電力小売の全面自由化へ、6月までに法改正が決まる:動き出す電力システム改革(8)
電力システム改革の第2弾になる「小売全面自由化」の法案が国会に提出された。これまで電力会社が独占していた家庭向けの市場を開放するのと同時に、事業者を発電・送配電・小売の3区分に再編して競争を促進するのが狙いだ。順調に進めば2016年に小売の自由競争が一気に加速する。
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もう電力システムの改革が後戻りすることはなさそうだ。3段階で進める改革の中でも、利用者にとって最もメリットが大きい第2段階の「小売全面自由化」の法案が2月28日の閣議で決まり、通常国会に提出された。会期が終了する6月22日までに成立する見通しで、2年後の2016年に小売全面自由化を実施することが確実になった(図1)。
これまで契約電力が50kW未満の「低圧」と呼ばれる電力については、地域別に電力会社10社にしか小売が認められていなかった。家庭や小規模な工場・店舗を対象にした領域で、全国に8000万を超える利用者が存在する。この市場が2016年に自由化されると、さまざまな事業者が参入して、価格とサービスの両面で競争が始まる。
その影響は家庭だけにとどまらない。小売の全面自由化に伴って、発電事業者と小売事業者が全国各地に増えていき、企業向けの小売でも競争が加速する。遊休地や工場を保有する大手の製造業が発電事業に参入する一方、小売事業には家庭を顧客に抱える通信業や流通業の参入が見込まれている。
国会に提出された電気事業法の改正案には、電気事業者を再編する内容も盛り込まれている。現在の電力市場は発電・送配電・小売のすべてを「一般電気事業者」と呼ばれる10社の電力会社と関連会社がほぼ独占している。2016年の法改正によって、電気事業者の区分が全面的に変わり、「発電事業者」「送配電事業者」「小売電気事業者」の3つに再編する(図2)。
このうち送配電事業だけは従来のまま電力会社が「一般送配電事業者」として、規制を受けながら地域ごとに運営していく。さまざまな発電事業者からの電力を企業や家庭まで送り届ける役割で、利用者(需要家)との契約は小売電気事業者が窓口になる体制だ(図3)。
さらに改革の第1弾で2015年に業務を開始する「広域的運営推進機関」が地域別の一般送配電事業者と連携をとりながら、全国レベルの需給調整を担うことになっている。このほかに一部の送電設備だけを運営する「送配電事業者」、特定の地域に限定してサービスを提供できる「特定送配電事業者」を加えて、送配電事業者には3種類の区分を用意する。
2016年の小売全面自由化に続いて、改革の第3段階にあたる「発送電分離」を2018〜2020年に実施する予定だ。電力会社の発電・送配電・小売の各事業部門を別々の会社に分離して独立性を高める一方、電気料金の規制を撤廃して自由競争を加速させる。この段階で新しい電力システムの基盤が整う。
ただし小売全面自由化から電気料金の規制撤廃までの2〜4年間は、経過措置として自由料金と規制料金を混在させる(図4)。離島のように市場規模が限られていて小売事業者の参入を期待しにくい地域を想定して、現在の電力会社が規制料金のままサービスを提供できる制度を残す。
この経過措置が終了した後も、「最終保障サービス」などを規定して利用者の保護を図る方針だ。発送電分離と電気料金の規制撤廃を盛り込んだ第3段階の法案は2015年の通常国会に提出することを目指す。
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