2つの合宿・田口編:シリーズ「ゆるやかにつながる」(2/2 ページ)
現代ビジネスパーソンの横のつながりを追うシリーズ「ゆるやかにつながる」。第1回のテーマは「合宿」だ。2006年12月中旬、筆者は伊豆半島・今井浜海岸にいた――。
1つのことに集中できない「ダメ人間」、割り込み仕事に悩む技術系責任者
参加者は何を求めているのだろうか。サイボウズ・ラボの秋元さんは「ぼくはダメ人間なんで、1人で開発できないんですよ」と苦笑する。筆者も心当たりがあるが、自室にこもって作業していると、漫画や雑誌などを読んでしまったり、何気なく目を移したテレビ番組を見続けてしまい何時間も浪費してしまう。開発者という同じ立場の人間が集まることで、相互に監視し、議論して刺激しあう――そんな関係も開発合宿で効率が上がるポイントだといえそうだ。
「もともとは田口さんから技術的な質問を受けていたんです」と語るサイドフィードの赤松さん。2005年に「check*pad」を開発するため、田口さんとともに合宿したのがきっかけだ。ブログの人気を計測する「feed meter」も赤松さんが開発したサービスだが、「サイトを作るだけなら5〜6時間」という早さ。そんな赤松さんが強調する合宿の利点は「ほかの開発者のアイデアが聞けること」。いくら技術が高くても、1人でこもっているとどうしても煮詰まりやすい。そんな時に、ほかの開発者のアイデアと出会うことで新しいサービスが生まれるのだ。
ブレイナーの本田さんは会社の責任者という立場で赤松さんと似ている。「本当は東京でも開発に打ち込みたいんだけど、いろいろな雑事に追われてなかなか集中できないんですよ。それでもウチの場合は、開発を優先させてくれるんですけどね」。起業家には、技術者が社長ということも珍しくない。だが、人員不足などから社長自ら営業活動に励まなければならないこともある。開発に集中しようとする時に限って「社長、この案件どうしたらいいのでしょうか」「社長、電話です」「社長」「社長」……と割り込み仕事が舞い込むわけだ。そんな貴重な時間を集中的に、誰にも邪魔されたくない環境で開発できるのが、合宿だった。
田口さんのイベントで誘われたという開発合宿初の女性参加者である小宮さんは、実はIPA(独立行政法人情報処理推進機構)の2006年度前期「未踏ソフトウェア創造事業」にプロジェクトが採択された“才媛”だ。「APIを学びたい」と目的意欲を持って臨んだ。事実、周りの開発者を楽しませるサービス(詳細は控えるが)を作ったのだが、実際に合宿の印象を聞くと「業界のウラ話が聞けて刺激的だった」と笑う。
開発能力の高さとは別だが、実は同人誌の作家でもある。報告会ではマンガ作成ツール「コミックスタジオ」で集中線をスラスラ描いてみせたりして、見ていた男性陣も思わず「おお」と声を漏らした。
田口さんは、今回の合宿でこれで「毎月ごとの合宿はひと区切り」という。だが、集中できる環境やほかの開発者のアドバイスを求めて合宿自体は続けていく。「(サイトの運営も、プロダクトの開発も)もっとできるはず、という計算がはっきりしているからがんばる。“仮説を実証していく実験”が好きなんです」。次回、定例ではなくなった合宿で、何を“実証”していくのだろうか。
シリーズ「ゆるやかにつながる」では、現代ビジネスパーソンの横のつながりを追っていきます。今回の「2つの合宿・田口編」では個人ブロガーによる企業外でのつながりに迫りました。次回は「2つの合宿・大手町ビジネスイノベーションインスティチュート編」をお送りします。
NTTグループの社員らが中心となって立ち上げた大手町ビジネスイノベーションインスティチュート(OBII)。「企業に属しながらイノベーションしたい」という企業内個人のアプローチで連携を目指す――。
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