洋上風力発電設置の強い味方、日本の海洋環境に合わせた作業船を造船へ:自然エネルギー
五洋建設は、外洋での土木工事や洋上風力発電施設の設置工事など、気象・海象条件の厳しい海域でも安定してクレーン作業を行うことができるSEP型多目的起重機船の建造をこのほど決定した。
五洋建設が新たに造船する新船は世界のSEP型洋上風力発電施設設置船の7割以上を手掛けるGustoMSC社(オランダ)が基本設計を行い、ジャパン マリンユナイテッド(日本)が建造する。ヨーロッパで石油プラットフォームや着床式洋上風力発電施設の設置に使用されている大型SEP船(自己昇降式作業台船)の技術とノウハウを導入するとともに、日本の自然条件や施工条件に対応した連続式の新型ジャッキを導入する計画だ(図1)。
新船の特徴は800t吊全旋回式起重機船にSEP機能を付加することにより、気象・海象条件の厳しい海域であっても波浪の影響を軽減させ、安全性、稼働率、施工精度の高いクレーン作業が可能となる点である。また、ダイナミックポジショニングシステム(DPS)によって船体の位置保持ができ、ジャッキアップ時の位置決め時間を短縮する。長尺レグを使用することで大水深(水深50m程度)での作業も可能だ。
さらに800t吊全旋回式クレーンを搭載することにより、大型海洋構造物の設置作業や、5〜6MWクラスの風車設置、風車基礎の施工ができる。近海仕様かつ浅喫水設計で、十分な居住スペースと緊急時の人員輸送のためのヘリデッキを装備、遠隔地での作業と長期滞在が可能だ。同船とともに、同社が保有する自航式多目的起重機船「CP-5001」を併用することにより運搬、設置などの一連の建設作業を効率的に行うことができ、工期短縮を実現する。完成、引渡は2018年9月頃の予定だ。
大型クレーンを搭載したSEP船の建造は国内初という。同社では「7月1日に施行された港湾法の改正によって、港湾区域内の水域などの活用がしやすくなった洋上風力発電施設(着床式)の設置にはなくてはならない作業船」と位置付けており、大水深防波堤やバースの建設、臨港道路の海中基礎の建設、港湾施設の維持更新、離島の各種土木工事などにも活用できるものと期待している。
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