説得能力を高めるには“人まね”をしよう:一撃「超」説得法(2/3 ページ)
「超」説得法は、日常的にさまざまな機会に意外で多用している。ではどうすれば一撃能力を高められるだろうか? 一番効率的なのは、説得が上手な人を見つけて、その人のまねをすることだ。
「純粋説得」は交渉や取引と違う
本連載の第1回で、「会社の仕事は説得の連続だ」と述べた。「あなたは、そうした俗世間の交渉事ごとをやっていないのだから、説得に苦労したこともないだろう」というかもしれない。
しかし事態はまったく逆である。私の仕事は、文章を書いて考えを読者に理解してもらい、主張に賛同してもらうことだ。これは説得行為以外のなにものでもない。
しかもこの説得は、会社の仕事における説得よりある意味では難しい。
なぜなら第1に、取引の対価を直接的な形では提供できないからだ。商取引では、対価を提供する。それが十分に高ければ、相手は取引に応じるだろう。あるいは、その他の条件を調整することで、取引相手を説得できる。また「今後は契約しない」などと脅すこともできる。交渉には、常にこうした「条件闘争」の要素が入っている。
そして業務上の交渉のかなりは、条件の調整で達成できるのである。もちろん、文章の場合も、「読めば、いいことがある」と言うことはできる。「賢くなる、金もうけができる、運が開ける」などだ。あるいは「読まないと、時代に遅れる」などと脅すこともできる。しかしこれらは抽象的なものにすぎず、迫力に欠ける。
第2に、組織の上位者は部下に指示ができる。必要であれば、権力を使って命令できる。また将来の地位、役職などを取引材料に使うこともできる。しかし、私が文章を書いて読者を説得したい場合、それに相当するものは一切ない。
しかも会社の仕事での説得や交渉は、互いに知っている人との間でなされる場合が多い。相手が誰かは分かっているので、対応もしやすい。しかし文章の場合には、「社会全体」という捉えどころのない対象が相手だ。
以上の意味で私が行っているのは、いわば「純粋説得」作業だ。だから、苦労している。そして、さまざまの努力をしている。宗教の布教活動も同じことだろう。
「説得」は、「取引」や「交渉」としばしば混同される。しかし「純粋説得」は、条件闘争を含んでいないという意味で、取引や交渉とは違うのである。
交渉や取引で重要なのは、条件闘争をどのように展開するかだ。どうすればよいかは場合によって違うので、一般論は提示しにくい。それに、どんなに頑張ったところで強力な権力と多大の財力を持った人には敵わない。
それに対して「説得」には、さまざまな場合に共通する原理がある。それに権力や財力がなくても、実行し、成功できる。用いる道具は、多くの場合に「言葉」だけだ。
本連載の基となった書籍『「超」説得法 一撃で仕留めよ』では、キリスト教の聖書やシェークスピアの作品をしばしば引用している。これらを見て、「現実のどろくさい業務にはあまりかかわりのない、高尚な話だ」と思うかもしれない。しかし、そうではない。これらは「純粋説得」にかかわるものなので、一見して高尚に見えるだけだ。
そこに含まれる知見は、実際の仕事のうちの「純粋説得」にかかわる部分について(つまり、「条件闘争」を取り去った部分について)、大いに参考になるのだ。ビジネス書を読むくらいなら、聖書やシークスピアを読むほうがずっと有用なノウハウを得られる。
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