指でなぞるとびっくり! 驚きの“渦巻き錯視”って知ってる?:新連載・コンピュータで“錯視”の謎に迫る
ぐるぐる渦巻いているように見えるけど、実は渦巻きじゃなくて円が重なっているだけ……!?
下の画像、“黒と白のねじれたひも”が中心に向かって反時計回りに渦巻いているように見えませんか? しかし、それは目の錯覚によるもの。本当は円の形をした黒と白のねじれたひもが、同心円(中心が同じ位置にある2つ以上の円)に並んでいるのです!
そう言われても、にわかには信じられないかもしれません。試しに渦巻きの中にある線のどれか1本を、指でゆっくりなぞってみてください。驚くべきことに、“らせん”ではなく“円”になっていることが確認できると思います。
この渦巻き錯視が発見されたのは、今からおよそ100年前。1908年にイギリスの心理学者であるジェームズ・フレーザーが、「フレーザー錯視」あるいは「フレーザーの渦巻き錯視」と呼ばれている錯視を発表しました(ただし、上図はフレーザーの論文の図を参考にコンピュータで作画したものです)。
こういった目の錯覚のことを「錯視」(さくし)といいます。錯視にはいろいろなタイプのものがありますが、まずはこの「渦巻き錯視」と呼ばれているものを紹介します。
連載:コンピュータで“錯視”の謎に迫る
あなたが今見ているものは、脳がだまされて見えているだけかも……。この連載では、数学やコンピュータの技術を使って目に錯覚を起こしたり、錯覚を取り除いたり──。テクノロジーでひもとく不思議な「錯視」の世界をご紹介します。
「フラクタル島」が引き起こす錯視
フレーザーがこの渦巻き錯視に関する論文を発表してから、渦巻き錯視に関する研究が進められました。中でも日本の心理学者である北岡明佳さんらの研究は大変注目すべきものです。それについてはまた後で述べることにして、ここでは“数学”に話を向けましょう。
みなさんは小学校で算数、中学からは数学を勉強してきました。そのとき、こんなことを思いませんでしたか?
「数学って面白くない、何の役に立つのだろう?」
でも、数学ってとても面白いのです。それにいろいろなことに使えます。誰もが思い付かないようなこともできるのです。
皆さんはフラクタル幾何学(きかがく)という言葉を聞いたことはありませんか? 例えば複雑な海岸線のように、細部に至るまでごちゃごちゃとしているような図形を研究する数学の一分野です。
特に単純なパターンの操作を繰り返して作られる人工的なフラクタル図形を「自己相似集合」といい、フラクタル幾何学の重要な研究対象になっています。単純な操作の繰り返しなのに、これが不思議なことに自然界に存在するものの形状に類似したものになっていることもあるのです。
今回は「フラクタル島」と呼ばれている、次のようなパターン操作の繰り返しでできる自己相似集合に着目します。
この図だけでは少し分かりにくいと思いますので、次のアニメーションをご覧頂きましょう.
このフラクタル島を少し縦長にして同心円状に配列すると、驚くべきことに次のような渦巻き錯視ができることを私と共同研究者の新井しのぶは発見しました。この錯視を錯視研究で有名な北岡明佳さんに見ていただいたところ、早速「フラクタル螺旋(らせん)錯視」と命名してくれました。
フラクタル螺旋錯視は非常に錯視量が多い渦巻き錯視です。実際に渦巻きが急速に中心に向かっているように知覚されます。
このように数学が新しい錯視図形の作成に役立つこともあるわけです。しかしこれはほんの序の口。数学の力はもっとすごいのです。次回はそれをお見せしましょう。
著者:新井仁之(あらい ひとし)
東京大学大学院数理科学研究科・教授、理学博士。
横浜市生まれ。早稲田大学、東北大学を経て現職。
視覚と錯視の数学的新理論の研究により、平成20年度科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)を受賞、また1997年に複素解析と調和解析の研究で日本数学会賞春季賞を受賞。
この記事は、新井仁之教授が自身のWebサイトに掲載した「目の錯覚と魔法の数学 第1回」(2010年7月1日掲載)を、ITmedia NEWS編集部で一部編集・再構成し、転載したものです。
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