「ツレうつ」的闘病のコツ――死にたくなったら「病気のせい」【回復期編】:もう大丈夫、あなたを救う「うつ対策119番」(2/2 ページ)
「できなくて当たり前」の精神で、妻の細川さんが、うつになる前のようには立ち回れない自分のツレ(夫)を辛抱強く見守った前回。そのかいありツレさんは次第に快方に向かうが……。
自殺衝動を飼いならす――死にたくなるのは病気のせい
ときどきビルの屋上に登って自殺の脳内シミュレーションをしたり、実際に1度自殺未遂を犯したり――「やばかったですね」。ツレさんは当事をそう振り返る。
治りかけてきた回復期のツレさんは、「ダメだ死ぬ」が口癖になっていたという。治りかけてくると、「いついつまでに働きはじめるぞ、と具体的な目標を立て始めるんです。次の瞬間、やっぱりまだできない」と気付いて落ち込み、「ダメだ死ぬ」に帰着してしまったからだ。
だがそうはいっても、回復期にさしかかるまでに、ツレさんはさんざん自分の判断や行動が異常なことを自覚している。そこで「自分の意志に反し、変な行動を取ってしまうは病気のせい。だから死にたくなるのも病気のせいだ」と気付いた。
通常の風邪の場合はどうだろう。仮にあなたが体調管理を心がけず、その結果、風邪を引いて熱が出たとする。この場合、身体的症状である発熱は、「自分が健康管理を怠ったせい」と責められるかもしれない。
一方、体調管理を心がけたとしても、うつを防ぐことはできない。うつは脳内伝達物質のセロトニンなどが不足する結果、「死にたくなる」という身体的症状を引き起こすからだ。死にたくなるのは心の動きではある。しかし自分の意志でそうなるのではなく、あくまで身体的症状としての心の動きなのである。ツレさんは続ける。
「回復期には本当に死にたくなるんですけど、うつがそうさせるんです。これは本来の自分とは違う間違った判断。だから(回復期の自殺衝動は)そういうもんなんだ、通過儀礼なんだと思って飼いならしておけばいいんです」
「うつを治すには自殺したい気持ちと上手に付き合っていくことも大事。死にたいのはあくまで病気のせい。忘れないで」。そう念を押す。
自殺衝動を飼いならす――嫌な性格になるのも病気のせい
ツレさんは回復期の通過儀礼をもう1つ挙げる。「自分の居場所がない、自分は必要とされていない、自分なんかいない方がマシ。こういう勘違いをし始めてしまうと(自殺につながるため)マズイですね」
直接間接を問わず、数多くのうつの人や家族に接してきた2人。「回復期の自殺者がほかの時期よりも多い」と感じている。回復期は周りの人も油断してしまいがちだという。油断して患者にあることをしてしまうのだ。あることとは、つい患者に冷たい態度をとってしまうこと。データがあるわけではない。だがこのことが自殺の引き金になってしまうのではないかと2人は予測している。
「回復期のうつ患者は、客観的に見るとすごく嫌なやつ。極端に視野が狭くなって他人の痛みも自分の痛みも分からなくなるんで」。ツレさんがそう説明すると、細川さんはすかさず「でも嫌なヤツなのはずっとで、回復期に限らないんじゃない?」とつっこむ。
「確かにそうだね」と同意した上で、ツレさんは続ける。闘病したてのころは、うつ患者の行動範囲は狭い場合が多い。家の中や徒歩で行ける近所程度だ。必然的に、家族や身近な人だけがうつ患者と接することになる。ところが回復期には(患者の)行動力が出てくるから、接する人数が増える。そのため心の痛みに鈍感な嫌な性格が、急に目立ち始めるというわけだ。
「僕も嫌な人間だったんです」と、ツレさん。迷惑も顧みずに自己中心的な電話をした結果、相手に嫌われてしまったという。自己中心的な人間に急に接した周りの人たちは、ついつい患者に冷たい態度をとってしまう。冷たくされた本人は、「自分の居場所がない。必要とされてない」と思い込み、自殺につながるのではないかというのだ。
「でも嫌な人間になってしまうのも、病気のせいなんです。うつになった時に都合の悪いことは、全部病気のせいにしてしまえばいい」。ツレさんは人に嫌われた実体験から、今ではそう達観している。
細川貂々(ほそかわ・てんてん)
マンガ家・イラストレーター。1969年生まれ。セツ・モードセミナー在学中に将来の伴侶(ツレ)と出会い、卒業後に結婚。夫と息子(0歳)、ペットのイグアナたちと暮らす。
2006年3月、うつになったツレの闘病を描いた『ツレがうつになりまして。』(通称『ツレうつ』)を幻冬舎より発刊。大反響を呼び、マンガ家としてブレイク。その後、2006年12月に『イグアナの嫁』(幻冬舎刊)、2007年11月に『その後のツレがうつになりまして。』(幻冬舎刊)などを発刊。
そのほか『かわいいダンナとほっこり生活』(ゴマブックス刊)、『いろはにいぐあな』(集英社刊)、『きょとんチャン。』(メディアファクトリー刊)、『きょとんチャン。一歩前へ』(メディアファクトリー刊)、『どーすんの? 私』(小学館刊)などマンガ著書多数。
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