そのメーカーの「工場」は、普通の家の中にある。
自宅マンションの一室で、彼は作業机に向かう。基板に部品を並べ、トースターで半田付けし、パーツを組み上げる。「自分たちの手で作り、届けるところまでやりたい」。
メーカー名はJavasparrow。IoT(Internet of Things)機器を開発するハードウェア企業だ。IoTメーカー・Cerevo出身エンジニアの國舛等志さんと、デザイナーの稲田祐介さんが今年8月、2人で創業した。
これまでは受託開発を手掛けてきた同社。11月15日、初めてのオリジナル製品「wesign」を発売した。
wesignは、円筒形の透明なガラスに入った小さな照明で、Wi-Fi通信機能が備わっている。2つペアになっており、片方の照明をともすと、そのことがネット経由でもう片方に伝わり、もう片方の照明にも淡い光がともる。LEDフィラメントが上下に1つずつ備わっており、上部は自分の照明。下部は相手の照明がついた時にともる仕組みだ。
遠距離恋愛の恋人同士や単身赴任の父親と家族など、遠隔地に住む大事な人同士が、相手の存在を感じられる家電として設計した。下部の照明がともると「あの人が帰ってきた」と分かり、消えると、「もう寝るんだな」と分かる。消えたのを見て「おやすみなさい」のメールを打つなど、コミュニケーションのトリガーにもなる。
ペアリング済みの状態で出荷するため、自宅の無線LANにつなげばすぐ使え、スマートフォンによる操作などは不要。オンオフのスイッチはあえて物理ボタンを採用し、間接照明として置いて違和感のない、暮らしに溶け込む形を目指した。価格は2つセットで2万8000円(税別)。
工場は「自宅」
wesignは日本製。「工場」は、稲田さんが住む千葉県のマンションと、國舛さんが住む都内のアパートだ。
主な作業場は稲田さんの自室だ。山積みになった部品を取り出し、半田付けや組み立て、梱包を行う。國舛家のリビングでは、スイッチの検品作業を行っている。
製造を業者に依頼することもできるが、あえて自分たちの手で作ることで、「てあと」――手の形の残る商品を目指した。「革の財布のように、長く使えて人の手で修繕できる製品を目指している。そのためにも作り方は知っておきたい。すごく非効率だが、企画から販売まで自分の手でやってみたかった」(國舛さん)
業者に製造を依頼すると、100個単位などまとまった数の発注する必要があるが、自宅での「自作」なら、柔軟に生産調整でき、在庫リスクを減らせることもメリット。「品質管理もばっちり」(稲田さん)だ。
とはいえ2人とも製造は素人で、苦労した。当初、半田付けはホットプレートで行っていたが、白い基板が熱で黄ばんでしまい、温度を下げると半田が溶けない。高い温度で短時間にしてみたら焦げてしまったため、ホットプレートはあきらめ、トースターに変更する――など、試行錯誤したという。
同居の家族にも気を遣う。「デスクからあふれてしまった書類や部品は、大ごとになる前にこまめに整理し、進んで掃除をすることで、理解を得られていると思う」(國舛さん)。「2歳の子供がいるので、妻からは、危険なものを子供の手の届かないところで管理してほしいと言われている」(稲田さん)
同社はオフィスもない。チャットツールや電話でコミュニケーションしているほか、予定はオンラインカレンダーで共有。2人の家の間にあるカフェでミーティングしたり、お互いの家に行き来することもあるという。
普通の家の一室で、個人がIoT製品を手作りする。「今だからできる」ことだと稲田さんは言う。IoTブームの高まりで、通信チップや基板などのパーツは、小ロットでも簡単に手に入るようになった。製造のために特殊な道具が必要になっても、3Dプリンタで自作することができる。「作りやすい世の中にはなったと思う」(稲田さん)。
まずは100個生産し、反応を見ながら増産していく計画だ。自社サイトから通販するほか、インテリアショップなどにも売り込んでいきたいという。
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