「高効率火力発電」が最重要テーマに、クリーンエネルギーによる国の成長戦略:法制度・規制
政府の産業競争力会議でエネルギー分野を成長戦略の柱に据える案が固まりつつある。特に重点を置くのが火力発電で、石炭とガスの発電効率を高める技術に注目が集まっている。新しい火力発電設備の導入を加速するために、環境アセスメントの期間を半分以下に短縮する案も浮上してきた。
国のエネルギー戦略を担う経済産業大臣と環境大臣が産業競争力会議(3月29日)で、火力発電を成長戦略の柱として推進する意向を明らかにした。茂木経済産業大臣は「エネルギー分野の戦略市場創造プラン」の中で4つの重点テーマを示し、その筆頭に「高効率火力発電」を挙げた(図1)。
進化する「コンバインドサイクル発電」
原子力発電に依存できない現状で、火力発電が電力供給量の9割を占めていることが背景にある。運転開始から40年以上を経過した古い火力発電設備が残る一方で、燃料費の安い石炭や天然ガスを使って効率よく発電できる技術が続々と登場して、いま火力発電が大きな転換期を迎えている。その中心になる技術が「コンバインドサイクル(複合)発電」で、石炭とガスの両方に適用できて発電効率を大幅に高めることが可能になってきた。
石炭の場合はガス化してから発電する「石炭ガス化複合発電(IGCC)」を採用すると、従来の石炭火力の発電効率が36%程度だったのに対して最新の設備では41%まで向上する。燃料費とCO2排出量をともに1割以上も低減することができる。
さらに燃焼温度を高めることで将来は50%まで効率が向上する(図2)。すでに福島県では東京電力と東北電力の合弁会社がIGCCで43%の高効率を実現していて、まもなく始まる商用運転では48%程度まで効率を上げる予定だ。従来のように石炭火力の効率が低くてCO2を大量に排出する状況は変わりつつある。
一方のガス火力は石炭火力を上回るスピードで高効率化が進んでいる。最新の設備では発電効率が54%まで高まり(図3)、従来型の設備と比べて4割以上も燃料費とCO2排出量を減らすことができる。火力発電が電気料金を高くする要因になることもなくなる。
2035年までに全世界で250兆円の市場
こうした技術の進化によって、温暖化対策の観点から火力発電に否定的だった環境省の方針も変わってきた。同じ産業競争力会議の場で、石原環境大臣が火力発電所の建設に伴う環境アセスメントの期間を半分以下に短縮する検討を始めていることを明らかにした。従来は国の審査や自治体の評価などに3年程度かかっていたものを1年〜1年半程度に短縮することを目指す。
火力発電の高効率化に関しては日本が世界の先頭を走っていて、海外市場の拡大も期待できる。今後2035年までの間に全世界の火力発電の市場は累計で250兆円の規模になると予測されている。米国ではシェールガス、日本ではメタンハイドレートの産出によって、長期的に天然ガスの優位性が高まっていく可能性がある。価格の安い石炭と合わせて燃料の安定確保に対する不安は解消されつつある。
政府は国内のエネルギー需給に関しては原子力発電を当面の解決策として検討しているが、海外も含めた成長戦略においては原子力にいっさい言及していない。中長期的には火力発電の重要性がますます高くなってきた印象だ。
このほかに茂木大臣が成長戦略の重点分野に挙げた「蓄電池+再生可能エネルギー(洋上風力など)」、「エネルギーマネジメント」、「次世代デバイス(パワーエレクトロニクスなど)」を加えた4本柱で、日本が世界市場に打って出る日は遠くない。
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