お気楽営業マンが“手帳の達人”になった理由
「若いころは手帳なんかろくに使わなかった」と自嘲するのは、日本能率協会マネジメントセンターの野口会長。お気楽営業マンだった野口氏は、どのように“手帳の達人”に変わったのか――。
国内メーカーだけでも年間1億冊の売り上げがあるという手帳市場。ビジネスのIT化が進んでも、手帳を買い求める利用者は多いという。国内大手の日本能率協会マネジメントセンター(JMAM)では、2006年の1300万冊を売り上げた。2007年は1400万冊に達する見込みだ。
人気の衰えない手帳だが、利用シーンは大きく変わってきたという。仕事だけでなく、プライベートのスケジュールも書き込む人が増えた。仕事という限定的な時間・場所から離れることで、手帳に求めれるものも変わった。バーティカルタイプであれば、朝9時から夜9時まででは足りない。起床する6時から就寝する深夜0時以降までをカバーする時間軸を記載したり、書き込む量の増大に比例して胸ポケットサイズよりも大きいA6サイズの手帳が増えてきた。
お気楽営業マンが手帳の達人に変わったわけ
こうしたトレンドが起こる何十年も前から、仕事だけでなくプライベートも書き続けてきたのが、JMAMの野口晴巳会長(69歳)。「若いころは手帳なんかろくに使わなかった」と自嘲する野口氏。そんな“お気楽営業マン”が“手帳の達人”に変身したのだ。
入社以来、東京本部で手帳の営業マンを務めていた野口氏。東京本部では「日本能率協会の名前を出せば売れた」。そんなブランドパワーを自分の力と過信し、ルーティンのように営業活動を行っていた野口氏の手帳には「鉛筆の薄い字で、弱々しくアポイントの時間ぐらいしか書いていなかった」という。
転機は37歳のころ。突然の辞令――名古屋への転勤だった。次長に昇進して赴任する形だったが、気持ちは“左遷”だった。開設したばかりの中部事務所。スタッフも少なく、初めての名古屋ではブランドパワーも通用しない。悪戦苦闘する毎日だったが、腐らずに気付いたことを手帳に書き留めるようにした。初めてできた部下の評価も手帳に書き込んだ。
次の転機は52歳のころ。名古屋での仕事は順調だったが、東京への単身赴任を命じられたことがきっかけだ。新しいプロジェクトで仕事は順調。今度は栄転だったのかもしれない。一方、私生活では家族にかける時間がぽっかり空き、自分自身と向き合う時間が増えた。「仕事だけの人生もそれなりにはよかったが、半分残っている人生で何をしよう」(野口氏)。この問いかけの答えが、プライベートを手帳に書き記すこと。いわゆるワークライフバランスを意識し始めたという。
人生のつらさを書き写して、思い切ってさらけ出すツール
「手帳は自分自身の分身」と言い切る野口氏。「仕事やプライベートに関わらず、真っ黒になるまで書いた。知識を得たり、人格形成にも役立った」。仕事関係の書き込みはスケジュールがメインだが、プライベートの部分は知りたいことや読みたい本、将来やりたい夢をどんどん書き込んでいった。
そんな野口氏がオススメする使い方は「ノートのように使うこと」。ざっくばらんに書く。年間通じて使えるはずの手帳を半年で使い切る。「きれいに使う必要はない。書いて書いて書きまくる」。やりたいことをいきなり計画しても達成できない。何回も書いて、修正を重ね、現実化していくのだ。
ノートのように使ったら、大事に取っておく。1年1年の振り返りが大事なのだ。それに手帳=自分と考える野口氏にとっては、手帳を捨てることは、自分の足跡が消えてしまうことになる。「自分自身が消えてしまう」感覚もあるという。「手帳で、自分を励ましながら人生を送ってきた」という野口氏の信念は、だから「手帳を捨ててはいけない」なのだ。
たかが手帳、されど手帳――。「写真を撮れば今の自分は写せる。だが人生は写せない」。人生のつらさを書き写して、思い切ってさらけ出すツール。それが野口氏の「手帳観」だという。
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