「住みたいところに住む」ためのネットサービス――やわなん・りもじろうさん:田口元の「ひとりで作るネットサービス」探訪
コミュニティ型の英単語学習サイト「やわなん」を手がけるりもじろうさん。小さい頃から海外が身近な存在だったこともあり、ITを使って「住みたいところに住む」ために英語学習サイトを開発した。
コミュニティ型の英単語学習サイト「やわなん」では、Web上で簡単に単語帳を作ることができたり、友達を誘って習熟度を競うことができる。携帯やiPodでも利用が可能だ。個人が作ったとは思えない充実したサービスである。
「学生のとき、みんなで英単語をどれだけ覚えられるか競争していました。そうしているうちに、驚くほど英文がすらすら読めるようになったのです。やわなんを使えば、ネットを使ったグループ学習ができます」やわなん作者のりもじろうさんはそう話す。
また、やわなんを作った理由は「住みたいところに住める自分になりたいから」だという。
「やわなん」トップページ。やわなんは「やわらか軟骨」という近くのホルモン屋のメニューの略称。「これを夫婦で食べながら構想を練っていたので、その勢いで決めました」という。また、「りもじろう」は英語のremoteから。住みたいところに住む=ITで、どこからでも仕事ができる、を実現する意味を込めている
英語を鍛え、バックパッカーとして数十カ国を旅した
りもじろうさんは大手電機メーカーに勤めるエンジニア。実は、今年の4月に11年働いたメーカーを退職し、カナダに本社を置くベンチャー企業に転職する。
母親が国際線のキャビンアテンダントだったこともあり、りもじろうさんにとって「海外」は小さい頃から身近な存在だった。「英語は絶対必要!」と、母親からことあるごとに聞いていたりもじろうさんは、大学でも進んで勉強した。単位にならなくても英語の授業に顔を出したり、視聴覚教室でテープを借りてはコツコツと英語力を鍛えていった。さらに、数十カ国を旅行した経験豊富なバックパッカーでもあるのだ。
大学で物理を専攻したあと、現在勤めている国内電機メーカーに就職した。誰もが知っている、グローバルに活躍する大企業である。「とにかく世界を相手に仕事がしたかった。だから国際的な会社に行きたかったのです」
チャンス到来、シリコンバレーで働く! しかし……
期待に胸を膨らませて就職した電機メーカーで、現実を知った。「入社してみたら、グローバルとはまったく関係のない職場でした」。入社して初めての仕事は、地方の工場への転勤だったのだ。
その後、業務用のシステム開発の仕事を経て、エンジニアの経験を積んでゆく。プライベートでは結婚をして子供もできた。しかし「国際的な仕事をしたい」という願いはなかなか叶わなかった。そんなときにチャンスがやって来た。
「シリコンバレーで、ある事業の立ち上げをすることが決まったのです。立ち上げメンバーを募集していたのですぐに飛びつきました」。念願の海外赴任。当時同じ会社に勤めていた夫人には退職してもらった。子供も海外で育てることにして、一緒についてきてもらった。
しかし、プロジェクトは難航した。結局事業の立ち上げはうまくいかず、2年の勤務を経て日本に戻ることになる。
2年間で強く感じたのは日米の働き方の違いだった。日本企業では残業が前提。赴任前は終電まで働くこともたびたびあったし、それが普通だと思っていた。一方、一緒に働いた米国のエンジニアたちは定時内に仕事を効率的にこなし、プライベートの時間とうまくバランスをとっている。そうして人生を楽しむ彼らの姿を見て、日本のやり方に違和感を覚えるようになった。
りもじろうさんは決心する。「会社中心の生活スタイルは自分には合わない。家族に快適な環境を用意できるぐらい稼ぎつつ、なるべく家族と一緒に過ごしたい」。そう思うようになった。
“仕事か家庭か”という選択ではなく、効率的に働いて仕事以外の時間も増やせるのではないか、と考えたりもじろうさんは、帰国後も定時で帰ることにしている。「職場では変人扱いされていますけどね(笑)」
時任三郎の行動に感銘を受け、ニュージーランド行きを決意
帰国後、りもじろうさんの新しい挑戦が始まる。家族が過ごしやすい環境を手に入れるため、ニュージーランドへ移住することを決めたのだ。ニュージーランドを選んだのは、俳優の時任三郎が休業して子育てのために移住していたと知ったのがきっかけだ。個人のブログ「住みたいところに住める俺」も開始した。
初めての転職活動。しかも転職先は海外。分からないことだらけだった。ネットを使ってのリサーチ、ニュージーランドの転職エージェントとのやり取り、必要な書類の手配、下見を兼ねてのニュージーランド旅行、そして就職のための面接。
この“初めてづくし”の活動を支えたのがブログだった。「ブログを通じて多くの人と知り合えました。ニュージーランドに住んでいる方から情報をもらったり、実際に行ったときにお会いした方もいます」
