OLPCプロジェクトを制したMicrosoftの「OWPC」戦略(2/2 ページ)
MicrosoftがOLPCのXOにWindowsを搭載すると発表した。OLPCはLinuxとのデュアルブートオプションを提供するとしているが……。
利益の衝突
OLPCのアプローチが不完全なのは確かだ。散々批判されるのももっともだ。しかし少なくとも、創始者のニコラス・ネグロポンテ氏は、最初は新興国向けの新しい、それでいて手ごろな価格のものを作り出すことで妥協点を見いだそうと試みはした。それがハードウェアの設計とLinuxベースのSugar OSを生み出した。しかし慈善事業は時に、利益が衝突する企業からの抵抗に遭うものだ。
例えばIntelはOLPCプログラムを声高に批判してきた。最初はMicrosoft幹部もXOを批判した。ビルも2006年1月に世界経済フォーラムで行った講演を含め、何度か批判している。教育用の安価なLinuxノートPCは、Microsoftの新興国における事業目標の障害となりかねない。
Windows XPを採用するという決定により、OLPC内部では衝突と分裂が生じたらしい。企業よりも大きなエゴが膨れ上がり、順応しようとする意思が驚くほど低い慈善団体も多いのだ。3月にはアイバン・クリスティッチ氏が目標が変わったことを理由にOLPCを去ったが、これはWindows XPと関係があるに違いないとの見方もある。同氏はブログで次のように述べていた。
「少し前にOLPC内部で劇的な再編があり、これに伴って、公に説明しているのとは裏腹に、わたしがプロジェクトに誘われたときに共感していた目標と展望は根本から変わった」
その約1カ月後、ウォルター・ベンダー氏もOLPCを去った。ウォルターとアイバンはSugar OSの開発に携わっていた主要人物だった。ウォルターの辞任談話はXOへのWindows XP搭載について何も触れていない。しかし報道によればOLPCを離れる前、ソフトウェア・コンテンツ責任者の地位を下ろされていたという。
甘いSugarを選ぶか、辛いWindowsを選ぶか
Windows XPを採用するという決定、そしてSugarを捨てるという決定も大いにあり得るが、その理由は1つではない。前述した事業上およびOLPC内部の衝突が絡んでいるに違いない。Windowsの方が親しまれているという理由もあるかもしれない。MicrosoftがWindows Vistaで学んだように、企業やコンシューマーが使い慣れたもの(Windows XP)で満足している場合、新しいものを売るのは難しい。
Windowsを「人々が求めている」というジェームズの言葉は疑わない。しかし人々とは誰のことだろう。政府やNGOは、生徒たちのために何が欲しいのか。もっと差し迫った課題は、自国の経済のために今何を欲しているかだ。Microsoftのパートナーは至る所にいる。Windowsへの付加製品とサービスを提供する上で、Sugar OSよりも優位な立場にある。生徒たちがSugarよりもXPを求めて立ち上がるというのは相当疑わしい。多くの地域では子供たちはOSなど関係なく、ノートPCがあれば十分満足するだろう。しかしMicrosoftにとってはOne Windows Per Childが唯一のプログラムなのだ。
当面はOLPCを受け取る側が、XOノートでSugarかWindowsかを選択できる。しかしジェームズのブログによると、
「子供たちが1台のマシンでLinuxとWindowsのいずれかを使える『デュアルブート』のオプションを提供するため、OLPCは新しいBIOSを開発し、XOのフラッシュストレージ容量を増やす予定だ。XOで引き続きWindowsが快適に使える限り、これはわれわれにとって結構なことだ」
最後の1文は、Microsoftの事業がOLPCの目標よりも優先されると言い切ったものだ。もう1度読んでみるといい。ジェームズのブログ全体の文脈に照らして読んでみてほしい。
MicrosoftがXOのような端末向けにライセンスするのはWindows XP HomeであってProfessionalではない。学校はコンピュータをどうやってネットワーク化すればいいのだろう。P2Pを使うのか。手を加えていないXP Homeはネットワークドメインには接続できない。古いものや、Windows Starter Editionのように機能が少ないものを提供する上では、このような問題が多数生じる。
XOにとってSugarが実社会で最高の実用的なOSだとは言い難い。しかしその開発は称賛すべき取り組みであり、Windows XPを提供しなくても、OLPC WikiにはSugarとXOの成功が多数記録されている。
1人1台は過剰?
結局のところ、OLPCの最大の問題は「子供1人にノートPC 1台」という基本理念にあるのかもしれない。ビルは何度かXOを批判した時に、携帯電話を選んだ方がいいと言った。まったくその通りだ。ほとんどの新興国市場では、最初のインターネット対応コンピューティング端末といえば携帯電話であって、PCではない。
この現象は「テクノロジースキップ」と呼ばれることもある。つまり、市場が一群の製品を飛ばして新しい製品に移るのだ。携帯電話が高度化し、ワイヤレスデータの帯域幅が増え、スマートフォンの価格が下がる中、携帯端末はPCの代替として通用するようになっている。
テクノロジースキップは、新興国市場に開発最先端の、あるいは少なくとも現行の製品をもたらす。この状況なら新興国市場は古い技術で作られた成熟製品を越えて先へ踏み出すことができる。これはMicrosoftが旧式ではなく最新のソフトとサービスを提供している分野でもある。
Windows Mobile 7でLive Meshに接続するスマートフォンこそコンピューティングの未来だという人もいる。この組み合わせは無限の可能性を広げてくれるのだろうか。
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