同じ型番の製品を買ったら仕様が違っていた そんなのアリ?:牧ノブユキの「ワークアラウンド」(2/2 ページ)
製品の仕様が変わると型番も変わるのが常識だが、さまざまな事情から同じ型番のまま販売が継続されることもある。中にはメーカーのサポート担当者が知らないうちに、製品の仕様がこっそりと変えられているケースまで存在するのだ。
1つは、仕様が公開されていない部分が変更になった場合だ。前述のようにスペックシートに明記されているような仕様や数値は変更が発覚しやすく、また第三者でも検証が容易だが、そうでない部分、例えば内部の基板レイアウトが変わったとか、ボディーの素材が変更になったという場合は、そもそもスペックシート上に訂正すべき項目が存在しないため、型番を変更するに至らないというわけだ。
もちろんこうした変更によって本体の重量が変わってしまうようであれば、それは仕様変更として扱わざるを得ないが、例えば製造工場の変更で内部フレームの形状が変わったものの重量はそのままといった場合、両者を分解して並べて比較でもしない限り、発覚することはまずなく、また対応するPC本体やOSが変わるわけでもない。社内ではサポートの関係上、見分けがつくようロットナンバーを記録するといった対処が施されることはあるが、型番自体は変わらないことが多い。
そしてもう1つは、営業的な理由によるものだ。前述の組み込み用途や、また法人ユースなどで型番指定での納入が決まっているような場合は、従来の型番の製品が契約期間内に供給できなくなると、違約金を支払わなくてはならないケースがある。しかし下請け先の製造の都合などでやむを得ず仕様を変えざるを得なくなったり、また出荷ペースが予想をはるかに超えていて部材の調達が追い付かなくなったり、別ルートから調達したものの、従来とは仕様が若干異なってしまったり、という問題も発生する。
こうした場合、違約金のリスクと動作不具合のリスクとをてんびんにかけ、販売店および顧客には仕様変更を告知せず、素知らぬ顔で同じ製品として販売を続けることがある。中にはCPUのクロック数が上がっていたり、USBポートが部材の都合でUSB 2.0からUSB 3.0に変更されるなど、露骨にスペックが強化されているケースもあり、この場合は製品のコストも従来より上がっているのだが、従来型番での供給が不可能になることでの違約金が大きい場合、コストの上昇、及び発覚のリスクを度外視し、同じ型番での販売を継続することがある。
さらにもう1つ、意外と多いのが、開発担当者や仕入れ担当者が、社内に知られていない製品の不具合をこっそり改善し、それによって仕様が変わるというケースだ。例えば特定のOSとソフトウェアの組み合わせで不具合が発生するが、まだユーザーからのクレームは数少なく、社内で知っているのもクレームを受けた窓口のスタッフと開発担当者本人だけというケースがある。こうした場合、製品が問題なく動作するよう、次のロットから製品のハードウェアをこっそりと変更してしまうわけである。
なぜ「こっそり」かというと、これは要するに社内の体裁の問題だ。不具合を見つけられずに出荷したとなると開発担当者や仕入れ担当者は社内で責められるのが確実であり、またその改善によって型番の変更が発生すると、多大な事務処理のコストが発生するほか、営業サイドからも苦情が出かねない。
よってこの不具合が軽微なものであれば、開発担当者や仕入れ担当者がグルになって、製品の仕様をこっそり変えてしまうわけだ。スペックシートの数値が変わった場合もひとまず知らないふりをしておき、もし発覚すれば最初から間違っていたことにするというわけである。不具合のスケールがそれほど大きくない場合、開発担当者が手を出しやすい選択肢の1つである。
メーカーのサポート窓口が知らされていないケースも
以上をまとめると、PC周辺機器は仕様変更に伴って型番も変わるのが一般的だが、状況によっては同一型番のまま継続販売されることがあり、そこには営業的な事情や担当者の隠蔽(いんぺい)工作が絡んでいるケースが多い、ということだ。裏を返すと、販売店やメーカーのサポート窓口が一切知らないにもかかわらず、製品の仕様が変わっている可能性は少なからずある。
ユーザーにとってこれが大きく影響するのは、製品の不具合が発生した場合だ。もし、メーカーのサポート窓口がこうした仕様変更を把握していない場合、ユーザーの手元では再現性のある症状がメーカーのサポート窓口では再現できず、全く話がかみ合わない、というケースが起こりうる。こうした場合、現品を送ってテストしてもらうか、あるいは現品を交換してもらわない限り、不具合が解消することはない。
逆に言うと、話がかみ合わずにユーザー側の問題にされそうになっても、現物を交換するなどの方法で「旧仕様の製品」が「新仕様の製品」に入れ替わり、問題なく動くようになる可能性があるということだ。
仕様が変われば型番が変わるというのが一般的であり、かつメーカーのサポート窓口は全ての情報を把握していると信じ込んでいると、この解決方法はなかなか見つけにくい。製品の不具合でメーカーの対応に納得がいかない場合は、こうした可能性を疑い、現物の送付や交換などを提案してみるのも良策ではないだろうか。
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