新世代EIZOディスプレイ「FORIS FS2333」が“超見える”理由暗部が浮かび上がる新技術“Smart Insight”の開発者に聞く(1/4 ページ)

EIZOのエンターテインメント液晶ディスプレイ「FORIS」は、ラテン語で「扉」を意味するが、そのニューモデル「FORIS FS2333」はまさにディスプレイの新しい扉を開くかのような新技術「Smart Insight」を搭載してきた。今まで暗くて見えなかった情報が自然に浮かび上がってくる新しい映像体験はどのように生まれてきたのか? Smart Insightを作り出した開発者にうかがった。

» 2012年06月18日 10時00分 公開
[ITmedia]
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ついにベールを脱いだ“Smart monitor”

 “Smart monitor  Unveiled 06.14”

 この文字列とディスプレイらしき謎の写真がナナオのWebサイトに掲載されたのは、2012年5月17日のこと。6月14日に明かされるであろう“Smart monitor”の正体について、ディスプレイマニアや業界関係者の間でさまざまな憶測を呼んだ。

ナナオのWebサイトに現れた謎の文字と写真が意味するものは……

 そして迎えた運命の6月14日。ナナオが満を持して発表したのは、エンターテインメント液晶ディスプレイ「FORIS」シリーズの新モデル「FORIS FS2333」だった。

 23型フルHD液晶ディスプレイの人気機種「FORIS FS2332」をさらに進化・発展させた上で、液晶ディスプレイ製品としては初めての暗部視認性向上技術「Smart Insight」を搭載しているのが大きな特長となる。これこそ、ナナオがFORIS FS2333を“Smart monitor”と呼ぶゆえんだ。

ナナオの“Smart monitor”こと「FORIS FS2333」。広視野角なIPS方式の23型フルHD液晶パネルを引き続き採用し、豊富な入力端子や、さらに充実した機能を備える

 Smart Insightとは、同社独自の手法によって、表示する映像の視認性をリアルタイムに向上させる技術のこと。具体的には「液晶ディスプレイの表示でハイダイナミックレンジ(HDR)のような画像を実現する技術」といえば分かりやすいだろうか。Smart Insightを使うことで、もとの映像では暗くて見えにくかった部分が明るく見えるようになり、明るいほうの階調もしっかりと保つことで、映像全体が自然で視認性のよい表示になる。

 この、ありそうでなかった新技術はどのように生まれたのか、どのような活用を想定しているのか、そもそもなぜFORIS FS2333に搭載したのか……、今回はSmart Insightに関するさまざまな疑問を開発者に直接うかがった。取材に応じていただいたのは、同社ASIC開発部の北正樹氏と安倍玲央氏の2名だ(聞き手:ITmedia +D編集部)。

これまでの高画質化技術と何が違うのか?

―― Smart Insightは映像の暗部を明るくして見えやすくする視認性向上技術とのことですが、最近ではさまざまな液晶ディスプレイで同じような技術を見かけます。Smart Insightはこれまでの技術と何が違うのでしょうか?

Smart Insightの開発を取りまとめた北正樹氏

北氏 従来の暗部を明るく見せる高画質化技術は、ガンマやヒストグラムの変換に頼っていました。しかし、この方法で暗部の階調をそのまま持ち上げて画面一律に明るくすると、輪郭がぼやけたり、色があせて白っぽくなったり、といった弊害が出てしまいます。

 Smart Insightはこうした弊害を極力抑えて、自然に明るく見せることにこだわった高画質化技術です。具体的には、暗い部分のディテールをはっきり見せつつ、明るい部分の色もきっちり残すことができるので、自然で視認性が高い表示になります。

 局所的なコントラストは保持しつつ、映像のシーンに応じて1ピクセル単位で動的に細かく制御し、常に最適な表示になるよう明るさを調整しているのがポイントです。

Smart Insightとガンマ補正の違い
機能 暗部の視認性向上 シーンに応じた動的制御
Smart Insight
ガンマ補正 ×

元画像は暗すぎて暗部がほとんど分からないが……

左がガンマ補正をかけた状態。ガンマを上げることで画面全体は明るくなるが、暗い領域はぼんやりとしてしまっている。右がSmart Insightをオンにした状態。暗い領域が細部まではっきりしており、しかも明るい部分の色も鮮やかだ。隣接するピクセルを分析し、動的に明るさを制御している

FPSやRTSで絶大な威力を発揮するSmart Insight

―― 確かにその効果は、誰の目にも明らかですね。実際に試してみると、暗部にこれだけの情報が詰まっていたのかと驚かされますし、自然に明るい映像として成立していて、コントラストもあるので、見ていて違和感がありません。この技術はどういった用途で使うことを想定しているのでしょうか?

