ポータルビジネスはソーシャル化されるのか?(中):ネットベンチャー3.0【第14回】(2/2 ページ)
佐々木俊尚氏が日本のベンチャーにおけるWeb2.0ビジネス最前線を描く連載企画。オンラインゲームポータルにソーシャルサービスを持ち込もうとする@gamesの動きを追う。
ゲーム中のコミュニティーに現実世界のコミュニティーを
上原さんの言う「ソーシャル」は、「コミュニティー」とは別の定義で語られている。コミュニティーが単に人と人がつながっている状態、もしくはその圏域を意味しているのに対し、ソーシャルというのはコミュニティー内で他者とつながっている関係性そのものを指している。たとえばひとりのビジネスマンは、「会社のコミュニティー」「家族のコミュニティー」「会社を離れた友人たちのコミュニティー」「同級会のコミュニティー」などにそれぞれ属している。コミュニティーとしてはそうやって多面体的になっているのだけれども、しかしビジネスマン個人にとっては、それぞれの関係性自体が、自分のソーシャルであり、それらの関係性はシームレスに自分という人間が他者と出会う場所の中に存在しているのだ。
つまりはソーシャルというのは、多面体的になっている所属コミュニティーに対して、自分がどのように接続されているのかを定義することばと言ってもいいかもしれない。
この話を敷延すれば、MMORPGについても、コミュニティーだけでなく、そこにソーシャルの概念を持ち込めるのでは――という進化形態が考えられる。つまりMMORPGの世界の中だけで完結しているコミュニティー、関係性だけでなく、その中に「会社の同僚とのコミュニティー」「家族とのコミュニティー」「旧友とのコミュニティー」を持ち込み、それらを総体としてMMORPGのソーシャライゼーションとしていけるのではないかということだ。もしこれが実現すれば、それはMMORPGのWeb2.0化となるだろう。
ジークレストが考えたのは、上記のようなオンラインゲームのWeb2.0的発展型だった。前出の末光さんは、こう話す。「SNSの特徴であるソーシャル機能と、オンラインゲームで特徴的なリアルタイムコミュニケーション能力を融合させれば、非常に面白いサービスになるんじゃないかと考えたんです。その結果が、アバターのセルフィでした」
「ユーザーがユーザーの手で作る、それがWeb2.0の本質なんですよね。だからアバターの衣装をユーザーが作って、ユーザー同士がゲーム内通貨で交換するような仕組みも、近く実装します。利用者の視点から見て、セルフィの世界を市場として考えてもらい、その利用者が自分の宣伝に使ったり、あるいは金を儲けてもらったりといった行為を通じて、利用者の方々が楽しんでくれたらいいなあと思っているのです」
ソーシャルとゲームを融合させ新たな道を拓く
日本のオンラインゲーム市場は、韓国ゲーム企業に席巻されている。ゲームポータルサイト最大手の「ハンゲーム」を運営するNHNや、人気MMORPG「リネージュ」のエヌシーソフトなどが代表的だ。末光さんによれば、MMORPGに関して言えば、韓国製のゲームにはどちらかといえば戦闘主体になっているものが多い。徴兵制の影響なのかどうかはよくわからないが、敵と戦って生き抜いていくようなシナリオが韓国では好まれるのだ。これに対して、日本で好まれるMMORPGは、他のプレーヤーとの協力や生産、趣味などを主体にしたものが好まれる。どちらかといえば、平和・協調的なのだという。
ソーシャルネットワーキングの世界では、民族性が非常に重要視される。その国の文化によって、他人との距離感やコミュニティーのあり方、人とのつながりかたが異なってくるからだ。だからmixiはサービスをローンチして以降、日本人特有の他人との距離感をうまくネット上に醸し出すことに全力を傾けてきて、その空気感を上手に実現することによって、多くの利用者の共感を得た。アメリカや韓国のSNSが日本に上陸しても、なかなかうまく離陸できず、mixiの牙城を崩せないでいるのには、そうした文化的背景もある。となると、オンラインゲームSNSの世界でもそうした国ごとの空気感は異なるはずで、そうした空気感をうまく醸し出すことができれば、日本市場に受け入れてもらえるようになるのではないか――末光さんはそう話すのである。
「交換日記をベースにしたSNSでは決してmixiに勝てないし、ゲームポータルではハンゲームに勝てない。しかしどちらの道でもない、ソーシャルとゲームをうまく融合させた第三の道があるのではないかと考えていて、そこで新しい切り口を出していけるんじゃないかと思うんですよね」
@gameは、現在の段階ではβ版であり、完成形にはまだかなり遠い。末光さんは「いまはコミュニティーからゲームがただぶら下がっているだけの状況で、シームレスにつながっていない。これをきちんと同じ地平で接続し、それぞれのコンテンツの中にコミュニティー機能がシームレスに存在しているようなかたちにしていかなければならない。コミュニティーの中で、コミュニティーとゲーム、人とのつながり、会話がすべてシームレスになっていかなければ」と話す。これらは、今後の課題だ。
さて、ここまで読んでいただいた人の多くは、おそらく次のような感想を抱かれるのではないかと思う。
「それって、Second Lifeじゃないの?」
まったくその通りであって、末光さんも「Second Lifeは思い切り意識しました」と話している。つまるところ、SNSによるリアルタイムコミュニケーションを目指していくと、どうしてもSecond Lifeのようなモデルに行き着いてしまうのは間違いない。これはSNSの進化としては、きわめて真っ当な道筋であり、将来の進化形態のひとつの可能性でもある。
次回は、日本語版スタート間近なSecond Lifeと、このサービスが日本の市場に投げかける大きな問題について述べたい。
(金曜日に掲載します)
佐々木俊尚氏のプロフィール
1961年12月5日、兵庫県西脇市生まれ。愛知県立岡崎高校卒、早稲田大政経学部政治学科中退。1988年、毎日新聞社入社。岐阜支局、中部報道部(名古屋)を経て、東京本社社会部。警視庁捜査一課、遊軍などを担当し、殺人や誘拐、海外テロ、オウム真理教事件などの取材に当たる。1999年にアスキーに移籍し、月刊アスキー編集部デスク。2003年からフリージャーナリスト。主にIT分野を取材している。
著書:「徹底追及 個人情報流出事件」(秀和システム)、「ヒルズな人たち」(小学館)、「ライブドア資本論」(日本評論社)、「検索エンジン戦争」(アスペクト)、「ネット業界ハンドブック」(東洋経済新報社)、「グーグルGoogle 既存のビジネスを破壊する」(文春新書)、「検索エンジンがとびっきりの客を連れてきた!」(ソフトバンククリエイティブ)、「ウェブ2.0は夢か現実か?」(宝島社)など。
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