上場ベンチャー株式のオーナー持ち分は高すぎる:金融・経済コラム(2/2 ページ)
日本のベンチャー企業が上場する際にオーナー社長の持ち分が過半数を占める、ということはめずらしくありません。しかし、いざというときは社長が何でも決められる状態での上場は、コーポレートガバナンスの観点から難ありと言わざるを得ません。
投資金額の単位が小さいことも、自ずと投資家の持分が低い理由
一方、日米のベンチャー投資環境を比べると、日本の方が投資金額の単位が小さく、自ずと持分が低くなるという点もあります。砂川氏によると「米国ではシードラウンド(例えば3人の起業家が5枚ほどのスライドをベンチャーキャピタルに見せて事業アイデアを説明、というレベル)でも、経営者、事業モデルが魅力的だと5億円程度出資することも多々ある。ただ、日本だとそういうレベルの場合は良くても数千万円の出資しか出てこない。それは、日本では担当者の取り扱える金額がそれぐらいだという理由であり、合理性はない。あくまでベンチャーキャピタル側の理論であり、そういう環境の日本で起業するなら調達金額は自ずと限られてくるので、オーナー持分比率も高止まりする」とのことです。
株価も日本では割高ではないか?
ベンチャー企業に対する株価評価も最近は高い傾向にありますが、これに関しては砂川氏もそのように感じているようで、「各企業ごとに正しい株価を算出して投資をするというよりは、今は単なるベンチャー企業の株価の全体的な底上げになっているのが残念。ベンチャーキャピタルのファンド規模が必要以上に巨大化してしまい、ベンチャー市場が壊れているのではないか?これは、ベンチャーキャピタルとしての目利きができていないとも言える環境」とのことで、そうなると自ずと株価が高くなって企業が発行する株式数も少なくなり、ますますオーナー持分を高い状態で維持できるということになってしまいます。一方、砂川氏は「ただ、状況として起業家にとって資金調達がしやすい今の日本の環境はいい状況であることも確かだ。今まではリスクマネーがとにかく乏しかったのが日本でのベンチャー市場であり、もし今の状況がそういうリスクマネー不足から脱するきっかけであれば、それは喜ばしい」と指摘します。
オーナー持分比率が高いと上場後の株価形成がいびつに
砂川氏の経営するロケーションバリューも上場を目指しているそうですが、「上場後に流動性(発行済株数に対して市場に出回る株数の割合)が低いと株価がいびつになってしまう。株価がつかないこともあれば、株価形成が違う場合もある。それは誰にとっても好ましいことではない」とのことで、現在の砂川氏の同社に対する持分比率は40%以下であり、経営陣の持分比率を合計しても過半数は切っているそうです。今後上場までにさらなる資金調達も予想されるので、経営陣の持分比率はさらに下がることになります。そういう状況に対して不安はないのかと聞いてみると、「持分の希薄化と会社の成長を加速されることとどちらをとりますかって話になると、それは成長。自らのアイデアを具現することが重要であり、そのために起業をした」とのことでした。
上場後の株価形成、一般株主保護、そして上場前の投資家と経営陣の信頼関係の構築など、砂川氏が描くベンチャー企業経営論は、今の時代、まさに日本のベンチャー界に求められているものではないかと思った次第でした。
保田隆明氏のプロフィール
リーマン・ブラザーズ証券、UBS証券にてM&Aアドバイザリー、資金調達案件を担当。2004年春にソーシャルネットワーキングサイト運営会社を起業。同事業譲渡後、ベンチャーキャピタル業に従事。2006年1月よりワクワク経済研究所LLP代表パートナー。現在は、テレビなど各種メディアで株式・経済・金融に関するコメンテーターとして活動。著書:『図解 株式市場とM&A』(翔泳社)、『恋する株式投資入門』(青春出版社)、『投資事業組合とは何か』(共著:ダイヤモンド社)、『投資銀行青春白書』(ダイヤモンド社)、『OL涼子の株式ダイアリー―恋もストップ高!』(共著:幻冬舎)、『口コミ2.0〜正直マーケティングのすすめ〜』(共著:明日香出版社)、『M&A時代 企業価値のホントの考え方』(共著:ダイヤモンド社)、『なぜ株式投資はもうからないのか』(ソフトバンク新書)。ブログはhttp://wkwk.tv/chou/
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