社内に掘りごたつ――はてなの“変”が進化中
会議は立ったまま、新サービスは合宿で開発、タスク管理は紙で――昨年話題になったはてなの「変」な仕組みが最近、少し変わってきた。
渋谷に小さなオフィスを構えるはてなは昨年、変わった会社としていくつものメディアに取り上げられ、近藤淳也社長は「変な会社の作り方」というタイトルの本まで出版した。
“変”と言われる同社の仕組み――旅館に泊まって新サービスを開発する合宿や、紙のタスクの進行管理「あしか」、立ったままの会議――は、決して奇をてらったわけではない。常識にとらわれず、最善の方法を探した結果がたまたま、普通の会社と少し違っただけだ(関連記事参照)。
これらの仕組みは常に“β版”。はてなの成長とともに、変化し続けている。
開発合宿は「方針転換」
技術者が旅館に泊まり、ひたすら新サービスを開発する――開発合宿は当初、新しいものを作るための場だった。その成果は目覚ましく、ブックマークやRSS、リング、グラフなど、新サービスが続々と生まれた。
しかし「作るだけで作って、メンテナンスできないんじゃないか、ということがようやく昨秋ごろになって分かり始めた」と近藤社長は苦笑する。サービスが増えるごとに、1サービスあたりにかけられる時間が減り、満足いくメンテナンスができなくなった。
そこで昨秋ごろから、既存サービスの改良やリニューアルを合宿で行うようにし、人力検索はてなやはてなダイアリーなどをリニューアルしてきた。新サービスは、2月にオープンした「はてラボ」で、メンテナンスなどの保障なしでβ公開することにした。
そろそろ既存サービスのリニューアルは終盤といい、合宿もまた、新しいサービスを作れる場に戻りそうだ。
「あしか」はデジタル化
紙とダンボールで作った進行管理システム「あしか」。ネット企業なのにあまりにアナログな点が驚きを呼んだが、これも昨年末にデジタル化し、「はてなグループ」の1機能として公開した。
開発者が増え、タスクも増えて、紙に1つ1つ書いていては管理しきれなくなったため。デジタル化後に処理したある案件は、タスク数が600に上ったといい、「これをあのまま紙でやってたらどうなったんだろうと思った」ほど。デジタル化は必須だった。
19人でも立ち会議
「結構にぎやかでいいんですよ」――だらだら長引かせないために立ったままやる朝の会議は、社員が19人に増えた今も続いている。回数は、毎日から週2回に減らした。
社員同士で英語で話す英会話練習も続けているが、「あれだけでは上達しない」と困り顔。そろそろ講師が必要かもしれない、と考えている。
ポッドキャストは動画に
社内会議の音声までネット公開して話題になった、はてなのポッドキャスティング。メニューは次々に増え、メールマガジンやインタビュー音声も公開し始めた。
4月には動画版も始めた。動画ならよりよく社内の雰囲気が伝わるし、画面を見せながらサービスの使い方を解説もできる。
「楽しくて仕方がない」――近藤社長は、社員があきれるほどポッドキャスティングにハマっている。高性能マイクや、ソニーのHD対応ビデオカメラなど、本格的な機材を自費でそろえた。「将来、ポッドキャスティングがもっと一般化した時に備え、ユーザーの気持ちを知っておくことは重要」――社員にはそんな風に、「ちょっとこじつけて」説明しているという。
中断した企画もある。社内会議をリアルタイムで公開し、ユーザーがSkypeで参加するというもの(関連記事参照)。ユーザーに参加者が少なく、効率が悪いと判断した。
新しい“変”
最近始まった“変”は、休日選択制。はてなの従業員は、日曜日以外の週休を、土曜日か水曜日から選べる。
この制度は、休みが選べるという以上の成果を生んだ。社員が半分ぐらいしかいない「ゆるい雰囲気の日」が週2日あるため、「くだらないことを話していい気分になって、すごくいいアイデアが浮かぶこともある」という。休みを選ぶついでに有給休暇も入れやすくなった。
オフィスを出て、さまざまな場所で仕事する「出張オフィス」には、新バージョン「他社に出張する」を追加。神奈川県のネット企業・カヤックの会議室で仕事させてもらったりした。
オフィスも“変さ”を増した。4月末、社内に掘りごたつを構築。畳に座って仕事できるようにした。その頭上には、社長手作りのロフトベッドも装備。「これで、人に寝顔を見られないで昼寝できる」と、社長は嬉しそうに語る。
変な社長のパワーに引っ張られ、はてなの“変”は今日も進化を続ける。
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