「やりたいことを見つけなくちゃ」――なんちゃって個人情報・kazinaさん:田口元の「ひとりで作るネットサービス」探訪
ダミーの個人情報を大量に生成できる「なんちゃって個人情報」の作者、kazinaさん。少年時代はゲームが大好きで「自分も作りたい」と思ったのをきっかけにプログラミングを始めた。「やりたいこと」を探してオーストラリアに渡って英語を学んだり、アクセサリーを作ったりと、PC関連以外の活動も好きだという。
「ひとりで作るネットサービス」第6回目はテスト用の個人データを大量生成してくれる「なんちゃって個人情報」、文字入りのQRコードを作ることができる「MOJI-Q」を手がけたkazinaさんに話を聞いた。
「基本的に面倒くさがりなんです。だから、全部勉強してから作りはじめるということはないですね。これが作りたい! と思ったら、実現する方法だけを探してとにかく作ってしまいます」
自身のプログラミングスタイルについてそう語るkazinaさん。プログラミング歴は中学のときからだという。元々はDelphiを使ってWindows用のソフトを作っていた。「なんちゃって個人情報」のようなWebサービスを作るまでの経緯はどんなものだったのだろうか。
ゲーム大好き少年が、Delphiから本格的プログラミングの道へ
「中学生のときはゲームばかりやっていました。グラディウスとかシムシティとか。ゲームで遊んでいるうちに『自分でも作ってみたい』と思うようになったのです」。しかし、ゲームを作りたいといってもすぐに作れるものではない。そこで出会ったのがアスキーの「マルチゲームScripter」だった。当時流行っていた「RPGツクール」のような、簡単にゲームを作れるソフトウェアである。
当時父が使っていたPC-9801を使って「マルチゲームScripter」にのめりこんだ。ゲームを作る息子を見ていたkazinaさんの父親はある日、統合開発環境「Delphi 1」の広告を見つける。「そういえば息子はなにやらプログラミングをしていたな。これを買ってあげれば喜ぶのではないか」。そう考え、kazinaさんにDelphiを買い与えた。
「ただ、父はあまりプログラミングのことをよくわかってなかったと思います(笑)。なんとなく買ってきた、という感じでした」。しかし、それがkazinaさんにとって転機となる。「マルチゲームScripter」とは違い、何でもできるDelphiを前にして戸惑い、とりあえず本を買ってきて勉強を始めた。
本を読み、サンプルプログラムを打ち込んで実行させた。最初はゲームを作ろうと思って始めたDelphiだが、本に載っていたようなアプリケーションソフトの開発に熱中していった。当時入会していたパソコン通信「ニフティサーブ」でもDelphiフォーラムに入り、情報交換をした。フォーラムにあるプログラムもどんどんダウンロードして試してみた。
「最初に実行させたプログラムはテキストエディタでした。本に載っていた、ごく普通の機能を持ったシンプルなものです。それでもうれしくてうれしくて、すぐにニフティのフォーラムにアップロードしました。今思えば、サンプルプログラムをそのままアップロードしていたので、ひどいことをしたな、と思っています(笑)。ただ、当時はよくわからなくて」
そうしてプログラミングにはまっているときに、インターネットの波に出会う。興味をもったkazinaさんは無料でインターネットができるプロバイダーに入会した。ネットサーフィンをしているうちに「自分でもWebサイトを作れるらしい」ということを知る。
「Webサイトを作れば自分の作ったソフトウェアを公開できる、と思ったのです。すぐにWebサイトを作ろうとホームページ作成ソフトウェアを買ってきました。でも、パッケージには確かに『ホームページ作成ソフト』と書いてあったのに、実際はHTMLと画像が入っているただの素材集だったのです(笑)。ひどいですよね」
しかし、それがよかった。おかしいなぁ、と思いつつもkazinaさんはHTMLの中身を見ながらWebサイトの仕組みを学んでいく。見よう見真似でHTMLを組んでいるうちに自分のWebサイトができたので、早速自作のソフトウェアを掲載した。
すぐに反響があった。「便利ですね」「使っています」というメールが届く。「反響をもらえるのがうれしくて、Webサイトには掲示板も設置しました。ユーザーからの反響にはネガティブなものはなかったですね。みんないい人だなぁ、とそのとき思いましたよ(笑)」
ユーザーからの声を受け、kazinaさんは自作ソフトウェアを増やしていく。開発するときには必ず自分だけの工夫を凝らすようにした。最初に作ったテキストエディターは「てきすたー」と名づけ、入力したテキストを大阪弁やギャル文字に変換できる「辞書変換機能」をつけた。続いて開発したのはWebサイトで使う色を選択できるカラーピッカーの「色取鳥i」。これには、Webページの配色バランスを確認できる「キャンバス機能」を実装した。
アルバイト生活に「このままではいけない」とオーストラリアへ
kazinaさんは高校を卒業し、ゲームの専門学校に通いながら開発を続けていた。専門学校ではC言語を学んでゲームを作った。卒業後は、ある企業のインターン生になる。「でも、インターンは僕だけだったのです。ほかの人はお金をもらっているのに、僕だけお金をもらえない。みんなは大学生のアルバイトで楽しそうだけど、僕はあまり仕事が好きになれなくて……」
