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» 2016年11月29日 10時00分 UPDATE

【対談】Fusion 360エバンジェリスト×AR/VRプログラマー:3D CADとAR/VRの融合で加速するモノ作り

AR/VRのトレンドは、ゲームや映像コンテンツのみならず、モノ作りにも大きな影響を与えつつある。この対談ではオートデスクFusion 360エバンジェリストの藤村祐爾氏、AR/VRの最新動向に詳しいプログラマーである中村薫氏が、3D CADとAR/VRの連携により製造業がどのように変わっていこうとしているのかを語る。

[鈴木淳也(取材協力:BBソフトサービス),PR/ITmedia]
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 2016年を「VR元年」と呼ぶIT業界関係者は多い。

 PC向けの高性能モデルである「Oculus Rift」や「HTC Vive」が登場し、「Gear VR」のようなスマートフォン向けモデル、そして家庭用ゲーム機と組み合わせるモデル「PlayStation VR」が10月13日に発売され、ようやく広く一般にも「仮想現実感(VR:Virtual Reality)」対応ヘッドマウントディスプレイ(HMD)の世界が認知されつつある。

 一方、「拡張現実感(AR:Augmented Reality)」の世界にも注目したい。ARを活用したスマートフォン向けゲーム「Pokemon GO」の大ヒットをはじめ、Microsoftはスタンドアロンで動作するWindows 10搭載の「ホログラフィックコンピューター」こと「HoloLens」を開発しており、日本でも2016年内にプレオーダーが始まる予定だ。

 MicrosoftはHoloLensで、ARより進んだ概念として、現実世界と仮想現実感(VR)が融合した「複合現実感(MR:Mixed Reality)」の実現を目指している。また、このMRの世界を広く普及させるため、HoloLensのコア技術「Windows Holographic」をサードパーティーにも開放しており、2017年後半には多くのメーカーから対応製品が登場する見込みだ。

 サードパーティー製のWindows Holographic対応デバイスはVR HMDとして299ドルから提供されるとのことで、Windows 10搭載PCとの組み合わせにより比較的安価に多くのユーザーが体感可能になるだろう。コンテンツやアプリケーション次第だが、2〜3年ほどで比較的大きな市場へと急成長する可能性がある。

 このようにコンシューマー分野での活用が目立つAR/VRだが、最近ではこれを業務分野、いわゆるB2Bの世界に活用できないかという試みが広がっている。航空機の整備現場、倉庫管理などのロジスティクス分野など、用途はさまざまだが、新しい技術の有用性に着目した企業が続々と実験導入を始めている状況だ。

 もちろん、モノ作りの現場においてもAR/VRの活用は進んでいる。かつては導入コストなどの問題から参入ハードルが高かった製造業だが、最近では数人程度のスタートアップ企業がアイデアを片手に参入してきてユニークな製品を投入して話題になる事例も増えてきた。

 今製造業とVRの世界に何が起きているのか、これから何が起きようとしているのか。今回は、こうした市場向けに戦略的なCAD/CAMソフトウェア「Fusion 360」を投入するオートデスクの藤村祐爾氏と、AR/VR関連の最新動向に詳しいNatural Softwareのプログラマーである中村薫氏の2人に話をうかがった。

photo Natural Software/TMCN 中村薫氏(左)。オートデスク インダストリーストラテジー&マーケティング Fusion 360エヴァンジェリスト 藤村祐爾氏(右)

3D CADをもっと身近にするFusion 360とAR/VRの世界

―― CAD/CAM市場で注目されているという「Fusion 360」は、従来のソフトと何が違うのでしょうか?

photo 藤村祐爾氏

藤村 Fusion 360は従来の3D CAD(Computer Aided Design)に加え、1つのプラットフォーム内でシミュレーションまでを含めた全ての作業が行えるソフトウェアです。これまで別途用意されていたCAM(Computer Aided Manufacturing)が統合されているので、デザインから制作まで全ての作業が行えます。「Fusion」という名前自体「融合」という意味ですから、さまざまな要素を混ぜ合わせて1つということです。

 安価であることもユニークです。3年前くらいに3Dプリンタが出てきて世の中で騒がれましたが、実際に使ってみると3Dデータが必要で、それをきちんと作るにはどうするかと調べると、ソフトウェアだけで100〜200万円もする。これでは最初のハードルが高すぎて世の中に3Dデータが広まらないと考え、Fusion 360を投入しました。

