News:アンカーデスク | 2003年12月22日 06:13 PM 更新 |
メインはカーオーディオへの応用だが、ちゃんと自前でスピーカーの開発を行なっている。今年のCEATEC JAPANで発表されたのは、超薄膜マグネシウムをコーンに使ったドライバである。従来のプレス技術では、マグネシウムは0.5ミリ厚が最薄と言われていたが、これを1/10の0.05ミリにまで延ばして量産化できるようにした。金属コーンは堅牢な割には軽量ということで、将来性のある素材だ。
また同時に、断面が四角い電線でボイスコイルを作るという技術は面白い。これは断面を四角くすれば、同じ容積ですき間なくみっちり巻けるということである。密度が増せば、それだけ高感度にできる。考えてみれば当たり前の話なのだが、そんな当たり前のようなところに気が付くところが、発明というものだ。
振動板ということでは、駆動点をセンターからずらして配置した日本ビクターの「ダイナミックバランスド・オブリコーン」も興味深い。元々はアルミ製コーン特有の共振点を消すために考案された方法だが、音像の位置を実際のスピーカー位置からずらすことが可能だという。
例えばテレビの下にスピーカーを埋め込んだとしたら、画面よりも下から音が聞こえてしまう。だがこの技術をうまく使えば、スピーカーは下にあっても、ちゃんと画面の位置から音が聞こえるよう定位させることができる。これは今後、テレビの大画面化が進むほど、注目される技術だろう。
画面から音、と聞いて、NECの「SoundVu」を思い浮かべる方も多いだろう。この冬モデル用CMで、さかんに流れている。これは同社のVALUESTAR FSなどで採用されている、液晶画面パネルそのものを振動させて音を出すというシステムだ。
残念ながらこれを開発したのは、フラットスピーカー技術で知られる英国NXT社である(関連記事)。だが実際に製品化したNECにも、何かしらのチャンスがあると言いたい。ただし数が捌けるコンシューマに対して製品を供給しなければ、PCだけではなかなか難しいところだろう。
同じくCMでご覧になった方も多いと思うが、松下電器産業のMDと組み合わせて使うシースルースピーカー「エアードライブ」も興味深い。コンシューマー向けゆえ技術的な解説はあまりお目にかかれないが、これは密閉された透明な振動パックの中に、ポンプで空気を送りこむことで音を出す仕組みだという。もちろんそのポンプから出る空気自体が音信号になっているわけである。
今のところ対象が小型MDということで、音の方はさほど評価に値するようなものではない。だが何しろスピーカーというものを劇的に薄型化できる技術というのは、ディスプレイ装置の薄型化傾向にマッチする。振動素材や容積、内部に充てんするガスなど、いろいろな工夫次第では、大化けする可能性がある技術だ。
従来のスピーカーの概念を変えるものとして注目されるのが、東芝の骨伝導を利用した枕型スピーカー「プライベート音枕(RLX-P1)」にも注目したい。もともと骨伝導スピーカーは、補聴器の分野で古くからある技術だが、これをコンシューマーに転用することで新しいスタイルになるかもしれない。
原理的に頭部に密着させなければならないため、「枕」という形に落ち着いたのだろうが、ケータイでも骨伝導スピーカーを実装したモデルも出てきている。空気振動以外の音伝達方法として、ポータブルオーディオ分野での将来性に期待したい。
フラットテレビにとって必要な要素とは?
来年から数年の間、コンシューマー家電では、フラットテレビがにぎわうことだろう。ホンネを言えば、大画面化、低価格化は多くの消費者が歓迎するところだから、世界競争でもなんでも勝手にやっていただければいい。だが単にデカい、安いだけではアイデンティティに関わると考えているメーカーが、自社製品を差別化したいのであれば、独自のオーディオ技術は必須だ。
すでに時代はサラウンドだろう、別売のものを買えばいい、という意見もあるだろう。だが筆者は、例え放送がフルでサラウンド化したとしても(そうは思えないが)、日本の家庭内にあるテレビすべてにサラウンドシステムをくっつけるのには無理だと思っている。だから同時に重要になるのは、前方のみでサラウンドが実現できる、バーチャルサラウンド技術との組み合わせだ。
これに関しては、さまざまなところで開発中であり、まだまだ多くを語れない状態にある。時期が来たら、また述べるとしよう。
小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
[小寺信良, ITmedia]
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