結局、ニュージーランドへの転職は実現しなかった。ニュージーランドへの転職活動中に、カナダのベンチャー企業からコンタクトがあった。悩んだ末、この会社に転職することを決心する。2007年の夏までには移住するという。
子供を寝かしつけ、夫人と2人でやわなんを開発
転職活動では英語が課題になった。小さい頃から勉強していたとはいえ、ネイティブとやりあうには不十分だった。そこで自分で英語を学習できるサービスを作ることを思いつく。「昔から自分でも欲しかったサービスだったので、仕事が終わってからコツコツと作り始めました」
仕事でオンラインのサービスも手がけていたので、技術力には問題なかった。まずはプロトタイプを作った。ニュージーランドへの海外移住には「IELTS」というテストを受けなくてはならないので、その勉強に使ってみた。「これはいい!」――そう思ってどんどん機能を追加し、一般公開もした。自分のブログで告知しただけだが、数百人のユーザーが集まった。
開発言語はJava。データベースはPostgreSQL。サーバは自宅にあるものを使っていたが、海外移住を控えて外部の業者に預けた。
やわなんのデザインは夫人が担当している。「妻は、学生のころバイトでPhotoshopを使っていたりしてデザインが好きなのです。今は在宅でWebデザイナーの仕事をしています」。この連載は「ひとりで作るネットサービス」を取り上げているが、「実際は2人で作っています」と、りもじろうさんは笑う。
開発にかかった期間は約半年。会社から帰ってきてから家族で食事をして、子供を寝かしつけた後、夜の9時頃に開始する。11時頃に「もう寝ようか」となるまで、夫人と2人でお酒を飲みながら作業した。
「本業を持ちつつ、生活の基盤を支えるサービスも作っていきたい」というりもじろうさん。ユーザーが集まってくれば生活の足しになるかもしれない。そうなればもっと「住みたいところに住める俺」になることができる。これからも空いている時間を見つけて「やわなん」を充実させていくという。
手帳は使わない。オムロンの万歩計で体調管理
使っているツールで特に変わったものはないという。サーバ側の開発ツールには「Eclipse」(@ITの関連記事)、「Sun Java Studio Creator」を使う。ブラウザはInternet ExplorerとFirefox。メールとスケジュールはOutlookで管理している。
手帳は特に持ち歩かない。いつもかばんに入っているものもあまりない。携帯電話は通話くらいにしか使っていないという。
「あえて“よく使っているもの”と言うならこれですかね」。そう言って取り出したのは、オムロンの歩数計。USBでPCとつないでデータを管理できるタイプのものだ。「これで体調管理をしていますね。家にある体脂肪計とも連動しているので、体脂肪計がはじき出す“カラダ年齢”を気にしながら適度に運動するようにしています」
週末は子供との時間なので開発はしません、というりもじろうさん。「家族となるべく多くの時間を過ごしたい、家族と快適に暮らしたい」。その思いが1人のサラリーマンをカナダへの転職、移住に踏み切らせた。周りに流されるのではなく、自分で道を切り開いていく大切さを彼から学んだ。新天地での彼の活躍をブログでこれからも追っていきたい。
バックナンバー
- ひとりで作るネットサービス 一覧
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- 「Twitterなら続けられる」を試験勉強に――tsuduketerのTetsuさん
- デザインできなくても作れる――デザイナーを経て「NENPYO」を作り上げたdaiskipさん
- 斬新とは省略すること――「AR三兄弟」川田さん
- アイデアを判断することと生み出すことは違う――「超店舗検索」鈴木さん
- 元高校教師がいかにしてネットサービスを開発したか――「割り勘電卓」増永さん
- 「○○と言えばここ!」のポジションを目指して――「クイズ研」岩崎さん
- iPhoneアプリはポスト・イットで作る!? 「QuadCamera」「ToyCamera」深津さん
- 携帯からいつでも“つぶやける”――「MovaTwitter」藤川さん
- サイバーショット携帯がきっかけ!? 「携帯百景」kimzoさん
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- 【番外編】元任天堂のメンバーが作ったフィギュアコミュニティー「fg」
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生活改善応援サイト「早起き生活」を運営するのは、書籍編集者の百瀬央さん。職業に必須ではないプログラミングを学んだきっかけは、エンジニアに「どうせ技術のこと分からないんでしょ」という態度を取られ、悔しかったからだという。
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