第5回 コミュニケーションの5つのチェックポイント(後編):良いコミュニケーションを取るために
良いコミュニケーションを取るためには、どんな姿勢や態度で臨めばいいのでしょうか。ポイントをご紹介します。
前回は良いコミュニケーションを取るための、姿勢や態度のうち、
- ヨコの関係
- 勇気づけ(承認・長所探し)
について解説しました。
続いて、残り3つの、「その人が貢献しているところを見つける」「勝ち負けや人との比較よりも、いい関係を持つことを重視する」「3つの傾聴レベル(自己レベル・集中レベル・全体レベル)」を見ていきましょう。
(3)その人が貢献しているところを見つける
良いコミュニケーションを取るためには、その人が貢献しているところを見つけましょう。(2)の「勇気づけ」は単純にいいところを探しましたが、ここではただ良いところだけではなくて、役に立っているところを見つけてほしいのです。
ちょっと想像してください。身近にいる頻繁に会う人で、すごく好きでもないし、すごく嫌いでもない、まあ普通の人を1人思い浮かべてください。その人の、役に立っていないところ、邪魔になっているところ、やっかいだな、面倒だな、手間かけてるな、ぐずぐずしてるな、というところを見つけてください。その部分が見つかれば見つかるほど、その人を好きになるでしょうか、嫌いになるでしょうか。当然、嫌いになりますね。
では次に、同じ人ですが、役に立ってくれているところ、あの時に助かった、救われた、というところを思い出してください。そういえば、あのとき声をかけてくれてホッとしたとか、あの笑顔でがんばれた、とか。その人の役に立っているところを思い出せば思い出すほど、その人をより好きになりますね。
では、その人と良い関係を持ちたかったら、どちらを思い出せばいいでしょうか。良いところや役に立っているところを思い出せばいいに決まってますね。しかし、例えば、たいていの熟年夫婦は、この逆をやってしまっています。「妻といい関係を持ちたい」といっているのに、「でもアイツはさ、飯はまずいし、掃除はしないし、俺が言っても邪魔ばかりするし……」と、悪いところばかり見ています。これではいい関係を持ちたいといっても持てません。部下との関係も同じです。「アイツとうまくやっていきたいんだけど、あいつ、これもミスするし、あれもダメだし、人に迷惑かけてばっかり。だいたいウチのチームの足を引っぱってるんだよね」と思いながら、アイツと仲良くしたいなんて言ってもなれません。
そして、人間とはおかしなもので、思いと逆のことをするんです。「もうあの女とは別れる! あいつとは付き合えない!」と言いながら、「いや、でもさ、あいつの味噌汁うまかったんだよな、あのときは助けてくれて救われたし……」などと言って別れられないのです。別れたかったら、嫌いなところ、役に立たないところを見つけてほしいですね(笑)。多くの場合、仲良くしたい人はダメなところを探して、切りたい人は良いところを探しているのです。ちゃんと目的に合わせて探しましょう。
「このお客さんとは縁を切ったほうがいいな」と思うのだったら、「ここがダメ、これもダメ、それもダメ。将来的にウチにいい影響はない」ということを見つけて、じゃあ縁を切ろう、とやらないとダメです。「切りたいんだけどさ、でも、これだけ売上に貢献してくれているし……」と思い始めると切れません。
(4)勝ち負けや人との比較よりも、いい関係を持つことを重視する
良いコミュニケーションを取るためには、勝ち負けや人との比較よりも、いい関係を持つことを重視しましょう。これは前回の「(3)協力」の実践版です。
いい意味でライバル心を持つのはいいことですし、業種や業態、客層が違うのだったら問題ありません。しかし同じお客さんに対して勝ち負けを気にし過ぎてしまったら、お客さんの信頼もなくしてしまいます。共通の目標を達成するためのライバル心だったらいいのですが、そうでなかったら効果はありません。
(5)3つの傾聴レベル(自己レベル・集中レベル・全体レベル)
良いコミュニケーションを取るために、そのコミュニケーションの内容に適した話の聞き方があります。
特に人の話を聞くときには、意識には3つのレベルがあります。1つが「自己レベル」。これは、自分にとってどういう意味があるかということを考えて、自分にばかり意識が向いている状態です。
2つ目は「集中レベル」。相手にとってどういう意味があるかと、相手の立場にばかり立っている状態です。
そして3つ目が、全体に意識が向いている「全体レベル」です。この3つの傾聴レベルは、どれが良いか悪いかというものではありません。例えば、飲み会でワイワイ騒いでいるようなときは自己レベルがいいでしょう。「ウチの部署ってこうでさ」というような軽い話のときに相手の立場に立って一所懸命聞く必要はなくて、「ああ、そうなんだ。オレの部署はさ……」というように、自分の考えや意見、意識だけでポンと返してあげるぐらいの聞き方のほうが、テンポのいい会話になります。遊んでいるときにも自己レベルがいいかもしれません。
相手の立場に立って考える集中レベルは、クレームの対応やお客さんが本当に怒っているときに適しています。自己レベルで自分を弁護しようとしたり、「全体の問題を把握した上で対応しましょう」というような話し方は不適切です。この場合は、「そうですか。それはお困りだったでしょう」と、集中レベルで対応します。
また、友だちの深い悩みを聞いたり、解決できない問題の相談を受けたりするときも集中レベルが適しています。例えば、「最近オレ、腹が出てきたんだよな」というような軽い話題のときに、集中レベルで「そうか、腹が出てるんだ。辛いよな」というと、相手はもっと辛くなってきます。この場合は「それくらい、いいんじゃないの。気にしなくて」と、自己レベルで返してあげるほうがいい。
ところが、「先週、叔父が亡くなってさ……」というときに、自己レベルで「そんなの、酒飲んで忘れればいいよ」なんてわけにはいきません。この場合は、「そうか、叔父さんが亡くなったんだ」というように、集中レベルで聞いてあげるほうがいいのです。
問題を解決したいときは全体レベルです。「なるほど、キミはそうなんだ。なるほど、お客さんはそう言っているんだ。なるほど、仲介の業者はそういっていたんだ。じゃあ、ところでみんなにとってはどんな意味があるんだろう」という聞き方をするのが重要な場合もあります。
今回は簡単に紹介しましたが、この「3つの傾聴レベル」について具体的な方法は、また別の機会に詳しくお話しましょう。
次回は、スムーズなコミュニケーションのための、言葉や言い方を紹介します。
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