コーチングは「逃げ」? 徹底的に構造化してますか?:説明書を書く悩み解決相談室(2/3 ページ)
上司が部下を指導する際に重要となるスキルの1つが「コーチング」。ただしこのコーチング、必要な説明をしないまま安易に使うと、ただの逃げになってしまうのです。
「道路の渡り方」の説明を徹底的に構造化してみよう
では、具体的な例を挙げましょう。以下の場面は、先生が幼児に「道路の渡り方」を教えるシーンを想定しています。
先生の言葉
じゃあ今から先生がお手本みせますからね。
はい、ここが道路ね。それで、道路の向こうに行きたい、そう思ったら、
まず右見てね、車が来てたら、渡っちゃダメよ。
来てなかったら、次に左見るの。やっぱり車が来てたら渡っちゃダメ。
それからもう一度右見て、車が来てなかったら、
手を挙げて、渡りましょうね。いい? 分かった?
これは「道路の渡り方」の「説明」であり「指示命令」になっています。普通は道路の渡り方のような簡単な技術を「スキル」とは言いませんが、実際にはこれも1つの「生活のスキル」であるのは間違いありません。
こうしたスキルを教える場面では大抵、説明が必要です。
先生 道路はどうやって渡ればいいと思う?
なんていう質問だけで「子供が自ら気付く」わけはありません。だから説明しなければいけませんが、このとき、理想を言えば情報を徹底的に構造化しておくべきです。
参考までに、道路の渡り方を徹底的に構造化した例をお見せしましょう。
思わず「何これ?」と衝撃を受けるかもしれませんが、単なる道路の渡り方でも、徹底的に構造化するとこうなります。さすがにこれを小学1年生に説明するのは無理ですが、ここに出てきたフレームワークは、実は汎用的に使えるものなのです。業務マニュアルなどを書くときに、参考にしてみてください。
まずは右端の「基本的特性」の欄を見てみましょう。すると「車は道路を走る」「車は高速を出す重い物体である」などなど、わざわざ言う必要もないほど誰でも知っている常識的な情報が並んでいます。これらを、対象物が基本的に持っている性質ということで「基本的特性」と呼んであります。
一方、その左にあるのは基本的特性を踏まえた「判断あるいは行動のルール」です。例えば「道路横断時は車にぶつかりやすく危険である」というのは、関連づいた2つの基本的特性から論理的に得られる判断です。
「(A1)車が来ないことを確認する(必要がある)」というのも、関連づいた(C1)項から論理的に得られる判断です。その(A1)を具体的な行動ルールにしたものが「(B1)渡る前に右・左・右の順に点検する」です。同様に判断(A2)を行動ルールにしたものが(B2)です。
基本的特性と判断あるいは行動のルールがそれぞれ論理的に対応づいていることを確認してください。
さらにその左、安全確保系概念という欄がありますが、これは「判断あるいは行動のルール」欄の情報を、「安全確保のための検討ポイント」という観点で分類したものです。
- 安全確保の基本概念=「危険を防ぐために、安全課題を明らかにして、事前点検をしよう」
というのは、どんな分野であっても共通に出てくる「安全確保」のための基本的な思考パターンです。道路の渡り方もこのパターンで構造化できることが分かりますね。
最後に左端の列は、問題解決系の概念を使って構造化したものです。「目的を達成するために、問題点を見つけ、課題を抽出して、解決策を考える」というのは、問題解決の典型的な思考パターンであり、道路の渡り方はこのパターンで構造化することも可能です。
いかがでしょうか。「たかが道路の渡り方」です。ここまで構造化する意味があるのか? めんどくさくなるだけじゃないのか? と思われるかもしれません。実際、幼児にこれを教えるのは無理ですし、テーマが道路の渡り方だったら、何もここまでやらずとも(B1)(B2)だけで十分に役立つでしょう。
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