「Winnyのどこが問題か」を上司に説明する17のポイント:ビジネスシーンで気になる法律問題(2/2 ページ)
ファイル共有ソフト「Winny」――著作権侵害、開発者の有罪判決、情報漏洩など、ダーティなイメージがある一方、P2P技術自体が違法なわけではなく、また裁判の行方によっては新しい技術開発が萎縮するという問題も抱えている。Biz.IDの読者ならばすでにご存知だろうが、Winnyの問題点を上司に説明するための法的なポイントを2月17日に行われたWinnyシンポジウムをヒントに考えてみた。
「Winny裁判ってどうだったの?」と聞かれたら
ポイント
- 京都地裁の判決ではWinny開発者は著作権侵害の「幇助犯」
- Winnyの提供が著作権侵害行為の促進に結びつくため
- 著作権法では、直接の侵害者に対してだけ差止請求権を規定
- 幇助とされる行為に十分な検討がなされたのかどうかも問題
Winnyは暗号技術やダウンロードを行う際の仕組みを工夫したことで匿名性が高い。そのため、映画やゲームなどの著作物が無断で大量に交換されていた。そのうち2人のユーザーが著作権侵害で摘発された。そしてこの2人の正犯を摘発した京都府警が、開発者の金子氏も著作権侵害の幇助犯として逮捕し、刑事裁判となったのだ。
京都地裁は2006年の判決で金子氏を有罪とし、罰金150万円を言い渡した。判決はWinny自体は価値中立的なもので有用であると認め、そのような技術の提供が犯罪行為となりかねないような幇助犯の無制限な成立範囲拡大は妥当でないとした。その上で金子氏は著作権侵害の違法コピーをインターネット上に蔓延させようと積極的に企図していたわけではないが、広く著作権の侵害行為が行われていることを認識し、受け入れていたと認定。これをもって幇助の故意があると認めたのだ。
シンポジウムでは指宿信教授(立命館大学法科大学院教授)が、幇助に問われる危険が無制限に広がることを防ぐ考え方を3つのポイントで示した。1)幇助とされる行為が中立的であったり、日常取引の場合は処罰しないこと、2)違法な行為を促進する程度を厳しく限定すること、3)幇助とされる行為が相当性や妥当性という観点から評価できるものは処罰しないこと――以上の3点である。そして京都地裁の判決は、2についてはWinnyの提供が著作権侵害行為の促進に結びつくと認定し、考慮もしていたが、1や3の観点は十分検討されたとはいえないと述べた。
岡村久道弁護士は、日米のP2Pソフトによる著作権侵害事件を解説。米国では、中立的技術であっても著作権侵害を奨励する意図をもって提供されたなら、提供者が直接行っていない侵害行為の責任を取らされるのに対して、Winny裁判では著作権侵害行為を助長することを積極的に意図しなくても有罪――という違いがある。こうした違いや、直接侵害者に対してだけ差止請求権を規定している著作権法の考え方からして、京都地裁の判決には疑問があるという。
「Winny裁判これからどうなるの?」と聞かれたら
ポイント
- 検察側と弁護側双方とも大阪高裁に控訴
- 刑事裁判で争われるようになるとソフト開発に萎縮効果!?
- 民事裁判で建設的な方向を示すのも方法
Winny裁判自体は、まだまだ続く。検察側と弁護側双方とも、大阪高等裁判所に控訴した。今後は、いわば場所を変えてさらに議論が続けられるわけである。幇助として刑事責任が問われる範囲についても、より明確な判断が示されるだろう。
しかし、著作権侵害の責任を負うべきか、特にソフトの開発提供行為が違法となるかどうかについて、刑事裁判で争われることには違和感を覚える。刑事であれ民事であれ、法的責任を追及されたり訴訟に巻き込まれるという点では、当事者に重い負担とストレスがかかることは否めない。それでも刑事で有罪となれば前科者となり、場合によっては刑務所行きとなる。警察に摘発されただけでも、逮捕という悪夢が現実のものとなる。刑事責任追及に伴う萎縮効果は極めて大きいといわざるを得ない。
一方、民事責任の追及であれば、少なくとも警察に逮捕されることはない。それに民事裁判は和解で終わることも多く、和解の内容も判決では書けないような解決策が立てられる。例えば、ユーザーがキャッシュフォルダの内容をコントロールして著作権侵害となるファイルの削除を行えるようにWinnyをバージョンアップすることを盛り込むなど、建設的な方向を示すこともできる。
権利侵害を受けた被害者にとっては、特に相手が誰だか分からない場合など特に刑事告訴をせざるを得ないという事情もある。一概に刑事事件として責任追及をすることは否定できない。しかしそれでも、今回のようなソフト開発者の責任を問うのであれば、民事裁判の方が適切であったと思われるのだ。
情報ネットワーク法学会とは
情報ネットワーク法学会では、情報ネットワークをめぐる法的問題の調査・研究を通じ、情報ネットワークの法的な問題に関する提言や研究者の育成・支援などを行っている。
筆者プロフィール 町村泰貴(まちむら・やすたか 南山大学法科大学院教授)
南山大学法学部・法科大学院で民事訴訟とサイバー法を担当し、情報ネットワーク法学会では副理事長を務める。ブログ「Matimulog」でも活動中。
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