「ロボットというと、洗濯も掃除も炊事もしてくれるメイドさんのようなロボットをイメージする人が結構いる。だけど、そんなロボットは実現しない」――「ロボホン」「ロビ2」などの開発に携わった高橋智隆さん(ロボ・ガレージ代表取締役)は7月21日、都内で開催された「SoftBank World 2017」でこう述べた。
Pepperの誕生から大きな盛り上がりをみせているヒューマノイドロボット。だが、そこへは2つの期待と誤解が入り交じっていると高橋さんは言う。それは「人間の手伝いができる」ということと、「複数のことを同時にできる」ということだ。
「お手伝いロボットが実現すると思っている人がたくさんいる。でも実際は、人間が簡単そうに思える作業をロボットはできない。ぶっちゃけ、洗濯物1つたためない。2013年、Googleは『IT産業の次はロボットだ』と、世界中のロボット会社を買いあさった。でも数年後、成果を見てみれば散々だった」
「洗濯物をたたもうかと思えば、くしゃくしゃの布切れのどこをつかもうかと迷い、ようやくつまみ上げたと思ったら、それがパンツなのか、靴下なのか、Tシャツなのかを悩み始める。Tシャツだと分かっても、今度はどっちが前でどっちが後ろか、裏なのか表なのかと考え始める。それくらい、ロボットが作業するということは難しい」
そして、たとえこれらの技術的な困難を乗り越えたとしても、複数の仕事を同時にこなすことができないと高橋さんは考える。
「例えば、掃除をしているロボットに『おなかがすいたから料理を作って』といっても、『今掃除をしているので待ってください』と返されるだろう。これは、現在われわれが、トースターと洗濯機と掃除機を別々の機械として扱い、別々の場所に置いていることと同じ。それらを集約したら、1つずつしか処理できないのは当たり前のことで、そもそも複数の機能を持つロボットを1体のロボットにまとめる必要がない」
このことは、AI(人工知能)でもいえるという。昨今「AI」というと「人間の力を超えるすごいもの」という印象を持つ人がいるが、実はそうではない。AIが人間を超える力を発揮できるのは部分的なものにすぎず、全てのことを人間以上に行うことはできないという。
AIの話をすると必ず「人間の仕事がなくなる?」という話題になるが「それも違う」。例えば、牛丼屋さんのアルバイトは、ロボットにはできない。牛丼屋さんで働く人は、入店したお客さんにまず「いらっしゃいませ」と声をかけ、お水を出し、注文を聞いて、牛丼を運び、「ありがとうございました」と言って、片付けをする――こんな高度なことを1台のロボットが時給800〜1000円でできるわけがないと高橋さんは言う。
では、作業ができないヒト型ロボットは何の役に立つのか。この問いに対し、これまでは「人間と機械との間を持つもの」と言われることもあったが、その役割はすでにスマートフォンが担っている。「タッチパネルも、モーションセンサーも、スマートフォンのユーザーインタフェースは完璧だ。ただ、1つ、うまく機能していないものがある。それは音声認識機能だ」(高橋さん)。
「ロボットは対話によって、個人情報を収集し、それらの情報からパーソナライズされたサービスを提供する。そうすることで、信頼関係を築くことができ、また人間はロボットに話しかけるという循環が生まれる」(高橋智隆さん)
スマホに内蔵されている音声認識機能は、徐々に性能が向上している。それなのに、多くの人がこの機能を使っていないのはなぜか。この理由を、高橋さんは「スマホがしゃべりかけたくなるような形をしていないからだ」と指摘する。「人間は、相手が賢いかどうかでしゃべりかけるかどうかを決めているわけではない」。
高橋さんは想像する――「アニメだと、『ゲゲゲの鬼太郎』の目玉のおやじや、『魔女の宅急便』のジジなど、小さな物知りのキャラクターが主人公を助けてくれるという設定がみられる。そんな存在にヒューマノイドロボットはなるだろう。そして、そのロボットと苦楽を共にしたこと自体が、本当の価値になっていくだろう」。
(太田智美)
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