
AIが創る“余白”と、そこで人間が行う“道草”こそが新たな価値になる――日立製作所(以下、日立)のAI戦略をリードする吉田順氏と、AI起業家のusutakuこと臼井拓水氏による対談(こちらを参照)では、AI時代に人間の時間の使い方や創造性がどう変わるかという「思想」が語られた。
では、AIエージェント開発において、エンジニアの道草は組織と個人の成長にどうつながるのか。日立のAIエージェント開発の最前線で活躍する若手エンジニアの田中聡一朗氏と片渕凌也氏、そして臼井氏が、開発現場におけるリアルな試行錯誤と若手エンジニアにこそ必要な道草の意味を語り合う。
臼井: はじめまして。まずは簡単な自己紹介をお願いできますか?
臼井拓水氏(Michikusa 代表取締役 AI木曜会代表 デジタルハリウッド大学 特任准教授):AI起業家のインフルエンサーとしてYouTubeチャンネル「usutaku_channel」(登録者数15.6万人。2025年12月現在)も運営田中: 私は前職でシステムエンジニアをしていて、その後AIベンチャーに転職しました。そこからデータサイエンティストとしてのキャリアをスタートさせ、2021年に日立へ転職してからも一貫してデータサイエンティストとして活動しています。
片渕: 私は2022年に日立に新卒入社しました。現在4年目のデータサイエンティストです。普段はAIやデータ分析を使って、お客さまの業務効率化や高度化を支援しています。実は私、臼井さんの活動をSNS、特にXやnoteで拝見して勉強しております。学生時代から非常にエネルギッシュに活動されていますよね。
臼井: ありがとうございます(笑)。今日はよろしくお願いします。
早速ですが、今回は「道草」をテーマにAIエージェント開発のリアルを探りたいと考えています。私は、道草を開発現場の言葉に置き換えるなら、「セレンディピティ」(予期せぬ幸運な発見)に近いと思うんですよね。開発の世界では「思わぬ寄り道」が新しい価値につながる例が多くあります。YouTubeも元は「自己紹介動画サイト」から動画共有サービスへと成長しましたし、「Amazon Web Services」(AWS)も「社内サーバを外部に貸し出そう」という発想から生まれたサービスです。
AIエージェントも同じように、1つ用途を作ると「このエージェントはこっちの業務にも使えるのではないか」という気付きを得ることが多い。そうした広がりは、まさに道草の発想から生まれるものじゃないですか?
田中: それは現場でもよく感じます。私は営業部門向けの「自動化エージェント」を開発していますが、事務作業には部門を問わず共通点が多い。開発最中に「これって人事や経理の事務作業にもそのまま横展開できるんじゃないか?」と気付いたことがありました。1つの用途にとどまらず、横展開の可能性を探るプロセス自体が、良い意味での道草なのかなと。
片渕: AIエージェントは登場から日が浅く、その活用方法について全員が手探りで道草をしている状態とも言えますよね。だからこそ、PoC(概念実証)で「作っては修正する」を高速で繰り返すことが重要になる。その試行錯誤を経ないと、現場にフィットする正解は見えてこないと感じています。
臼井: (AIエージェントは)仕事のやり方そのものを根本から変えようという試みなので、どこまで行っても正解が分からないんですよね。
田中: そうなんです。AIエージェント開発に携わっていて感じるのは、「新しい価値を生み出す使い方」「既存業務の効率化」という2つの方向性があるということです。案件として多いのは後者ですが、従来の業務フローをそのままなぞるとあまりうまくいかない場合もあります。なので、最初の段階で今の業務を丁寧に分析し「どこを人間が担い、どこをAIに任せるか」を整理した上で、新しい業務フローをデザインすることがすごく重要なんだなと感じました。それこそ道草ですし、道草には「価値ある開発につながる」面白さがあると思います。
臼井: 自動化エージェントのお話は、まさにAIエージェントの開発現場における良い道草例ですね。
田中: 最初はアプリケーション先行で「こういうものがあれば便利だろう」と作り始めたんです。ところが、実際に営業事務の方々に触ってもらうと「これでは使えません」と……。
片渕: 実際に動かしてみて初めて、現場から「こういうのじゃないんだけど」って言われることはありますよね。
田中: 理由を聞いてみると、こちらの業務理解が十分ではなかったことが分かって。そこで、営業事務の方々とフェース・ツー・フェースで10回以上、話し合いの場を持ちました。リモートでは伝わらないことが多くて、対面で話すことの重要性も痛感しましたね。そうして業務を理解し、「ならばAIエージェントをこう使いましょう」と具体的にすり合わせることで、ようやくスムーズに進み始めたんです。
臼井: エンジニアは、渡された情報を基に「言われた通りのものを作る」のが仕事だと思われがちですし、現場はエンジニアがどういうことをしているのかイメージしづらい。現場の業務が分からないと本当に使われるものにはならない中で、田中さんが「橋渡し役」を担ったんですね。
田中: はい。ヒアリングで聞きたい項目はある程度決まっていたのですが、日立は金融、社会、公共などさまざまな領域で部門が分かれていて、業務のやり方が異なります。営業事務とひとくくりにしても一枚岩ではなく、そこの整理は……すごく苦労しましたね。
臼井: ……聞いているだけで胃がキリキリします(笑)。
田中: 結果として約200に及ぶ業務パターンを洗い出し、「ここは共通化できる」「ここはできない」と整理しながら、共通処理の塊を作ってAIエージェントで自動化できるようにしました。
臼井: PoCの段階で「こんなことができるのでは?」というアイデアを実際に現場で使えるレベルにまで落とし込むのは、ものすごく大きな壁です。PoC自体は比較的すぐ実施できるからこそ、その先にある「本当に現場で使われるものにする」プロセスの重みを考えると、田中さんの取り組みは本当にすごいなと感じます。
片渕: その道草を価値に変えるには、使い手の「熱量」も不可欠です。相手にやる気がないと「よく分からない」といった浅い反応で終わってしまう。逆に、本気で巻き込めれば「もっとこうしたい」という深いフィードバックが得られ、結果として開発の近道になります。
私は田中の後輩という立場で、彼の仕事を横目で見ていたんですけど……正直「大変そう」と思っていました(笑)。だけど、それを乗り越えたからこそ意味のあるPoCになったんだと思います。
臼井: PoCで存分に試行錯誤できるのは、日立さんのような大企業ならではの強みでもありますよね。ただ、それを許容して評価する「文化」がないと道草はできません。お二人はそれぞれ中途、新卒入社ですが日立の開発環境をどう感じていますか?
