MS、「ユーザーデータ保持期間ゼロでは質の高い検索は提供できない」
米Yahoo!が表明したユーザー情報保持期間の短縮は、ゼロリテンションポリシーにつながるのか。GoogleとMicrosoftは追随するのか。
米Yahoo!がユーザーのログ記録の保持期間短縮を決めたことを受け、業界観測筋からはGoogleとMicrosoftも追随すべきだとの声が上がり、政府規制当局の圧力で来年には検索のゼロリテンション(保持期間ゼロ)ポリシーにつながるとの予想もある。
eWEEKが取材したMicrosoftのプライバシー戦略責任者ブレンドン・リンチ氏は、Microsoftにとってゼロリテンションポリシーは不可能だと言い、そんなことをすればLive Searchの品質低下といったさまざまな問題が起こると話した。
この問題はYahoo!が12月17日、検索エンジンで収集したユーザーのログ記録(ユーザーの検索用語、IPアドレス、デジタルで足跡をたどるcookie)の保存期間を現在の13カ月から3カ月に短縮すると表明したことで火が付いた。Yahoo!、Google、Microsoftの3社は、ユーザー情報が必要なのは質の高い検索を提供し、悪意あるユーザーや詐欺行為からユーザーを守るためだと説明している。
検索第2位のYahoo!が取った今回の措置は、これまでで最も積極的な対応となる。検索最大手のGoogleは9月に、データ保持期間を18カ月から9カ月に短縮。第3位のMicrosoftは2007年7月以来、18カ月の保持期間を変えていないが、もしもGoogleとYahoo!が同調するなら6カ月に短縮してもいいと表明している。
プライバシー保護を主張する立場からは、Yahoo!の動きを慎重ながらも評価する声が上がっている。しかしYahoo!、Google、Microsoftはもっと踏み込んだ対応ができるはずだとの立場だ。消費者権利団体の電子フロンティア財団(EFF)技術者ピーター・エッカースリー氏はeWEEKに次のように語った。
Yahoo!の狙いは社内での研究・開発用途に使える情報を大量に保持しておき、一方で『当社は検索履歴ファイルをこれほど大量に保持しているので、その中からあなたの検索履歴ファイルを探し出すのは極めて困難だ』と言えるようにしようということのようだ。これは正しい方向に踏み出す大きな一歩だ。
しかしYahoo!はまだ、ユーザーのIPアドレス32けたのうち24けたを保持しているとエッカースリー氏は指摘する。つまりYahoo!が誰かのIPアドレスを持っていて、その人の検索履歴を見つけたい場合、50〜100本のファイルを掘り起こしてその中の1つがその人のものだと言えることになる。人間あるいは統計分析プログラムがそれに目を通し、該当する人物のファイルを言い当てられる可能性もある。
非営利の消費者保護団体Consumer Watchdogのプライバシー保護担当者ジョン・シンプソン氏は、GoogleやYahoo!のユーザーはほとんどが毎日訪れて新たな個人情報を継続的に提供しているため、ゼロリテンションポリシー以外では不十分だと話した。Consumer Watchdogは、ユーザーが自分のデータをコントロールでき、匿名で閲覧できるようにするオプションの提供を求めている。
しかしMicrosoftのリンチ氏によると、Live Searchで収集している検索データは何通りにも利用されている。ユーザーの検索用語を分析して検索の適合性向上に役立てるほか、ユーザーのログ記録はMicrosoft Live Searchでセキュリティ上の脅威を回避し、検索結果のランキング操作を防止し、クリック詐欺に対抗する役に立っているとリンチ氏は言う。
Microsoftはこの問題について検討した後、6カ月のリテンションポリシーなら実現可能だとの結論を出した。もしもGoogle、Yahoo!、Microsoftの3社が6カ月という期間で合意できれば、検索エンジンをめぐる競争の場は平等になる。「分析できる情報を多く持っている企業ほど、検索エンジンの適合性を向上させる能力は高くなる」と同氏。
ではMicrosoftはYahoo!の3カ月というポリシーに追随するのか。リンチ氏はこの質問に乗って来なかった。Microsoftは常に、どのくらいの期間なら容認できるのかを検討していると述べるにとどめ、「究極的には、当社が求めているのは単なる保持期間にとどまらない、業界全体で共通するアプローチだ」と話した。
しかし保持期間数カ月でプライバシー保護団体が満足する見通しは薄い。この問題ではGoogleよりもYahoo!の方が明らかによくやっているとEFFのエッカースリー氏は言う。Googleはいまだにcookie IDを18カ月間保持しているため、ほとんどの場合、18カ月間は個人の検索履歴を極めて容易に参照できてしまう。さらに、氏名や電話番号といった情報の「暴露型」検索の削除もまだ表明していない。
「Yahoo!は賞賛に値する。そして検索エンジンを脅してインターネットユーザーのプライバシー保護を強化させた欧州委員会(EU)も賞賛に値する」とエッカースリー氏。
一方Googleは、9月にデータ保持期間を18カ月から9カ月に短縮しており、現行のこのポリシーで問題ないとの立場だ。
「ポリシーの変更に当たっては、当社が提供するサービスとユーザーのプライバシー保護の両方を勘案し、どうするのがユーザーにとって最善かで判断した。当社はこのバランスを継続的に評価している」。Googleの上級プライバシー顧問ジェーン・ホーバス氏はeWEEKにあてた電子メールでこう説明した。
Microsoft、Google、Yahoo!は2月に欧州委員会の諮問機関である29条調査委員会でプレゼンを行い、それぞれの主張を展開する見通し。29条調査委員会はEU加盟27カ国の情報保護担当委員で構成される。
ユーザーのプライバシーを守ろうとする政府機関と、サービス向上のためのデータ保存にこだわる検索プロバイダーとの綱引きが、この場でまた繰り返されることになる。
これまでのところ、欧州委員会の方が検索エンジンの規制に積極的な姿勢を見せている。バラク・オバマ次期大統領が就任する2009年、米国内外でこの戦いがどう展開するのかは不透明だ。
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