レコメンデーションの虚実(12)〜Facebookの灯台はすべてを明るく照らし出す:ソーシャルメディア セカンドステージ(2/2 ページ)
ネットジャーナリスト佐々木俊尚氏が次世代ソーシャルメディアのかたちを探る連載「ソーシャルメディア セカンドステージ」。前回に続き、米国の巨大SNS「Facebook」に注目し、Facebookが進めているソーシャルメディアのライフログ化の具体例を解説します。
ライフログとプライバシー問題
mixiがライフログを音楽に限定しているのは、おそらく(この部分について私は笠原健治社長に明確に聞いたことはないので、憶測でしかないのだが)ライフログを自動収集してしまうことに対するプライバシー侵害の懸念が大きいからだろう。プライバシーの問題についてはこの連載の次回以降で詳しく書くつもりだが、プライバシーに対する感覚は国によっても異なるし、ソサエティーによっても異なる。アメリカのプライバシーに対する感覚は日本よりはずっと緩やかだ。また日本でも、ケータイユーザーの方がパソコンユーザーよりも緩いプライバシー感覚を持っている。だからFacebookのライフログ機能がアメリカで受け入れられているからといって、そのまま日本に持ち込めるわけではない。
いや、さらに言えばアメリカでも反発の声は相当にあったようだ。2006年9月にFacebookがこのニュースフィードのサービスを提供し始めたとき、利用者からはかなり強い反発の声が上がったという話が、テッククランチで紹介されている。“Facebookのユーザーが反乱、Facebook回答する”という記事だ。引用しよう。
「News Feed」と「Mini Feed」と呼ばれる2つのサービスではユーザーは友人関係の変更や加入したグループ、アップロードされた画像その他、友人たちの動静をストリーミングニュースのフォーマットで簡単に知ることができる。何万人ものFacebookユーザーはこの機能に反対している。(中略)もしこれらの機能がFacebookのスタート当初からあったとして、今削除されようとしているのだったらユーザーは金切り声を上げて反対しているに違いない。これは友人たちが何をしているか知る強力なツールだし、プライバシー上の理由から情報を削除する設定も容易だ。
私はこの連載前回の冒頭で、こう書いた――アメリカで急成長しつつあるSNSのFacebookは、mixiの百キロ先を歩いている。それが良い方向なのか、それとも怪しい方向なのかはまだ分からない。だが現時点で言えるのは、Facebookはソーシャルメディアとライフログの融合を果たしつつあるということだ――。「怪しい方向」というのは、プライバシーの面でかなり危ない要素をはらんでいるからだ。これがどうなるかは、まだ予断を許さない。
ニュースフィードにソーシャル広告を持ち込むFacebook
そしてFacebookはこのライフログ化をさらに進化させ、マネタイズモデルを持ち込もうとしている。それが11月はじめにリリースされた「Facebook Ads」だ。この広告サービスの凄さについては、IDEA*IDEAの“Facebookの「Social Ads」ってすごくね?”というエントリーに非常にわかりやすく書かれている。
簡潔に説明しておけば、Facebook Adsはニュースフィードを使ってソーシャル広告を展開してしまおうというモデルで、いくつかのサービスの集合体になっている。広告主となる企業は、ユーザーのプロフィールページと同じような専用ページを作成することができる。例えばコカコーラの専用ページの「ファンになる」というボタンを押すと、「わたしはコカコーラのファンだ」と宣言できる。そしてこの宣言は、ニュースフィードによって配信される。「佐々木俊尚はコカコーラのファンになりました」と私の友人たちにこの宣言が送られるという仕組みだ。
広告主は自分の専用ページにさまざまなアプリケーションを組み込むことが可能で、例えば専用ページからレストランを予約したり、映画のDVDや前売り券を購入したりといったこともできる。そうすれば「佐々木俊尚は○○という映画のDVDを購入しました」「佐々木俊尚は△△というレストランを予約しました」という情報が、ニュースフィードで友人たちにばらまかれる。
これまでニュースフィードは、Facebook上のごく限定された行動――誰かと友だちになったり、写真や動画をアップロードしたり、コミュニティーに参加したりといった行動しか配信対象にできなかった。だがここに外部の企業の営業活動を持ち込んだことによって、Facebook上での行動の範囲は劇的に広がった。モノを買ったり、コンテンツを鑑賞したり、資料請求をしたりという行動が可能になり、そしてこれらの行動も友人たちに伝達されるようになったのである。
Facebook Beaconはライフログの究極の姿?
これだけではない。Facebook Adsには「Facebook Beacon」という驚くべき機能も加えられている。このBeaconをFacebookの外部のサイトに埋め込んでおくと、Facebook会員がそのサイトで何かの行動を取った場合、その行動データが自動的にFacebookに送信され、友人たちに配信されるというものだ。ちなみにBeaconからの送信は、Facebookの設定ページの中で「許可する」「通知する」「許可しない」の3つの選択肢からあらかじめ選んでおく仕組みになっている。
このBeaconは、Facebookのライフログ戦略を加速させる可能性がある。ライフログをFacebookの中からだけでなく、インターネット上のありとあらゆるところから収集することが可能になるからだ。例えば次のようなことが起きてくる。
――楽天のショップでデジカメを購入すると、mixiのマイミクに「佐々木俊尚は楽天の○○ショップで△△というデジカメを購入しました」という情報が流れる。カカクコムでそのデジカメのクチコミ評価を書き込むと、マイミクに「佐々木俊尚はカカクコムにのクチコミ評価を書き込みました」と流れる。ヤフオクで売りに出すと、「佐々木俊尚はをヤフオクに出品しています」と流れる。
Beaconが普及していけば、ありとあらゆる行動がとらえられ、友人たちに伝えられていく。もちろんそのデータは友人たちに伝えられるだけでなく、Facebookのサーバにも蓄積される。この仕組みが受け入れられ、Beaconがオープンプラットフォーム化していけば、Beaconによってひとりの人物のインターネット上の行動はすべて捕捉できるようになる。まさしくビーコン(灯台)のように、インターネットのすべてを照らし出す新たなプラットフォームの出現である。これはライフログの究極の姿だ。
次回はこのBecon、そしてFacebook Adsの可能性についてもう少し考えていきたい。
佐々木俊尚氏のプロフィール
ジャーナリスト。主な著書に『フラット革命』(講談社)『グーグルGoogle 既存のビジネスを破壊する』(文春新書)『次世代ウェブ グーグルの次のモデル』(光文社新書)『ネット未来地図 ポスト・グーグル次代 20の論点』(文春新書)など。雑誌連載に加筆した『起業家2.0 次世代ベンチャー9組の物語』を上梓したばかり。連絡先はhttp://www.pressa.jp/。
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