“手帳王子”流、デジアナMOLESKINE:手帳2011
ちまたで話題のMOLESKINEは公式ガイドブックも登場。手帳シーズンに向けていっそうの盛り上がりを見せている。そこで、このMOLESKINEをデジタルとアナログの良さをいいとこ取りする形の活用法を紹介しよう。
iPhoneに代表されるスマートフォンが普及していく一方で、手書きには手書きだけの意味がある。メモ帳や手帳にペンで記入することの意味はなんなのか。MOLESKINEは、それをユーザーのカスタマイズの数だけ教えてくれる。
イベントでも盛り上がるMOLESKINE
実際『モレスキン「伝説のノート」活用術』の口絵や、MOLESKINEのブログを見ると、ユーザーの“作品集”を見ることができる。そこにあるのは、単なるメモ帳とか手帳の域を超えた、まるで画材のような存在感を漂わせた逸品だ。
『モレスキン「伝説のノート」活用術』の著者である堀正岳氏と中牟田洋子氏の2人を中心としてユーザーの利用法を多数披露していたイベント「MOLESKINE・ファンミーティング」も記憶に新しい。
ちなみに堀氏は東京に、中牟田氏はロンドンに住み、SkypeとDropboxなどをフル活用してこの書籍を制作したという。この作り方からも分かるように、アナログ一辺倒ばかりがMOLESKINEの活用方法でもない。私が上記イベントで披露した「デジアナMOLESKINE」のコンセプトと作り方を説明しよう。
デジタル情報にインデックスをつける
このデジアナMOLESKINEのコンセプトは、デジタル情報にインデックスを付けることだ。後半ページをくり抜いてデジタルな記録媒体を収納。そしてデジタルデータについては、できるだけ詳細な情報をメモページ部分に書いていくのだ。こうすることで、デジタルデータとメモが1つのMOLESKINEで管理できるようになる。
以下に作り方を簡単に解説しよう。
まずテーマ。私の場合は今までやってきた手帳関連の仕事データを入れることにした次にMOLESKINEを用意する。サイズは、ポケットサイズがベストだ。これぐらいのサイズでもメモリカード収納に役立ち、メモスペースも十分だ。
次にメモリカードを用意する。これは、SDカードでもCFカードでもいい。凹凸の少ないタイプであることが条件だ。USBメモリでも構わないが、その場合はできるだけ板状のもの選ぼう。板状のものならば、MOLESKINE側をくりぬく作業が簡単だからだ。逆にあまり複雑な形状だと、ページの一部をカットするだけではきちんと収まらない。
早速作業に移ろう。ディスクの厚みを測り、それにあわせてMOLESKINEの後半部分のページをカッターでくり抜いていく。まずカードをページの上のくり抜きたい位置に置く。そしてカッターを使ってカットしていく。このとき、注意するのは一番上のページだけは最後に1枚だけの状態で丁寧にカットすることだ。
ページが重なった状態だとどうしてもカットしにくいし、それが目立つのもかっこ悪い。だから一番上のページはきれいにカットするのだ。
くり抜き作業が終わったら、収納部を固めてページ同士を貼り付ける。紙同士の接着にはセメダインが便利だ。ページに少しとって全体に広がるように塗り伸ばし、1枚ずつ貼っていく。ページが固まったら実際にメモリカードを収納してみる。MOLESKINEには表面にゴムバンドがあるので、カードがページから脱落する可能性は少ないだろう。ただ念のために、収納部に透明ビニールを貼っておくと心配がない。
本文にコンテンツ内容を書いていく
メディアの収納部が完成したら今度はインデックス内容だ。これにはカードに含まれた情報に関する記録である。例えば、
- 2010年:FM横浜「ザ・ブリーズ」出演MP3ファイル(thebleeze.mp3)
- 2010年:日経ビジネスアソシエ「My手帳を探す旅」PDFファイル(techotabi.pdf)
- 2009年:NHK大阪放送局「ぐるっと関西おひるまえ」WAVEファイル(NHK.wav)
- 2009年:東京FMクロノス出演MP3ファイル(クロノス.mp3)
――のような感じだ。念のために言えば、この内容はなんでもいい。子供の成長記録でもいいし、料理のレシピブックでもいい。要するに紙にインデックスをつけつつ、実際の写真や動画、音声のデータなど、そのテーマに関して複数形式のデジタルデータがあるものだ。
ここまで読んだ多くの方がもうお気づきのように、この種のデータはPC内に専用のフォルダを作り、まとめて管理している人も多いはずだ。このデジアナMOLESKINEは、ページをくり抜いてメモリカードを収納することで、このPC内のフォルダをまるまる外に持ち出したものをイメージすると分かりやすい。しかも詳細なインデックスをMOLESKINEのページ部分にも記せる。また記入部分には関連する紙の情報や写真を貼っておくのもいい。
いってみれば「FDDのラベル」
このMOLESKINEは昔で言えば、FDDのラベルに相当すると言える。FDDは、3.5インチタイプなら、約9センチ四方。磁気ディスクを内包した記録媒体で、その容量は1.44Mバイト。ディスク表面にはラベル貼符スペースがあり(3.5インチの場合、ラベルは7×5センチしかなかったが)ディスクの内容をメモしておけた。
ところが現代のFDDたるSDカードにはこのラベルすらない。そもそもラベルを貼るような物理的面積が存在しないことも多い。黄色、赤、青、黒などのSDカードのパッケージにカラーバリエーションが多いのも、インデックス記入ラベルがないこととも無関係ではないだろう。いわば色と内容を関連づけることで使い分けをしようとしたわけだ。
FDDと比較すると薄く小さくなった。そして容量も大きくなった。より高速で大容量なSDHCカードなら最大32Gバイトだ。
大容量に比して内容を書くスペースがないメモリカードに対して、ファイル名とその内容を記したデジアナMOLESKINEは、それ1冊にデジタルとアナログの情報をまとめられる利便性がある。
デジタルデータのインデックス付きアルバム。データがたまりそうなテーマがあったら是非やってみてほしい。
MOLESKINEはスーパーカブである
さて、私の場合はこんなふうにカスタマイズしたMOLESKINE。私見ではこれはスーパーカブのようなものだと思う。要するに、同じ形で長く作られ続けた工業製品は、その時々で時代の文脈の中に投入されてカスタマイズされる。
共通点は以下のようなことだろうか。まず工業製品としての歴史。スーパーカブは、1952年に登場。MOLESKINEは一時中断のブランクがあるとは言え、200年近い歴史がある。次にアーキテクチャとしての頑丈さ。ともに、業界内では飛び抜けて堅牢な構造を持ち、ハードな使用にも耐える。多様なカスタマイズを許容している点は、上述の通りである。
幾多の追従者を生んでいるところも似ている。スーパーカブは、同業他社から同じコンセプトのバイクがいくつも登場した。MOLESKINEが日本で再発売されて以降、微妙にコンセプトが違うものも含めても、縦バンドをあしらった手帳がいくつも登場している。長く作られたプロダクトはその普遍性ゆえにカスタマイズを許容する懐の広さがあるのである。
著者紹介 舘神龍彦(たてがみ・たつひこ)
アスキー勤務を経て独立。手帳やPCに関する豊富な知識を生かし、執筆・講演活動を行う。手帳オフ会や「手帳の学校」も主宰。主な著書に『手帳進化論』(PHP研究所)『くらべて選ぶ手帳の図鑑』(えい出版社)『システム手帳新入門!』(岩波書店)『システム手帳の極意』(技術評論社)『パソコンでムダに忙しくならない50の方法』(岩波書店)など。
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