30歳「付き合いで始めた」ベンチプレスで世界一に――内田洋行、中山久幸さんの働き方:アスリートという働き方(2/2 ページ)
ベンチプレスの国内大会で6年連続の優勝、世界大会でも通算5回のチャンピオンに輝いた中山久幸さん(49歳)。日々のトレーニングと仕事を両立させるその働き方を聞いた。
――これまで何度か世界チャンピオンになっていて、ベンチプレスだけでやっていこうと思ったことはありますか?
ベンチプレスの世界チャンピオンになった人の中には、ジムのオーナーやトレーナーをやっている人が多いんです。ただ私は地方で趣味で始めたようなものなので、それを本業にはしたくないなと思っているです。本業にして例えばジム経営がうまくいかなくなったりしたら、その競技自体が嫌になっちゃうかもしれない(笑)。またベンチプレスはアマチュアスポーツなので、それだけで食べていけるわけでもないですしね。
――普段の練習量や、トレーニング環境について教えてください。
2004年に転勤で東京に来てからは、パワーリフティング専門のジムに通っています。練習日、ジムが休みの木曜日以外は毎日です。それまでは特別専門的なアドバイスなどは受けていませんでした。
平日の練習時間は21〜23時の約2時間。休日はだいたい15〜21時までジムにいます。会社には朝8時30分〜19、20時くらいまでいるのですが、ときどき残業で遅くなるときはジムも休んでいます。
忙しいときは割り切る
――大会前は練習量を増やしたり、仕事を早く切り上げるなどはありますか?
練習は2時間くらいあれば何とかできるので、あまり変えないですね。逆に全日本大会前などは時期的に仕事が忙しい季節なので、そのときはちょっと割り切って休みます。月曜日とジムが休みの木曜は残業しようとか、もっと忙しければジムに行く日を休日と平日1日の3日だけと決めたりなど。その代わり、残業する日になるべく仕事をして、早く帰る日は定時(9:00〜17:15)までとはいかないまでも18時くらいには帰れるようにしています。
――仕事が忙しい時期と。全日本が重なったときに仕事との両立を取るのが難しいなどはありますか? 特に体調管理が厳しいなど。
昨年は震災もあり、大会シーズンには計画停電がありました。そのときはわりきって、行く日と行かない日を決めるようにしたんです。行ける日はなるべく仕事を切り上げるようにして、その日に集中してできるように、という感じにして、うまくバランスを取るようにしています。
――大会前になると、会社から何かサポートなどはありますか?
全日本大会は土日開催が多いので、遠くても前後の金曜か月曜に1日だけ休みを取ればいいんです。だから、特に周りの人には何も言わずに参加しています。
世界大会になると、さすがに1週間〜10日くらい休みをもらっています。よってその辺りは周りの人にちょっと負担をかけるような形になってしまいますが、仕事を絞らさせてもらったりなど、協力してもらっています。
お休みは基本的に有給休暇を消化しています(大会に参加するからといって特別な休暇がもらえるわけではない)。ただ、世界大会で優勝をした際に、通常は業務で何かしらの功績を残した人がもらえる社長賞を特別枠の形でいただきました(※)。
▼▼※中山さんは通常業務の方でも社長賞をもらった経験がある。
ベンチプレス以外の趣味は?
――休日はトレーニング以外にどのような過ごし方をしていますか?
特にないです(笑)。最近は違いますが、世界一にずっとなりたいと思っていたときには、トレーニングすること以外で体を一切動かしたくなかったんです。買い物に行くことすらも。それまで空手やバスケをやっているときにはなかったことです。はまったこと(ベンチプレスに対して)はひとつの目標に向かって努力をするタイプなのかもしれません。
――これまでケガを乗り越えてなど、さまざまな苦労があったと思います、ご家族からのサポートで何かエピソードなどあれば教えてください。
先ほどの練習時間を聞いていただければ分かると思いますが、もう家族サービスはなしです(笑)。それがもう15年くらいですか、結婚をしてから続いています。子供はいないのですが、ベンチプレスは結婚をする前から始めているので、基本的にはもうこの生活パターンです。家族で一緒に夕食をするのは日曜日くらいです。そんな状況でも協力してもらっています。
奥さんには減量をしていたときに、筋力を落とさずに体重をコントロールできるなど、料理を工夫してもらいました。また試合観戦には一度も来たことがないのですが、コスチュームのミシンがけをしてくれます。大会に来ないのは、自分でも、いつも絶対優勝できるなんて思っていないので、来てもらったときに負けたら嫌だなという思いがあるからです。
――今年の世界大会は大会年長者だったそうですが、ご自身で何歳まで現役でやるなどの目標は決めていますか?
決めていません。ベンチプレスを始めて思ったのは、人って30歳くらいになると基本的にそこから伸びる能力ってなかなかないですよね。でも私はそこから伸びている。
ケガの期間は除いて、やっぱりトレーニングをすればするだけ、極端な話、昨日よりも今日の方が強くなっていると思えるし、1年後の方が強くなっていると思えるんです。だからそれがあるうちは、やっていると思います。
逆に言えば、今日より明日の方が弱くなっている(と思うか分からないですが)そう思うようになったら考えるかもしれないですね。
――最後に、今後の直近の目標などがあれば教えてください。
とりあえずは通用する限りは一般の部で、優勝を目指していきたいなと思います。
――ありがとうございました。
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