ワンセグ・モバイルを生かす道(2/2 ページ)
視界不良のワンセグ・モバイルだが、地上波放送事業の公共性に照らして考えれば、活用の道筋はかすかながら見えてくる。広告放送事業の現状の姿との関連で捉えてみることがヒントになりそうだ。
テレビ広告収入は大きく分けると、番組提供の形で流されるタイム広告費と、番組と番組の間(ステーションブレイク、ステブレ)に流されるスポット広告費の2種類がある。
ただ、実情からすれば、番組の制作費は公式通りのタイム広告費では賄いきれておらず、スポット広告費からも多くの金額が充てられている。むしろ、スポットのほうがメインになっているとさえ言えるぐらいだ。
これは地上波民放全般について言える傾向であり、タイムで下支えして、スポットで上乗せするという形になっている。このうち、スポンサーが視聴率について敏感に反応するのは、スポット広告の方である。タイム広告のスポンサーは、番組の中身についての注文は多いが、視聴率についてはそれほどではないという。視聴率があまり悪いようであれば別として、通常は10%だから料金を下げろとか、20%だったら料金を上げてくれるとか、そういう話にはならないのだ。
ちなみに、スポット広告費の料金が、前後の番組の視聴率によって決められることは確かだが、ステブレ枠というのは、前の番組の視聴率が悪くても、次の番組の視聴率が高ければ、前の番組の後半から上がってくるという傾向がある。だから、前の番組の視聴率が8%でも、次の番組が30%であれば、8%の番組の前半が5%でも、後半は15%近くになっていく。そこからステブレに入ったところで、ステブレ枠では20%近くになるという仕組みになっている。
そうしたテレビ広告ビジネスの現状を踏まえれば、ワンセグ・モバイルで、番組につくスポンサーのことばかり気にかけるのは間違いであり、タイム広告の出稿が少ないことを心配する必要はないことが分かる。現時点では、視聴率の計測が出来ないことがネックだという意見が多いが、コンテンツのあり方やテレビ広告ビジネスのあり方といった原点に立ち返れば、もう少し新たな展開が視野に入ってくるはずである。
そして、何よりも地上波放送に与えられた公共性の高い使命についても、再度、自覚が促されるべきだ。限られた電波を優先的に使うことを認められているのは、それなりに社会的存在としての意義が高いからである。地上波放送各局は、その意義に応えるべく放送事業を行ってきたからこそ、今のようなところまでブランド力が上がってきたのである。あまりにビジネス性のことばかり気にかけるようになってしまったら、せっかくのブランド力が下がってしまうことになりかねない。
ワンセグ・モバイルへの対応を考える上でも、そうした経緯を十分に踏まえておくべきなのではなかろうか。
西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、潟IフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。
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