サンデル教授の特別講義は本当に「白熱」したのか:ハーバード白熱教室 in Japan(2/2 ページ)
講義の名手として知られ、日本でも『ハーバード白熱教室』と題して講義がテレビ放映された、ハーバード大のマイケル・サンデル教授。実際に彼の講義に出席してみて感じたのは、知的興奮とある種の違和感、そしてかすかな不満だった……。
もしかしたら、もっと「白熱」したかもしれない
冒頭にも書いたとおり、ハーバード大での講義のようすは、日本では『ハーバード白熱教室』というタイトルでテレビ放映された。しかし正直に言って、8月27日のこの講義が「白熱」していたかと問われると、ちょっと疑問符が付くのも事実である。
2時間の講義のなかでサンデル教授は約20名の学生を指名したが、ほとんどの人は“当てられて答えを述べる”という話し方をしていた。発言する言葉が短いのだ。最初に短く意見を述べ、その後サンデル教授に促されると考えながら言葉をつないでいく人が多かった。教授に矛盾を指摘されると話しながら悩んでしまう人もいた。
はっきりとした自分の立ち位置があり、その上で理論的に意見を述べていたのは、小飼弾さんだけだったと思う※。そのほかで筆者が強く印象に残っている人は、サンデル教授とのやりとりの中で気づきがあったキミコさんと、理論的ではないが信念の筋が通っていたカメ医師、「親は驚くべき」というシンプルな意見がストレートに本質を突いていたゴーヘイさんの3人くらいだ。
小飼さんは米国の大学にいた経験があるので、自分の立ち位置を明確にして意見を述べることに慣れているのだろう。これはディベートという行為の基本だ。英語で直接スムーズにやりとりができるというアドバンテージを差し引いても(この日の同時通訳は非常に的確だった)、小飼さんとサンデル教授のやりとりは非常に盛り上がっていた。しかしほとんどの人は学校で先生に当てられたときのように「正しい(と思う)答えをシンプルに答えること」を目指していたように見えた。
自分自身を含め、日本人の多くはディベート慣れしていない。ロジカルに意見を述べるよりも、感情論や場の雰囲気に流されがちだ。サンデル教授の“指揮者”ぶりは本当に見事だったが、逆に議論らしい議論がなく、「白熱教室」と呼ぶにはスムーズすぎた気がするのだ。英語教育だけでなく、日本人にはディベート教育も必要なのではないか。指名された学生がもっと自分の立ち位置に沿った意見を展開していたら、そして感情論に流れることなくロジカルに答えていたら、もっと白熱したのではないか……この記事を書きながら、今はそんなことを思っている。
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