田中: 日立は新しい技術を試すことに非常に寛容です。前職のベンチャー企業も「自由研究」のような活動が盛んでしたが、日立もロジックを通して周囲を説得さえできれば、協力者が集まって新しいことに挑戦できます。自分で案件を作って推進するスタイルや、型にはめずに模索するカルチャーは、規模こそ違えどベンチャーと共通していますね。
臼井: 本業がしっかりしているからこそ、道草を許容する文化が生まれるんでしょうね。日立さんはまさにそうした環境を持っていると感じます。片渕さんはどうですか?
片渕: 社内の勉強会や発表会など、遊び心を持って技術を試せる環境はとても恵まれていると思います。あとユニークなのが、入社1年目に「工場に行って業務効率化をしてこい」という実習がある点です。現場に出て、自分で課題を見つけて、システムを作って戻ってくるという、ある種の修行のようなものなんですが。
臼井: エンジニアが現場に出されるんですか? 営業職なら分かりますが、それはすごいですね!
片渕: 冬の工場でダウンジャケットを着て震えながらPCをたたいていました(笑)。ここで大事なのは、成果だけでなくその過程(発見や工夫など)を評価する文化があることです。若手にとってこの経験は、とても大きな財産になります。
臼井: まさに道草から価値を得られる貴重な経験ですよね。エンジニアは学び続けなければならない職業だと私は思っています。決められたことだけをやるのではなく、「これも試してみよう」という好奇心がないと、今の技術のスピードにはついていけませんから。
田中: 結局、仕事ができる人は好奇心を持って自ら学んでいる人ですよね。欲を言えばそこに「戦略」もあるとなお良い。やみくもに手を出すだけでなく、「これをやれば将来ここに役立つかも」というイメージを持って興味の方向を定めると、道草がより確実に成果へつながる気がします。私自身、そうした戦略性は今後も意識したいです。
臼井: 道草できる余白を生み出すという観点で、日立さんが出した「AIエージェントの教科書」※は多くのエンジニアに役立ちそうですね。
※「実践AIエージェントの教科書 構築技術と豊富な活用事例で学ぶ」著者:日立製作所 AI CoE(リックテレコム)
片渕: はい。AIエージェントを使いこなし、さらに自分で作れるようになることは、エンジニアにとって今後の大きな武器となります。AIエージェントが1人で何人分もの仕事を代替できる場面も出てくるので、その力を理解し、活用できる人財の価値はどんどん上がるはずです。本書は、「AIエージェントとは何か」「業務でどう使えるのか」をつかんでもらうのにベストな1冊ではないでしょうか。
田中: AIエージェントの基盤技術や、AIエージェント時代の設計の考え方などさまざまなテーマを扱っています。設計の観点でいうと、AIエージェントは「いろいろな機能の組み合わせ」でできているところが面白いと思いますね。生成AIの会話機能など、一つ一つはシンプルな機能の集合体です。それらを組み合わせて大きな役割を果たす仕組みを設計するのが楽しいと感じる人にとって、AIエージェントはうってつけの領域ですし、そのための材料が詰まっている本だと思います。
臼井: 本書の最大の特徴は、金融や製造など幅広い業界の活用事例が体系化されている点です。AIエージェントという新しい領域で、ここまで踏み込んで事例を整理した本はまだ少なく、非常に貴重だと思います。
開発は試行錯誤の連続で、一見、道草に思えることも多いでしょう。でも、その一つ一つは必ずどこかでつながります。若手エンジニアの皆さんが、AIエージェント活用・開発に踏み出すとき、本書が心強い「地図」になるとうれしいですね。
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提供:株式会社日立製作所
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia AI+編集部/掲載内容有効期限:2026年1月13日