結局、2年ほどで仕事を辞め、アルバイトで生活費を稼ぐことにした。「いろいろやりましたよ。PCを教えるバイトから、いわゆる試験系まで。研究所に泊まり込んで血を採られたりもしましたね」。昔好きだったゲームのバイトもやったが、昔ほどゲームを楽しむことはできなかった。「全然面白くなかったですね。『ここからここまで繰り返しプレイしてみて』といった指示でプレイするのですが、その先をプレイすることは許されてなくて。先が気になって、気になってしょうがなかったです。ほかにも『これ、クリアしておいて』と言われるのですが、あまりゲームがうまくないので、何回やっても死んでしまったりしました(笑)」
しかし、このままではいけない、とkazinaさんは思い始める。「生活を変えなくては」と思い立ち、オーストラリアに行くことを決意した。今までの貯金を使い、エージェントを探し、2005年の暮れからオーストラリアのパースへ渡った。働きながら留学できる「ワーキングホリデー」だ。
「とにかく英語だ、と思っていました。プログラミングをするのにもある程度必要ですし」。オーストラリアでは英語の学校に通い、日本語教師の手伝いをしながら生活費を稼いでいた。1年間滞在して、英語はある程度できるようになったという。オーストラリア滞在中も、ネットとプログラミングは続けていた。ブログを開設し、自作ソフトウェアの更新状況なども掲載したのだ。
1年間の滞在後に帰国したkazinaさんは現在、友人の会社をアルバイト的に手伝っている。「やりたいことを探している最中です。ただ、PCが好きなことはわかっているので、その分野で探しています」
“最低限の知識”で作った「なんちゃって個人情報」
2006年の暮れ、普段から読んでいるブログで「瞬時にテストデータを大量生成してくれる『Data Generator』」という記事を見つけた。システムのテスト用に個人情報を大量生成してくれるサービスである。「これを見たときは『ふ〜ん』と思っただけでした。しかし、その後自分で個人情報を大量に生成する必要が出てきたので『作ってみようかな』と思いました」
そうしてできたのが「なんちゃって個人情報」である。WebサービスなのでPerlを使った。Perlはあまり使ったことはなかったが、分からないところはネットを使って調べ、自分のイメージ通りのものを完成させた。もちろん自分なりの工夫を加えることも忘れない。個人情報を生成する際には、オプションとして日本特有の「携帯キャリア」や、利用者がくすりと笑って使えるように「カレーの食べ方」も選べるのだ。
「なんちゃって個人情報」の開発期間は1週間程度で、データベースは使っていない。「正直に言うと、SQLとか分からないのです。1回チャレンジしたことがあったのですが、データがどこに格納されているかわからなくて(笑)」。結局、生成用のデータはテキストファイルで用意して、自分の実現したいものは作ることができた。「自分がやりたいことありきです。余分なことはほとんど調べません」
こうして完成した「なんちゃって個人情報」だが、最初は「鳴かず飛ばず」だったという。しかし、kazinaさんも愛読している「GIGAZINE」に取り上げられ、アクセスが殺到。利用者も一気に増え、フィードバックも次々に寄せられた。「仕事で使います! ありがとうございます!」といった感想が多い。
ユーザーからの反響は、次の開発へのモチベーションとなった。続けて文字入りQRコード作成サービス「MOJI-Q」を思いつく。きっかけは、ネットでQRコードを生成するライブラリを見つけたことだ。これで何かできないかな、と調べるうちに、QRコードはある程度破損してもデータを読み取ってくれることを知った。「だったらその部分に文字を入れてもいいのかも、と思ったのです。QRコードを作った人からすれば想定外の使い方でしょうけど」。逆転の発想で「MOJI-Q」が生まれた。
ほかの趣味も大事だから「あまりPCは見ないようにしている」
kazinaさんが工夫している仕事術はあるのだろうか。「あまり仕事していないですけどね(笑)」と前置きしたあと、使っている環境を教えてくれた。基本は自宅にある自作PCで開発しており、オーストラリアでは東芝の小型ノートPC「Libretto」を使っていたという。「ただLibrettoでPhotoshop、GoLive、Eclipseを同時に立ち上げるのはさすがにきついですね。開発のときはいつもこの3つを立ち上げているのですが」。メールは基本的には「Becky!」で、最近Gmailを使い始めた。ブラウザは「軽いから」という理由でOperaを使っている。
しかし、kazinaさんは「できればあまりPCは見ないようにしている」という。PCは好きだが、四六時中触っていたいわけではない。PC以外の趣味も大事にしている。最近は自分でシルバーアクセサリを作ることに凝っているという。
kazinaさんの話を聞き、彼のスタイルを見ていると“典型的な技術者”ではない、適度なバランスの良さを感じる。PCは使うし、必ず自分なりの工夫を凝らしながら、作りたいものを作っている。でもPCだけを触っているわけではない。それが彼のスタイルであり“仕事術”なのだろう。最初はWindowsのアプリケーション、次は英語、そしてWebサービス。「やりたいことを見つけなくちゃ」とはにかみながら話すkazinaさん。独自のスタイルから生み出される彼の次のサービスに期待したい。
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