最新の映像技術では、4Kを超える高解像度化の流れとともに、まるで現実の風景を眺めているかのような映像体験を実現するHDR(High Dynamic Range)が注目されている。PC用ディスプレイの新規格「DisplayHDR 1000」にいち早く対応したフィリップスの「436M6VBPAB/11」を紹介しよう。
2018年4月4日〜6日、東京ビッグサイトにおいて「4K・8K機材展」が開催された。その名の通り、4K・8Kの時代に対応したディスプレイやカメラ、レコーダーなどの機材メーカー各社がひしめき合う展示会であり、新世代の映像表現をアピールする趣向を凝らした展示を行っていた。
ビジネス層を主体とした展示会のため、業務向けの機材展示が大半だったが、コンシューマー向けの製品も少なくない。スマートフォン用プロジェクターといった小型のデバイスから、低価格帯のAndroid用TVチューナー、各種のPCディスプレイなど、ホビー用途でも手を出しやすい製品も目についた。とりわけ人目を引いていたのがフィリップスのブースだ。
フィリップスがこの展示会でメインに押し出していたのは、42.5型のPC用ディスプレイ「436M6VBPAB/11」および「436M6VBRAB/11」の2製品だ。VESAが策定したDisplayHDR規格に準拠した国内初の製品であり、公の場では今回の展示が初のお披露目。その表示を見ようと、平日の昼間にもかかわらず、ブース内は人だかりができるほどだった。新たなディスプレイの要素であるHDRに対する興味の高さがうかがえる。
最近、家電量販店のテレビ売り場でも「HDR」という文字を見かけることが多くなったが、HDRとはHigh Dynamic Rangeの略称である。従来よりもより広いダイナミックレンジを備えたテレビ、またはディスプレイという意味で用いられている。
ダイナミックレンジとは、階調性を保ったまま破たんなく(白飛びや黒つぶれなく)表示できる明暗差の幅のこと。それでは、なぜダイナミックレンジを広くする必要があるのか? といえば、よりリアルな映像を表示するために他ならない。
実際に肉眼で見た景色と、同じ景色を撮影してディスプレイで眺めたときの印象が大きく異なるという経験は誰しも覚えがあるはずだ。これはCRT時代のダイナミックレンジ(Standard Dynamic Range:以下、SDR)を前提とした入力機器で撮影したデータでは、規格上100nitまでしか再現されず、見慣れた地上デジタル放送やブルーレイなどの映像は実はリアルな明るさを再現できていなかったのだ。
だが、現在のディスプレイはCRTのころに比べて輝度、コントラスト比が飛躍的に上昇しているのは周知の通り。ならば、より広いレンジで記録して、肉眼で見た景色に近づけた表示を実現しよう、というのがHDRの取り組みである。
なお、写真の世界でもHDRという表現手法がある。ディスプレイのHDRから話がそれるが、誤解を避けるためにも触れておこう。
写真のHDRの場合、ダイナミックレンジはSDRの域を出ることはない。例えば、強いハイライトと深いシャドーの階調を両立したいとする。通常であればレンジの関係上、ハイライトかシャドーあるいは両者の階調を犠牲(白飛びか黒つぶれか平たん)にするしかない。
そこで、明部優先で撮影したデータと暗部優先で撮影したデータを用意し、輝度を圧縮しつつ適正露出の部分をそれぞれ取り入れることで階調の欠落を防ぎ、SDRの範囲内でありながら立体感のある表現に合成しているわけである。最近のスマートフォンに搭載されているHDR撮影はこれだ。
さて話を映像のHDRに戻そう。SDRのレンジ内で疑似的に立体感・奥行きを出す写真のHDRに対して、映像のHDRはレンジの幅そのものを広げるというストレートな手法を採っている。これにより、広大なダイナミックレンジで視覚を満足させられるメリットだけでなく、先ごろからの高色域化技術の併用によって、カラーボリュームが格段に増大する。
具体的には、これまでディスプレイでは難しかった海や空、新緑など、まばゆくも濃厚な色が再現できるようになるわけだ。もちろん、自然界の明るさやコントラスト比を欠落せずに記録・表示できるデバイスは存在しないし(肉眼でさえも無理)、あったとしてもデータ量が膨大になるため処理しきれない。丸め込みの必要はあるが、SDRよりも格段に奥行きのある映像表現が可能になるのは間違いない。
現在、コンシューマー分野で覚えておくべきHDRの方式は「HDR10」と「Dolby Vision」の2つだ。HDR10は多くのUltra HD Blu-rayタイトルや動画配信サービスで採用されており、HDRといえばHDR10対応を示すことがほとんど。一方のDolby Visionは映像データ全体ではなく、シーン毎に輝度情報を設定できるため、より高画質な映像制作に向くというメリットがある。ただ、国内に流通するDolby Vision対応デバイスは少なく、一部のメーカーのみ採用しているにとどまる。なお、Netflixなどの動画配信サービスでは採用が進んでいる。
Consumer Electronics Association(CEA)のVideo Divisionが策定したHDR互換ディスプレイのニュースリリースによれば、要件は以下の通りだ。
これに加え、補記としてHDR10の仕様も添えてある。
上の要件を満たした製品が「HDR対応」を掲げることができるわけだ。ただし、これは伝送に齟齬(そご)が生じないようにするためのものであり、テレビ、ディスプレイ、プロジェクターなど、特性の異なるデバイスを総括するざっくりとした決まりでしかない。
つまり、輝度やコントラストなど、デバイス毎の特性に左右される細かなスペックについては含まれていない。実際、テレビなどではHDR対応を名乗ってはいるものの、輝度やコントラストは通常のテレビと変わらず、HDRのメリットを生かせるとは思えない製品も多々見受けられる。
そこで、入出力機器メーカーや映像制作会社、映像配給会社は、「UHD Alliance」を設立。コンシューマーの混乱を避けるために「ULTRA HD PREMIUM」ロゴプログラムを開始した。ロゴの入ったコンテンツを、同じくロゴの入った映像機器で表示すれば、HDRや高色域を生かしたUHD映像を堪能できるわけである。
それではPCディスプレイ界隈はどうだろうか?
こちらも2017年末にVESAがDisplayHDR Ver.1.0としてHDR用途に用いる液晶ディスプレイの基準を策定している。ディスプレイの最大輝度を基にエントリークラスの「DisplayHDR 400」、メインストリームの「DisplayHDR 600」、ハイエンド向けの「DisplayHDR 1000」と分化しており、いずれもHDR10への対応は必須となる。各クラスの用件は以下だ。
DisplayHDR規格は、後発だけにより厳しい基準となっており、HDR10を包含する他、当然ULTRA HD PREMIUMの承認も得ている。つまり、DisplayHDRに対応したディスプレイであればHDR映像を最大限楽しめるというわけだ。
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提供:MMD Singapore 日本事務所
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia PC USER 編集部/掲載内容有効期限:2018年5月3日