営農と太陽光発電の組み合わせ、「3つの壁」あり:自然エネルギー(2/2 ページ)
静岡県で農業と太陽光発電を共存させる「ソーラーシェアリング」発電所が立ち上がった。手動でモジュールを回転できる発電所として、全国でも初めて水田の上に設置した事例だという。ただし、計画から運転開始までの道のりは平たんではなく、大きく3つの壁があった。メガソーラーやミドルソーラーなどとは異なる壁だ。設計から施工までを担当した発電マンの岩堀良弘氏に聞いた。
回転する太陽電池を水田に初めて設置
ソーラーシェアリングに「否定的」な情報を最初に紹介した形になったものの、岩堀氏が初めて手掛けた事例は結果として成功した。
静岡県伊豆の国市奈古谷に水田と畑を所有する農家の事例だ(図2)。旧韮山(にらやま)町に立地する。この農家ではもともと一部の農地で営農を止め、太陽光発電所を立ち上げることを考えていた。ところが、農地法の規定により、農地転用がほぼ不可能な区域*3)であることが分かり、諦めていたのだという。農林水産省の文書が公開された後、静岡市で10年以上太陽光発電を手掛けていた発電マンに声が掛かった。
「茨城県つくば市で、太陽電池モジュールを手動回転させる機構『ソラカルシステム』を開発したソーラーカルチャーの施設を見学したことがあり、農家の方に伝えたところ、それまで固定式を考えていた農家が、回転式を強く希望した」(同氏)。
岩堀氏によれば、水田において手動で太陽電池モジュールを回転させる機構を備えた設備が立ち上がった国内初の事例だ。
ソラカルシステムは水平な単管とそれを保持し、ウインチで回転させる機構をいう。作物の種類によって光量を調節できる他、季節に応じた回転により発電量を5%程度増やすことができる。この他、強風時の風や積雪を避けやすい、モジュールの洗浄が容易といった特徴がある。ソーラーカルチャーによれば、自社発電所以外の初の施工例だ。
*3) 市町村ごとに定められている農業振興地域整備計画では、農業振興地域を2種類に区別している。農地以外の利用を厳しく制限する農用地区域内農地を青地、それ以外を白地と呼ぶ。伊豆の国市の農家の土地は青地だった。
水田と畑が発電所に変身
2014年6月に完成した太陽光発電所「Smart Life発電所」は、隣り合わせになった水田と畑からなる(図3)。水田では稲作、畑ではサトイモを育てる。サトイモは苗から収穫に至るまで強い光を嫌う性質がある絶対陰生植物であり、ソーラーシェアリングに向いていると考えられる。
水田、畑とも面積はそれぞれ約1000m2あり、設置した太陽光発電システムの出力は44kW(合計88kW)。5.5kW対応のパワーコンディショナーを8台ずつ、架台脇に設置している。いずれも固定価格買取制度(FIT)により全量を東京電力に売電し、売電収入として年間約400万円を見込んでいる。
ソラカルシステムを採用した場合、出力50kWのソーラーシェアリング発電所を立ち上げるには、部材費用と工事費用を合わせて1500〜1700万円が必要だという(造成費別、税別)。
造成が終わった土地に設置するメガソーラーなどとは異なり、ソーラーシェアリングでは農地に直接施工する。例えば基礎はどうなっているのだろうか。「写真では見えないものの、柱(単管)を支えるために深さ70cm、直径20〜30cmのコンクリート基礎を作っており、そこに単管を60cm程度埋め込んでいる。これは水田、畑とも同じだ」(同氏)。一時転用の対象となるのは、この部分だけだ。
発電マンが施工したシステムは農家側にとって営農が継続しやすいのだという。現代の営農ではさまざまな農業機械を利用する。図4では、トラクターを動かすための空間が確保されていることが分かる。
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