一方、ゆっくりと映画を見るならば「ソフト」モードに切り替えるといい。この画質モードでは色温度が6500Kまで下がり、コントラストが若干下がって、輪郭強調も行われなくなる。色温度が下がったぶん、色濃度がマイナス10ポイントほどに設定されるため、肌の色乗りは「スタンダード」モードとあまり変わらないようバランスが取られているようだ。
もっとも異なるのは白ピーク側で、「スタンダード」では輪郭補正の結果、白飛びしたように見えるところが、「ソフト」ではまったく感じられない。シャドウ、ハイライトともに素直な階調表現で、メリハリ感やシャープ感はないものの、自然でS/N感のよい映像を見せる。
今回は市販HD DVDソフトから、「ブレイブストーリー」(ワーナー・ホーム・ビデオ)、「オペラ座の怪人」(北米版)、「virtual trip TAHITI HD SPECIAL EDITION」(以下、TAHITI:ポニーキャニオン)をピックアップしてチェックしてみた。
ブレイブストーリーは日本のアニメらしい線画とフラットな塗りの動画、水彩画調の背景で構成される映像のため、背景以外では本機の特徴である階調の豊かさは生きてこない。しかし、明暗の表現が正確なこともあり、自然で柔らかな筆致の絵が楽しめる。パッと見の精細感を引き出そうとしていないことが、線の周囲を柔らかく見せてくれる。
あまり目立たないが、CG制作のため、部分的に単色のグラデーションで立体感を引き出している部分がある。登場人物の衣服や髪の毛の部分にある表現だが、ここでの微妙な階調がきちんと描けているのは、本機の実力の高さを示している。もう少しメリハリがあり、色温度も高めのTV調の絵が欲しいならば、「スタンダード」モードに切り替えれば望みの画質が得られるはずだ。
一方、オペラ座の怪人とのマッチングのよさは格別だ。主人公クリスティーヌが初めてプリマに抜擢され、アリアを歌うシーン。衣装の細やかなテクスチャが立体的に表現され、金属の反射やスポットライトのカメラへの映り込みによる白ピークもキレイに伸びる。豊かな立体感と暖かみのある人肌、それに絢爛豪華なオペラの世界が見事に描き分けられた。コントラスト比はスペック上1000:1だが、コントラスト拡張機能も相まって幅広い輝度レンジを上手に見せてくれた。
同様の傾向はBDレコーダーにエアチェックしてあった「きみに読む物語」でも見ることができる。ちょっと古めの映画を意識した、色のノリがいい暖かな色調の映画と実によく合うのだ。加えてブレイブストーリーのような、どちらかといえばTV的な絵作りの映像にも合う。風景ものの環境ビデオソフトなどにも、ソフトモードはピッタリだ。
つまり、きちんと作品として仕上げられた映像ソースのよさを素直に引き出してくれるのが「ソフト」モード、そして本機の最大の長所なのである。
さて、本機の視聴前、筆者はこの製品の実力に関して、少々甘く見積もり過ぎていたようだ。当初は「PC用ディスプレイが、どこまで映像作品向けディスプレイとして使えるか?」といったテーマで見ていたが、この見方は大きな間違いであると、視聴を始めてスグに気付いた。
比べるべきはTVやプロジェクターといったAV用ディスプレイなのである。ナナオのFORIS.TVは店頭モード(店頭の視聴環境で見栄えするように映像処理/調整されたモード)を捨て、デザインと画の素直さ、階調の正確な描き分け、それに適切なプリセットモードなど、製品の実力で勝負を挑んだ力作だった。
FORIS.TVの上位機と本機は液晶パネルの駆動方式が異なり、それは応答速度やコントラストといったスペックだけでなく、暗部階調の応答性といった細かな絵作りに関わる違いもある。本機が採用するVA系の液晶パネルは黒からの輝度の立ち上がり部分がリニアになりにくく、黒がつぶれて階調が見えにくくなりやすい。しかし、そうした部分も含めて本機は上手に画をまとめている。
PC用ディスプレイとして高画質か否かという視点ではなく、AV用ディスプレイとして十分に説得力を持つ製品というのが個人的な結論だ。
PC用ディスプレイだという遠慮した目で、この製品を見る必要はない。映像用ディスプレイとして評価したい画質を備えているからだ。PC用ディスプレイのオマケとしてHDMIが付いているわけではないことを、映像を繰り返し見るたびに実感することだろう。
協力:株式会社東芝「HDD DVD TOP」
日本ビクター株式会社「ビデオカメラTOP」
株式会社ポニーキャニオン「virtual trip TAHITI HD SPECIAL EDITION」
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提供:株式会社ナナオ
制作:ITmedia +D 編集部/掲載内容有効期限:2007年3月31日