「ツレうつ」的闘病のコツ――できなくて当たり前【治療中期編】:もう大丈夫、あなたを救う「うつ対策119番」(2/2 ページ)
「会社を辞めないと離婚!」――夫に対し、そう言い放ったのは、細川貂々さん。ツレ(夫)の闘病生活をつづった『ツレがうつになりまして。』のマンガ家だ。前回は、うつと診断されたツレさんが「あきらめてラクに」治していこうと決めたが……。
間仕切りで患者をシャットアウト――周囲の人は物理的工夫でイライラ解消
細川さんはツレさんの闘病中、家の中にいるときに有効なある工夫をしていた。突然ツレさんがうつを発病。細川さんは「自分はどうせダメ人間だ、役立たずだ……」という、ツレさんのグチを延々と聞かされたという。その上マンガの仕事も軌道に乗らない細川さんにイライラが募った。「(ツレさんのグチを)正直うっとうしいと思いました」と振り返る。
うっとうしいとは思ったが、それを察知されてはイライラがツレさんにも「伝染してしまう」。そこでなるべくイラつかないために、細川さんは自分だけの空間を作る必要があった。かといってツレさんの調子が悪いときに、外出するわけにもいかない。同じ家の中で視界からシャットアウトするしかなかった。
「ウチは2間しかないんで、真ん中のふすまをピタッと閉めました。1間しかなかったらカーテンを引くとかでもいいと思います。とにかく見えないようにすることが重要」。細川さんはそう力説する。
細川さんはさらに工夫を重ねる。
マイナス思考をシャットアウト――周囲の人が付ける「いいことだけ日記」
「これはうつ本人には全く効かないですからね、普通の人用です」とツレさん。すぐ落ち込でいた過去の自分を「マイナス思考クイーンだった」という細川さんの工夫はこうだ。
「どんなちっちゃなことでもいいから、いいことがあったら書く」日記を始めた。仕事がうまくいっていない中、ツレさんがうつになり、「自分自身も本気で危ない」と、危機感を抱いたという。友人に相談したところ、「いいことだけ日記」というものを勧められ、さっそく試してみたのだ。
「大丈夫よくなる。仕事も来る。そう考えながら寝ました」。日記だけでなく、細川さんは寝る前もいいことだけを考えるようにした。また、落ち込みそうになると「大丈夫、なんとかなる」と口に出して言うようにもなった。「今までと逆ですよね。『もうダメだ、私なんて……』って言ってたのに」という。
「最初は恥ずかしいかもしれないけど、信じてやっていれば不思議なことに好転していったんです。仕事もうまくいくようになったし、なにより生きるのがラクに楽しくなりました」。もちろん「偶然かもしれないですけど」と笑う。「夫がうつになったこともありますが、私自身の性格を直したかったことも大きい」と細川さん。1カ月もすると効果が表れたという。
間仕切りやいいことだけ日記。患者のツレさんに悪影響が及ばないよう、細川さんがさまざまな配慮をした環境下で、ツレさんはどうやって療養していったのだろう。
患者は何もできなくて当たり前――周囲の人はできたらもうけものと思え
ツレさんの体調は天気が大きく左右する。「天気がいいと調子いいし、悪いと寝込んだりする」こともある。療養開始の2カ月間は寝込んでいたが、3カ月目から起き上がれるようになったツレさんは、ダラダラ生活の中で少しずつできることを増やしていく。中でも料理作りは一番の楽しみだった。
「料理をしていると気持ちが落ち着く」というツレさんは、もともと料理好きだ。多忙だったサラリーマン時代はできなかった分、闘病中は思う存分作った。1日3食ともすべてツレさんが担当。今もそれは変わらない。
「彼女は僕に全く期待してないんですよ。何もできなくて当たり前と思ってたみたいです。だから、うまくできたらもうけもん、みたいな感じでしたね。うまくできなかったときは、まあしょうがないよって感じで料理を任せてくれました」と、ツレさんは振り返る。
細川さんがツレさんに料理を全面的に任せていたのには、それなりの理由がある。「もしうまくできないときに私が作ると提案したら、本人はそのことで自信をなくして落ち込むと思い、料理が出てくるまで辛抱強く待った」のだ。
細川さんがツレさんに歩み寄る二人三脚の生活。うつとの戦いは続く――。
細川貂々(ほそかわ・てんてん)
マンガ家・イラストレーター。1969年生まれ。セツ・モードセミナー在学中に将来の伴侶(ツレ)と出会い、卒業後に結婚。夫と息子(0歳)、ペットのイグアナたちと暮らす。
2006年3月、うつになったツレの闘病を描いた『ツレがうつになりまして。』(通称『ツレうつ』)を幻冬舎より発刊。大反響を呼び、マンガ家としてブレイク。その後、2006年12月に『イグアナの嫁』(幻冬舎刊)、2007年11月に『その後のツレがうつになりまして。』(幻冬舎刊)などを発刊。
そのほか『かわいいダンナとほっこり生活』(ゴマブックス刊)、『いろはにいぐあな』(集英社刊)、『きょとんチャン。』(メディアファクトリー刊)、『きょとんチャン。一歩前へ』(メディアファクトリー刊)、『どーすんの? 私』(小学館刊)などマンガ著書多数。
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