食品排水がバイオマス燃料に、“フードエネルギー”でEV充電から貧困対策まで:自然エネルギー
環境技術開発を手掛けるティービーエムは、食品排水中の油脂をバイオマス燃料化する技術と発電システムを開発。「川崎国際環境技術展2018」で、この技術を搭載した“バイオマス発電車”を利用し、電気自動車(EV)に充電を行うデモを披露した。
食品排水中の油脂を精製・改質してバイオマス燃料に
環境技術開発を手掛けるティービーエム(埼玉県所沢市)は、「川崎国際環境技術展2018」(2018年2月1日〜2日、とどろきアリーナ)で、食品排水中の油脂を燃料に発電する“バイオマス発電車”を使った電気自動車(EV)の充電デモを披露。同展で「ベストマッチング大賞」を受賞した。排水油脂由来のバイオマス電力をEVに直接給電することは、「日本初」(同社調べ)だという。
同社は2015年より、飲食店や食品工場の排水から分離した油脂をバイオマス燃料化する事業を開始。従来では排水油脂は汚泥として産廃処分されるしかなかったが、2017年9月に、排水油脂を原料とする発電燃料「SMO(Straight Mixed Oil)」を開発したと発表していた(関連記事:燃料は食品排水の“油脂”、バイオマス発電車でどこでも再エネ供給)。
厨房の排水管理サービスを展開しているティービーエムは、1都3県の飲食店や商業施設、食品工場を顧客に持ち、厨房から下水道へ汚水や油脂が直接流出することを防ぐ「グリストラップ」の清掃・油脂回収を手掛けている。この排水油脂は、水分含有率が30〜40%と高く不純物も多いため、アルカリ触媒法やSTING法(Simultanerous reaction of Transesterification and crackING)による燃料化が難しいという。
そこで同社は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援を受け、排水油脂中の水分と不純物を取り除く精製過程、セタン価などの調製を含む改質過程を含む燃料生成技術を開発。化学合成を行うことなく、新しいバイオマス燃料としてSMOの生成が可能になった。排水油脂は年間を通じて質や回収量が安定しており、排水油脂から質量ベースで約60%のSMOが生成できるため、発電用燃料として安定供給が可能なこともメリットだ。
同社では、燃料精製技術と同時に発電技術も開発した。SMOの物理特性は、常温で固化し、引火点が約250℃と高いなど、「安全性が高く危険物に該当しない」(ティービーエム)メリットがあるが、通常のディーゼル発電機では常温で固体であるため燃料供給に難があるという。
この課題を解決するため、ディーゼル発電機の燃料系統を加熱・保温するコージェネレーションシステムを導入し、SMOを燃料とした場合でも安定した発電が可能となった。同社ではSMOとこの発電システムを生かし、展示会などのイベントや災害時に独立電力として供給が可能な「バイオマス発電車」の運用を始めた。バイオマス発電車は100キロボルトアンペア(kVA)供給車と60kVA供給車の2モデルがあり、60kVAの場合は約120リットルの燃料を積載し、10時間程度の電力供給が可能だという。
同社では埼玉県比企郡にSMOを利用して発電する出力120キロワット(kW)の「花見台発電所」も建設し、FITを利用した売電事業も実施している。これらの運用経験から、現在では排水油脂の回収、燃料生成から発電、電力供給までをパッケージとして提案できる体制を整えたという。
「新興国観光地への導入で、貧困対策にも」
食品排水を利用したエネルギー事業の方向性について、ティービーエム 事業企画部長の東誠悟氏は「各地の産廃協会から問い合わせが入っている。また、給食センターへの発電パッケージの導入など、自治体と提携する可能性としてある」と話す。
さらに将来的な構想として「新興国の観光地など、排水油脂が多量に出るが処理設備が未整備の地域への展開もしたい。環境保護と同時に、スカベンジャーと呼ばれるような貧困層に油脂回収の業務を委託することで、貧困対策にもつながるのではないか」(東氏)と述べた。
同事業の売上高は現在、発電所による売電収入も含めて約1億円だが、今後事業を拡大し、2020年に20億円を目指すとしている。
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