次世代DVD競争――漁夫の利を狙うマイクロソフト?(3/3 ページ)
HD DVDとBD両陣営の競争は激しさを増しているが、その合間をぬって、影響力を急激に拡大しているのがマイクロソフトだ。Longhornでの対応をテコに自社が関わる著作権保護技術とコーデックの採用を両陣営に迫り、標準の根幹をがっちり握る戦略に出ている。
だからマイクロソフトが、Windows Mediaの中で国際標準のH.264もサポートすれば、インターネットとの親和性はどちらも同じになるはずだ。以前ならば、すべてのWindowsライセンスにH.264の特許料を上乗せするのがイヤだからという理由がハッキリしていたが、VC-9にも他社特許が必要であるのなら、どちらを使ってもいい。インターネット(PC)との親和性と、コーデック論議を結びつけている点には、大きな疑問を感じざるを得ない。
ただし「実装はかなり違うものだ」(矢嶋氏)というように、圧縮に関する考え方は同じでも、プログラムレベルでの実装は大きく異なる。マイクロソフトはMPEG-4のリファレンスコーデックの開発を担当したが、その経験を生かしてVC-9はパソコンでデコードしやすいように工夫されている。
例えば、H.264で特にパフォーマンスに影響の出る部分で、浮動小数点演算を固定小数点演算に置き換えたり、アルゴリズムの工夫でパフォーマンスを向上させているところもある。パソコン用プロセッサでパフォーマンスを上げるための手段を熟知しているマイクロソフトだけに、HD映像のソフトウェアデコードという面では、VC-9の方がかなり楽というのが大方の評価だ。そうした意味での独自性は確かに存在する。
とはいえ、VC-9が本当に必要なのかどうか? 実装レベルの話が、事の核心とは考えにくい。
綱を引き合うBDとHD DVD
東芝・山田氏に、「VC-9はなぜ必要なのか?」と質問したことがある。VC-9の抱える問題点、特許問題、ライセンス料金問題などもひっくるめて、山田氏はマーケティング的な要素が大きいと話した。これはBD側も同じで、BDFに参加する複数の大手家電ベンダーが、映画スタジオから、マイクロソフトと少なくとも反目しない状況を作って欲しいと言われているという。
次世代の標準を狙う両者の綱引きが、マイクロソフトにとっての大きなビジネスチャンスを生んだのだ。
実は映画スタジオやビデオソフト制作の「現場」では、次世代光ディスクにマイクロソフトの技術が必要だ、あるいはあった方が良いという声はほとんど聞かれない。ほとんどの関係者が、MPEG委員会の決める国際標準を利用することが望ましいと考えている。アドバンスドコーデックにおける画質の不満もH.264/AVC FRExtで消えた。
だが、VC-9が家電製品の標準コーデックになる可能性に気付いたマイクロソフトが、そうやすやすとあきらめる訳がない。実はこの春、大手のハリウッド映画スタジオがBDFに参加するという噂が流れたことがあったが、この動きに対して牽制球を投げて防いだのもマイクロソフトだったと言われる。マイクロソフトの発言は、例え映画業界に対して直接響かなくとも、大手メディア企業であればトップに対して影響力が働く。
では、なぜマイクロソフトがチャンスを得たのか? ここでは詳しく言及はしないが、両陣営の政治ゲームの中でスキができたことは否定できない。
果たして5年後、どのような時代が来るのだろうか。マイクロソフトは、どこまで影響力を行使できる立場になっているだろう。いずれにしろ、過度の規格争いが業界にゆがみをもたらした。このゆがみは未来へと先送りされるものだ。
本格普及は2006年以降から始まると言われる次世代光ディスク。関係者からは「もう光ディスクの時代じゃないかもしれない。光ディスクへの記録はアーカイブのみで、ハードディスクが世の中の中心。HDビデオソフト市場の早期立ち上げこそが重要」との声も聞かれる。
ならばこそ、そろそろ決着を付けるべきだが、すでに大量の投資を行っている企業は後に引けない状況なのかもしれない。
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