されるログファイルを、現在開発しているシンプソンのデータベースやポリシーエンジンとリンクしたTiovoliオートノミック・モニタリング・エンジンに組み合わせたものが、今回のフォーラムでガネック氏が紹介した「IBMの自己修復システム」の概要である。


ガネック氏が講演で紹介した自己修復システムの構成。異なるシステムデバイスから出力されたログは、ジェネリックアダプタを介して共通のフォーマット「CBE」に変換される。このログを参照してデータベースとリンクしたオートノミックループが、適切な復帰処理をシステムに対して実行する

 「管理不能なまでに複雑化したシステムにおいて、増大する管理コストを削減する」ために、オートノミックコンピューティングの開発は進められているが、「IBM Tivoli Intelligent ThinkDynamic Orchestrator」と「Tivoli ProvisioningManager」の導入によって、「オートノミックループ」が実際の製品に実装される段階にまで到達した。

 しかし、本当の意味でのオートノミックコンピューティングの幕開けまでにはまだまだ時間が必要、というのがIBMの見解である。

 IBMが今年の春に発表したオートノミックコンピューティングの定義書とも言うべき「オートノミック・コンピューティング・アーキテクチャーに関するブループリント」には、オートノミックコンピューティングの発達段階として「基礎」「管理」「予測」「適応」「自律」の五段階が記述されている。

 今年の2月に行われたIBM FORUM 2003でデモンストレーションが行われていた「HotRod」は第四段階「適応」を実現した世界初のシステムであったが、IBMコンサルティングサービスのオートノミックコンピューティング担当技術理事の高安啓至氏は、「まだ第三段階に差し掛かったところ」と、ガネック氏の講演に先駆けて行われた「オートノミックコンピューティング技術最新動向〜ビジョンから実践へ〜」の講演の中で述べている。

 高安氏によると、オートノミックコンピューティングの導入は「できるところから段階的に」進めていくようになるという。「企業のシステムへ部分的に導入していき、そこから急速に範囲が広がり、最終的には全社システムがオートノミックコンピューティングに入れ替わるようになる」(高安氏)

 ただし、その時期はまだ明らかになっていない。高安氏は「自律的段階の実現には数年かかる」と述べているが、会場でオートノミックコンピューティングのデモを行っていた担当者に聞いてみると「数年で実現できればいいが、まだ正確に予測できる段階ではない」と答えている。着実にその時代は近づきつつあるが、その入り口はまだ姿を見せていない、というのが2003年におけるオートノミックコンピューティング、ひいてはIBMの進めるオンデマンドビジネスの発達段階ということがいえるだろうか。


高安氏の講演で示されたオートノミックコンピューティングの発達段階。発達段階があがるにつれ、技術志向で特定の人間しか使えなかったオートノミックコンピューティングが、誰でもポリシーを設定できる「ビジネス志向」になると高安氏は述べる

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[長浜和也, ITmedia]

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