 また新しい企業体系としてスタートアップがいろいろ出てきて、若い世代がアイデアとシンプルな技術でイノベーティブなものを作ってしまう。関わっている人数も2〜3人程度で、大企業でなければ家電を作れないという時代ではなくなりました。

 ただ、こうしたスタートアップが「初期費用として500万円」を用意するのは難しく、参入障壁になってしまいます。そこで応援の意味も込めて、使いやすいプラットフォームを安価に提供し、3Dができる人を増やそうというのが狙いです。1000万円以下の売上の企業は無償で利用でき、個人利用も無料です。学生も含め、Fusion 360を広く活用していただきたいと考えています。

 もう一つ、Fusion 360で補足すると、クラウドという特徴もあります。AutodeskはAmazon.comのAWS(Amazon Web Services)とパートナーを組んでいて、データの保存などはクラウド上に行います。これにより、例えばPCが壊れても、自分の目の前に普段使いのPCがなくても、インターネットさえつながる環境があれば、自分のデータをどこからでも読み込んで見られるのです。

 クラウドではセキュリティの懸念を抱くかもしれませんが、Fusion 360では世界に先駆けて3Dデータ制作とクラウドの融合を進めています。データの保存や共有に限らず、PCのパフォーマンスが足りない場合でもクラウドの力を借りれば処理が可能になるなど、大きなメリットが得られます。

photo 「Fusion 360」

―― Fusion 360とVRの関係性について教えてください。

藤村 VRが昨今注目を浴びているのはハードウェア側の技術が向上してきて、自分が見ている視点とあまり変わらない動きを再現できるようになってきたからだと考えています。3Dデータを作ること自体は何十年も前から可能でしたが、それを落とし込むためのハードウェアが足りませんでした。それが、ようやく出そろってきたという話です。

 今まで業務用のVR環境というと、専用の部屋を用意してセンサーを配置して「はい1000万円です」というビジネスが多かったのです。ところが、Oculus RiftのようにHMDが1個あたり10万円程度で購入できるようになると、「これだったら3Dデータさえ持っていれば気軽にVR化ができる」と大きくハードルが下がります。

 Fusion 360ではこうしたトレンドに早い段階から目を付けて、いかに簡単にハードウェアと連携させるかを考えました。通常のディスプレイはあくまで平面なので、これをVR HMDの360度映像で立体的に確認できる意味は大きいです。

 特に自動車業界では、VRに先駆けて投資を行っています。これが一般製造業にも広がってくるでしょう。実際にモノを作る前に、手に取るように立体データで状態を確認できるようになるので、プロトタイプの段階で失敗を減らせる可能性が高まります。

 さらに、一人だけでなく、離れた場所にいる複数の人と立体データを前にコミュニケーションがとれるのであれば面白いのではないかと、そんなビジョンを描いています。

―― 自動車業界の他にはどのような業種や分野がVRに向いていますか?

藤村 大きいモノはVR活用の高い効果が見込めます。例えば、電車の車両は試作に膨大なコストが掛かりますし、建築物は建て始めたら後には引けません。事前にVRで3Dデータを立体的に映し出して、その空間内に入ってみたり、実寸大で表示したりして確認できれば、完成度を高めつつコストダウンも図れます。

 他にはインテリアデザインが分かりやすい例として挙げられます。最近は撮影やレイアウトにCGを使うことが多いのですが、VR HMDであれば仮想空間上にソファや植物の3Dデータを配置して空間全体のイメージを現実のように確認できるわけです。

―― インテリアの世界だと、没入型のVR HMDもいいですが、実際の空間に3Dモデルを配置するタイプ、つまり透過型のHoloLensも向いていますよね。

photo 中村薫氏

中村 HoloLensであれば、実際の部屋にインテリアの3Dモデルを実寸表示で合成して見られるのが、確かに分かりやすいです。

 HoloLensは視界に透過型ディスプレイを配置して立体映像を出すタイプの光学シースルーですが、VR HMDについてもビデオシースルーという技術があります。

 ビデオシースルーでは、ビデオカメラから取り込んだ現実世界の映像にバーチャルな画像データを重ねて、VR HMDのディスプレイに合成して表示します。ビデオカメラに深度測定が可能なセンサーがあれば、空間の立体情報を読み取って、そこにバーチャルな物体を置くことも可能です。

