コーチングは「逃げ」? 徹底的に構造化してますか?:説明書を書く悩み解決相談室(3/3 ページ)
上司が部下を指導する際に重要となるスキルの1つが「コーチング」。ただしこのコーチング、必要な説明をしないまま安易に使うと、ただの逃げになってしまうのです。
大人への教育には徹底的な構造化が役に立つ
しかし、論理的・抽象的思考力の発達した大人を相手にもっと難解なスキルの教育をする場合は、このような徹底的な構造化が役に立ちます。それは例えばこんな場面で生きてきます。
上司 (質問1)道路を渡るときはどうすればいい?
部下 (B2)手を挙げて渡ります。
上司 (質問2)なぜ手を挙げる必要があるの?
部下 (A2)車に対して横断の意志を明示するためです。
上司 (質問3)手を挙げればそれができるのはなぜ?
部下 (D2)運転手は手を挙げた人に注意を引かれるからです。
この応答の中では上司は「質問」ばかりで「説明」をしていませんね。説明しているのはあくまでも部下です。そして、質問を通じて(A2)―(B2)―(D2)の一連の関連性が明らかになっていますが、実際に職場で必要なビジネススキルに関してこの上司のような質問を部下に対してしてみると、穴だらけでほとんど答えられない場合が多いことに気付くはずです。
実は「取りあえず今日の作業ができればいいから」といった安易な教育をするときは、ちょうど道路の渡り方で言えば具体的な行動ルールの(B1)(B2)の部分だけを教え込んで済ませてしまっている場合が少なくないんですね。それでは、指示された作業はできても、「なぜその作業が必要なのか?」という本質的な理解は得られず、ちょっと状況が変わるだけで応用が効かなくなります。
本質的な理解を促すためには、「基本的特性」と「判断あるいは行動のルール」の対応関係を1つ1つ自分で確認し、それを「問題解決系」や「安全確保系」の思考パターンへと整理する作業もまた自分で行わせる必要があります。ただし、それを「自分で」させるように仕向け、サポートするのは単なる質問スキルとしてのコーチングスキルだけでは不可能です。
部下がある程度自立して、部下の方が問題に詳しくなるまでは、上司の側で構造化をして教えなければ、適切な説明も質問もできません。それをやらずにコーチングのまねごとに走るのは、ただの逃げではないでしょうか。
一部の「コーチングスクール」=コーチ資格取得者養成業者はこのへんの事情を曖昧にして、「コーチには専門知識は要らない」という幻想を過剰に植え付けて集客をしている例があります。「俺、コーチングって嫌いなんだよね」と私に話してくれた数人は共通してこの点を非常に危惧していました。実際、私自身も同じ懸念を抱いています。コーチング手法は役に立ちますが、決して魔法のつえではありません。弱点、限界をわきまえてほどほどに使いたいものです。
当連載では、「分かりにくい説明書を改善したい」という相談を歓迎しております。「改善案のヒントがほしい」という例文があれば遠慮無く開米へお送りください(ask@ideacraft.jp)。今回のような連載での紹介は、許諾をいただいた場合のみ、必要に応じて内容を適宜編集したうえで行います。
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筆者:開米瑞浩(かいまい みずひろ)
IT技術者の業務経験を通して「読解力・図解力」スキルの再教育の必要性を認識し、2003年からその著述・教育業務を開始。2008年は、「専門知識を教える技術」をメインテーマにして研修・コンサルティングを実施中。近著に『ITの専門知識を素人に教える技』、
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