携帯フィルタリング、やるべきはソコか?:小寺信良(3/3 ページ)
未成年者の新規加入に対する携帯フィルタリングが原則化された。事業者や当の子どもたちからの懸念もあるが、そこには「親」の立場からの意見がないように思える。それに、「まずはフィルタリング」でいいのか?
まず何が先か
親がやって欲しいことには、プライオリティがある。まず子供から遠ざけたいのは、架空請求のような「詐欺」と、「援助交際」だ。早い話が、「ダマされてカネとカラダを持ってかれること」をまず先になんとかして欲しい。エロ画像やなんかは「詐欺」がらみでなければ、筆者などは後回しでいいと思っている。どうせ見たいヤツは、どうやったって見るのだ。
親だからといって、子供がどんな情報にアクセスしているかを、常時監視できないというのが実情だ。通信の秘密という大原則は家庭内においても守られるべきだし、モバイル端末であるがゆえに、物理的に親の目が届かない場所と時間でアクセスされたら、防ぎようがない。またケータイサービスの全部を、親が知っているわけでもない。モバゲータウンが何か知らない親は、いくらでもいるのだ。
変なところに行くのは、自分の子供をちゃんと教育してないのが悪いだろ、というのは、今の子供のネットワークの実情を知らない意見だ。子供がわざわざ自分で望んで、怪しげなサイトに入り浸ることは希である。
実態は、友達経由で回ってきたチェーンメールだったり、SNSのようなコミュニケーションの場に書き込まれたURL情報でそうとは知らずに巻き込まれるというのが、経験から感じる実態である。いくら自分の子供だけを無菌室に入れて教育しても、好奇心までは制御できないものだ。それは自分の子供の頃を考えてみれば、よくわかるだろう。
モバゲータウンのように、コミュニティサイトをきちんと大人の目で監視するというのは、効果があるだろう。しかし今のところメールに関しては、誰も手を打っていない。現在のURL制御は、簡単に両方の穴を出口でふさぐ方法だが、このやり方には批判があって当然だろう。
子供を制御しようと考えるよりもまず、悪意のある情報の出所を叩くというのが、社会秩序の回復方法として本筋であろう。たとえいたちごっこであったとしても、放置するというのは、社会システムとしての敗北である。
議論の中で、そもそも規制などすべきではないという意見は、事態を楽観視しすぎているように思う。始まりはねじれ国会の副産物だったかもしれないが、今の段階でなんらかの手を打とうという話になったのは、むしろ幸いだったのではないか。もちろんその「手」がフィルタリングでいいのかという点は議論しなければならないが、被害が拡大して、かつてのダイヤルQ2や伝言ダイヤルのように社会問題にまで発展して大規制、メディア消失という轍を踏まないだけ、マシだろうと思う。
そもそもの問題は、子供をダイレクトにターゲットにした詐欺というものがあるわけではなく、大人向けの詐欺に子供が引っかかるということである。それならばまず、ネットにおける詐欺というものの撲滅に向けて、ネット社会を形成する人間が動かなければならない。
それはなにも、訴訟や闘争を意味するのではない。詐欺に直結するようなサイトの情報をきちんと伝えて、それを多くの人同士で共有していく、つまり薄暗い物陰に光を当てるということでも、十分な自浄効果は得られる。そういう点で筆者は、世の中には悪いヤツよりいいヤツの方が人数が多いと信じている。
そこが楽観的すぎるというのならば、もはやネットは秩序のない闇だ。
小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は小寺氏と津田大介氏がさまざまな識者と対談した内容を編集した対話集「CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ」(翔泳社) amazonで購入)。
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