 2017年にMicrosoftとサードパーティーが出そうとしている製品が、このようなビデオシースルーと空間認識を低価格なHMDで実現するものです。Oculus Riftも今はケーブルをPCにつないでいますが、先日のOculus Connect 3(開発者向け会議)ではスタンドアロンでセルフトラッキングも可能にするプランが明らかになりました。

 現状のVR HMDはアウトサイドイン方式という、外からポジショントラッキングされるものが主流ですが、Microsoftが出そうとしているものはインサイドアウト方式といって、HMDが自らポジショントラッキングできます。どちらの方式も現状はケーブル接続が必要ですが、将来的にはケーブルの接続も必要なく、インサイドアウト方式のスタンドアロンなHMDで落ち着いていくと予想されます。

藤村 インサイドアウト方式のほうがモビリティとしては圧倒的に有利なので、手軽に使うという意味ではそちらが主流になるのではないでしょうか。

中村 そうですね。Oculus RiftにしてもHTC Viveにしても設置コストがどうしても高いので、なかなか外に持ち出して手軽にデモをするのが難しい状況です。インサイドアウト方式ではその点でより手軽になると考えています。

―― AR/VR HMDが本当に普及するには、もっと手軽になってほしいですね。

中村 手軽という意味では、帽子を試着するくらいの感覚でHMDをかぶって、ちょっと調整するぐらいでコンテンツが見られるようにならないと、誰もが使えるデバイスとして厳しいです。

藤村 今はVR HMDをかぶって街に出ても大きいから目立つじゃないですか。これがメガネくらいの大きさまで小さくなりますか。

中村 今まで語ってきたAR/VR HMDとはちょっと違いますが、エプソンのスマートグラス「MOVERIO BT-300」は、ほとんどメガネくらいの大きさです。自発光のOLED(有機EL)を使っていて、横から映像を出しています。そういう技術と組み合わせると、メガネくらいのサイズまでは落ちてくると思います。現状のMOVERIOは外付けで有線接続の端末が本体になっています。

「AR CAD Cloud」の示す可能性

―― 中村さんは3D CADデータをクラウドサービス経由でコンバート処理して、AR/VR環境で操作できるようにするソリューション「AR CAD Cloud」について、どのようなニーズがあるとお思いですか?

中村 ARは現実の空間を認識し、3Dデータを実寸で3Dモデルとして映し出せるという強みがあります。実寸で見えるというのは本当に大きなポイントで、3Dプリンタでも可能ですが、時間がかかるうえにフィラメントも消費してしまい、出力サイズの制限もあります。そしていざやってみると、データの不備などでうまく出力できなかった、というトラブルも少なくありません。

 これが、HoloLensのようなデバイスを使うことで3Dモデルをすぐ目の前で立体的に見られるようになれば、これまで何時間もかかっていた3Dプリンティングの初期工程が数分程度で済みますから、プロトタイピングのサイクルが非常に早くなり、モノ作りの効率が高まるはずです。

 AR CAD CloudにはFusion 360用のプラグインも用意されていますので、ユーザーはFusion 360で作成したCADデータを用意してボタンさえ押せば、アップロードから変換、AR環境での確認までが手軽に行えます。

 AR CAD CloudはMicrosoft Azureクラウドを利用しています。CADデータの変換時間は1分から数分程度なので、手軽に素早く3Dモデルによる確認が可能です。

photo 3D CADのAR化デモ環境を提供する「AR CAD Cloud」の仕組み

藤村 特にプロトタイプを減らせるという分かりやすい効果があるので、CADデータのAR/VR化に関心がある幅広い法人で導入メリットがある仕組みだと思います。

中村 HoloLensで注目している機能に「シェアリング」があります。HoloLensが1台ではかぶっている人しか見られませんが、それが複数台あると複数人で見ることができます。互いの3Dモデルの位置情報を合わせれば、目の前に表示した3Dモデルを見ながら議論して修正するなどのコラボレーションが容易になります。

 AR CAD Cloudではデータをクラウドで管理しているので、遠隔地にある支店と本社で同じ3Dモデルを見ながらディスカッションしたり、客先で特別なシステムなしにすぐデモを行ったり、といったことも実現できます。

―― 確かにHoloLensのシェアリングによって、さまざまな場面で効率アップが図れそうですね。シェアリングには期待できる部分が多く、将来的に興味深いアプリが登場するのも楽しみです。本日はありがとうございました。

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提供:BBソフトサービス株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia PC USER 編集部/掲載内容有効期限:2016年12月25日