Smart Insightの細かな仕様を作り込んだ安倍氏

安倍氏 FORIS FS2333でこの技術が有効な用途は大きく3つあります。ゲーム、写真鑑賞、映像鑑賞です。

 この中で特に効果が高いのはゲーム用途になります。当社がスポンサーをしているFnaticという海外プロゲーマーの人気チームがあるのですが、彼らに評価画像や実機を送って試してもらいながら、Smart Insightの強度などのパラメータを調整して、特別なゲームモードとして実装しました。

 Smart Insightは表示する映像コンテンツやユーザーの好みに応じて5段階(オフも含めると6段階)に調整できるようにしましたが、ほかの画質モードでの最大強度「5」がゲームモードの中間くらいの設定です。つまり、強くSmart Insightをかけて、ゲーム画面をとにかく明るくしています。これこそがFnaticの要望に応えたe-Sports用の特別チューンです。

 Fnaticのプレイヤーはe-Sportsの大会に出ると、暗所に隠れた対戦相手などを少しでも早く発見して対処できるよう、輝度もガンマも最大値まで上げて画面を非常に明るく設定してプレイしているそうです。しかし、この状態では先ほど話に出たように映像がぼんやりしたり、色あせてしまう問題がありました。

 今回、彼らにSmart Insightを試してもらったところ、暗部が非常に見やすく、かつ色が鮮やかなままというのが気に入ってもらえました。前モデルのFORIS FS2332から大きく進化したとの評価をいただいています。

―― ゲームモードではSmart Insightの強度がRTSやFPSといったゲームジャンルになっているのもユニークですね。

※1 RTS(Real Time Strategy)はリアルタイムで進行するシミュレーションゲーム、FPS(First Person Shooting)は一人称視点のシューティングゲーム

安倍氏 今回は実際にFnaticのRTSチームとFPSチームに評価してもらい、それぞれ最適なチューニングにしています。Smart Insightはほかのゲームジャンルにも使えますが、一番メリットを感じていただけるのは競技性の高いRTSやFPSです。標準の設定は強度3の「RTS(High)/FPS(Low)」ですが、FPSでは瞬時の判断が求められるので特別に明るく設定しました。

 もっとも、1人でのんびり楽しむようなオフラインのRPGなどでは、この機能をオフにしても構わないでしょう。プレイするゲームによって、強度を調整してお使いください。

―― Smart Insightは複雑な処理をしているようですが、FPSやRTSで活用できるということは映像信号の入力から出力までの遅延時間がないと考えていいですか?

北氏 はい。フルHDでゲームをプレイしたとして、遅延時間は1フレームを大きく下回る1080ラインのほんの数ライン程度(公称値で表示遅延0.05フレーム未満)です。これは人間がまず知覚できない、ほぼゼロといってもいい値なので、FPSなどシビアな操作が必要なゲームでも問題なく使えます。この点は開発を始める前からこだわりました。

ゲームモードにおけるSmart Insightの強度
強度 オフ 1(弱) 2(弱〜中) 3(中) 4(中〜強) 5(強)
設定名 オフ RTS(Low) RTS(Medium) RTS(High)/ FPS(Low) FPS(Medium) FPS(High)

ワールドワイドで高い人気を誇るFPSシリーズ「コール オブ デューティ モダン・ウォーフェア 3」(日本版の販売はスクウェア・エニックス)のプレイステーション 3版でSmart Insightの強度を試した。カラーモードはゲームモードだ。左がオフ、右がRTS(Low)の設定

左がRTS(Medium)、右がRTS(High)/FPS(Low)の設定。Smart Insightの強度を上げると、暗部に隠れたキャラクターが明るく見えやすくなり、プレイしやすくなるのが分かる

左がFPS(Medium)、FPS(High)の設定。強度が最も高いFPS(High)は昼間の屋外のように明るい。特にマルチプレイの対戦で効果は絶大だ。シングルプレイではオフにして暗闇の恐怖を含めたゲーム世界を満喫するのもいいだろう

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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia +D 編集部/掲載内容有効期限:2013年3月31日