クライアントPCもデータセンターに押し込め:e-Day
テキサス州オースチンのClearCubeは、注意深く市場のニーズを洗い出すことから始め、設立から4年後の2000年、最初の製品を出荷した。それがクライアントPCの運用コストを節約できるユニークな「ブレードPC」だった。
今週もテキサス州オースチンの話題だ。これで3週連続となるなが、Dellではない。彼らの本拠地、オースチン郊外のラウンドロックから戻った翌週の2月下旬、早くも東京で「テキサス」と再会した。
「雪が降ったんだ! 2インチも。雪ダルマをつくったよ」と子どものように笑うのは、ClearCube Technologyのケネス・ノッツ。テキサスの記録的な寒波を話題にしたら、どちらかというと静かなIBM FORUM 2004の展示フロアが一角だけ騒々しくなった。
まるでビデオのプレーバックのようだ。ラウンドロックで泊まったホテルのウェイターが大はしゃぎしていたのと同じ。そう、ユニークなクライアントPCソリューション「ブレードPC」を提供するClearCubeも、本社がテキサス州オースチンだったのだ。
ちなみにノッツもマイケル・デルと同じテキサス大学オースチン校で学んだ。
「日本の大学にも愛校心はあるのか?」
ニヤリとして、ズボンの裾を捲り上げ、足首に入れた「Longhorn」の刺青を自慢する。Longhornといっても次世代Windowsのことではない、長い角を持った牛のことでテキサス大学のトレードマークとなっている。
集中管理で運用コストを節約
ClearCubeの設立は1996年までさかのぼる。彼らを新興ベンダーと呼ぶのは、この業界ではふさわしくないだろう。彼らは、注意深く市場のニーズを洗い出すことから始め、企業顧客らの声に耳を傾けた。そうして4年後の2000年に生まれたのが、PCの運用コストを節約できるブレードPCだった。
CPUやメモリ、ハードディスクといったPCの心臓部を載せた細長い基板をケージとかエンクロージャと呼ばれる箱に挿入し、ラックに積み上げる。でん、とオフィスのデスクを占有するPCをデータセンターに押し込めてしまい、リモートから使おうという発想だ。代わりにデスクには、小さな弁当箱のような「User Port」を置き、ディスプレイやキーボードを接続する。この箱にはファンがないため、空調のコストも節約できる。
顧客企業は550社に上り、国内においてもIBMグローバルサービスを介してリーマン・ブラザーズ証券やモルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックス証券といった外資系金融機関に納入実績がある。今回、彼らがやってきたのは、日本アイ・ビー・エムが販売およびサポートを開始するほか、いよいよ日本にもオフィスを開設する準備のためだった。
しかし、一見して似たようなソリューションはほかにもある。Windowsの世界にはマイクロソフトのTerminal Servicesや本家シトリックス・システムズのMetaFrame、サン・マイクロシステムズのSun Rayなどがそうだ。
「ClearCubeは、デスクトップPCを使っているのと変わらない高い性能をユーザーに提供できる」とノッツはThinクライアントとの違いを強調する。データセンターとUser Portの接続は、カテゴリー5のケーブルという汎用的なものだが、中を流れるのはアナログ信号だ。
ClearCubeのブレードPCに真っ先に飛びついたのは、国内の事例からも分かるとおり、金融だ。トレーディングルームを思い浮かべてほしい。幾つものモニタに囲まれたトレーダーが刻一刻と変化する経済や政治をにらみながら、次々と意思決定を下していく。コンマ何秒の差によって巨額の損失をこうむることもあるという。ClearCubeでは、ハイエンドワークステーション並みの性能を求めるユーザー向けに同社は、Xeonプロセッサを2基搭載したブレードPCも用意する。
でも、ブレードPCはブレードサーバと同じじゃないか──、そう、そうなのだ。実際、早くからClearCubeの顧客となった証券会社では、昼間はトレーダーたちが利用するブレードPCを夜になるとサーバとして使い回して重宝しているという。それを倣ってか、こうした使い方は教育機関にも波及しているらしい。その意味からも「ブレードサーバ」を初めて世の中に送り出したのは彼らだといっていい。IBMが全社を挙げて取り組むe-ビジネス・オンデマンド構想にもうまくマッチするのだ。
究極のセキュリティソリューション
ClearCubeが提供するのはハードウェアだけではない。管理者がリモートから監視できるツールや、故障が発生した場合にもラック内の予備マシンを短時間でユーザーに割り当てられるツール、ブレードPCのデータと設定をバックアップ/リストアするツールなどがある。
面白いのは、「Move Manager」と呼ばれるもの。「引越し管理ツール」とでもいえばいいだろうか。モルガン・スタンレーでは、トレーダーの引越しが一人当たり年1.5回あるといい、その都度マシンを物理的に運び、設定を変更するのに800ドル以上を費やすらしい。Move Managerを使えば、ディスプレイやキーボードはそのままにしておき、ブレードPCからブレードPCへデータや設定のイメージを、例えば夜間に一括して移すことによって、大幅なコスト節約が図れるという。
ハードウェアがユニークだったのもそうだが、これら一連のソフトウェア群があって初めて彼らのソリューションが成り立っているといえる。最近は顧客データの盗難・漏洩に社会の厳しい目が向けられているが、ClearCubeのソリューションは究極の選択肢となるかもしれない。
関連記事
- 内部情報漏えいを起こさないための基礎
- 米ClearCube Technology、日本IBMと提携しPCブレード製品の日本向け販売を開始
- 「標準化のS字曲線」はDellの金太郎飴
- Interview:Dellモデルへの自信を語るデルCEOとロリンズCOO
- 寒波も蹴散らすDell
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.