メタンハイドレートで変わる、2020年代の電力・エネルギー戦略:電力供給サービス
国産の天然ガス資源として注目を集める「メタンハイドレート」の実用化を目指して、資源エネルギー庁が三重県の志摩半島沖で天然ガスの生産実験を開始した。2020年代には商業生産を開始できる可能性が出てきたことで、将来の電力・エネルギー戦略が大きく変わりそうだ。
一時は夢物語かと思われたメタンハイドレートからの天然ガスの生産が現実味を帯びてきた。資源エネルギー庁が三重県の志摩半島沖50キロメートルの沖合で進めていた世界初の海洋産出試験で、海底下から掘削したメタンハイドレートを分解して天然ガスを取り出すことに成功した(図1)。
資源エネルギー庁からの委託で事業を担当しているJOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)は8月に試験を終了する。その後に第2回の海洋産出試験、さらに第3フェーズとして商業生産に向けた技術基盤の整備を2018年度までかけて進めていく計画だ。2020年代の前半には商業生産を開始できる可能性が見えてきた。
火力発電の問題を解消できる
今後のメタンハイドレートの進展によっては、国の電力・エネルギー戦略も大きく変わってくる。特に原子力発電の必要性が小さくなる。というのも、火力発電が抱える以下の問題点がメタンハイドレートによって大幅に解消されることになるからだ。
1.原子力発電に比べて燃料費が高い(総コストでは原子力のほうが高いとの見方もある)
2.燃料を海外に依存している
3.大量のCO2を排出する
日本の近海にはメタンハイドレートが豊富に存在すると推定されている。その可能性を示唆するものがBSR(海底疑似反射面)と呼ばれていて、今回の海洋産出試験を実施した愛知県から三重県の沖合にある「東部南海トラフ」で確認されている(図2)。このほかにも四国から九州の沿岸一帯、北海道の南側、房総半島や能登半島の沖合などでもBSRが認められる。
このうち東部南海トラフにあるメタンハイドレートに含まれるメタンガスの量だけでも、日本が海外から輸入している天然ガスの5.5年分に相当するとの予測がある。そのほかの場所を加えると10年分を超えるとみられている。
一方で米国ではシェールガスの大量生産が見込まれており、これを含めて輸入と国産を組み合わせれば、数十年にわたって安価な天然ガスを入手できる可能性が出てきたわけだ。
どこまでコストを安くできるか
CO2の排出量に関しても、メタンハイドレートから取り出す天然ガスの場合は石油や石炭の約半分に減る。そうなるとコストの面でも環境の面でも、原子力の優位性は薄れていく。もっとも環境面では原子力発電には放射能汚染のリスクや核燃料廃棄物の処理といった重大な問題があり、そもそも火力発電と比べる意味がないとも言える。
メタンハイドレートには大きな期待がかかるが、最大の課題は掘削とガスの生成に必要なコストだ。メタンハイドレートは海底下300メートル程度の浅い部分にある(図3)。
通常の天然ガスは海底下2000メートル以上に存在するため、1本の井戸を掘削するコストはメタンハイドレートのほうが安く済む。ただし1日あたりに取り出せるガスの量が1ケタ程度少なくなるという予測がある。実際のところは今後の試験で明らかになっていくだろう。
引き続きコストと技術の両面で検証を進めながら、商業生産の実現性を高めていくことが求められる。2020年代においても電力の過半を担うことになる火力発電の安定に向けて、メタンハイドレートが担う役割は極めて大きい。ぜひとも商業生産が成功することを祈りたい。
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