第5回 給与に納得がいかない――自分の値段はどう決まる?:“独立プロフェッショナル”の仕事術(2/2 ページ)
給与はいわば、会社の中で決められた資源=人件費の陣取り合戦の結果。その評価軸は企業によって異なるため、“どうも納得がいかない”と思う人もいるでしょう。そんなときの対処法について考えてみましょう。
「自分の価値は市場が決める」という働き方にシフト
筆者が10年前に独立した理由はいくつかありますが、その1つに自分の評価に対する「納得感」を求めていたことにあります。
当時、同僚と事業企画書を書いて立ち上げた事業会社で業務設計、改善チームのマネージャーを務めていましたが、人事評価の時期に給与査定をめぐって紛糾することが多くなってきました。
当時の私の仕事は、その事業会社や親会社全体で見ても専門性が求められ、評価項目にも記述が見当たらない業務だったので、つどつど個別に成果目標を定めて、その結果を毎期末に評価する形を取っていました。
会社が求める目標は毎回ほぼ達成し、会社側も一定の評価を認めてくれましたが、それでも自分自身の頑張りと結果に対する対価としては、どうもしっくりしない。一方で自分は事業計画はもちろん業績もP/Lも知っているのですから、給与の原資として割り当てられる予算も、給与の上げ幅の上限も見えています。さらに自分が企画し、育ててきた事業なので、会社に対する愛着もあります。一緒に戦ってきた仲間同士で評価をめぐって揉めるのは、とても辛いことでした。
給与が上がることはうれしいのですが、それよりも何よりも欲しかったのは、自分の出した結果に対するリターンの「納得感」だったのです。
そんなことを何度か繰り返すうち、ふと給与に対する原資が限られているのであれば、自分の力を評価し、求めている企業から少しずつ貰えば良いでないか、と気づきました。自分自身の力が会社の外でどこまで通用するのかを試してみたかったという想いもあります。それは自らの力、スキルを市場にさらすという大海原に一歩踏み出す決意をした瞬間でもありました。
自分が提示した報酬が見合わないと思えば仕事のオファーはきませんし、仕事の結果や成果にクライアントが納得しなければ、二度と声はかかりません。一方で仕事に対する評価が高ければ契約は継続しますし、求める対価も快く受け入れてもらえます。さらに多くのクライアントから必要とされれば、それだけ市場価値が高いということになります。
つまり「自分の価値は市場が決める」という働き方です。
市場から常に求められる知識や経験を継続的に身につけることも重要ですが、できる仕事ばかりしていると、いつのまにか自分の技もスキルも陳腐化していきます。何年かに1度は、これまで経験したことのない分野や仕事に取り組んでみるような新しいチャレンジも必要です。
このような話をすると、非常にシビアで厳しい世界と思われるかもしれませんが、私はその方がよっぽど健全で納得できる生き方だと思いました。なぜなら全ては自分の仕事、頑張り次第なので、失敗する原因もすべて自分に帰結するからです。
このような世界に飛び込んで、もう10年になります。これまでの仕事の中には、当初お約束した成果をクライアントに提供できなかったケースもあります。そういう時は深く落ち込みますし、今でもつらい気持ちになりますが、全ては自分の力不足の結果であり、クライアントを選ぶ、あるいは仕事のオファーを受ける選択権も自分にあるので、納得せざるをえないのです。
私達インディペンデント・コントラクター(IC)にとって、良いクライアントとは、高い報酬を払ってくれるクライアントではありません。本当に良いクライアントというのは、私達ICの能力や強みをきちんと理解して、うまく使ってくれる依頼主です。そういうクライアントは、提示する報酬についても理解を示してくれることが多いものです。
今、所属している会社で、自分に対する評価に満足せず悶々としているなら、まずは自分が「クライアント=会社」の求めるニーズに合っているのか、どのような成果を出すべきなのか、出しているのかを、今一度、冷静に確認してみてはどうでしょう。
会社が求める成果をきちんと理解し、結果を出した上で対価を求めている人は、立派な企業内プロフェッショナルです。組織の中で余人に代え難い専門性、スキルを持っていればなおよし、です。
そのような企業内プロフェッショナルは、いつ独立しても成功できるチャンスと可能性を持っているはずです。
著者プロフィール:中村貴彦
プロミッション代表取締役/ビジネスインプリメンター。インディペンデント・コントラクター協会理事。1970年生まれ 慶応義塾大学 商学部卒。
人材派遣会社を経て、総合人材サービス業のインテリジェンスに入社。事業会社2社への出向、立ち上げを経て2004年に独立。主に新規事業・サービスの立ち上げ、業務設計〜構築、改善支援をハンズオンで行う。2009年よりiPhone、iPadをはじめとするスマートデバイスの法人導入コンサルティングを開始。現在は2つの事業軸で活動している。Apple Consultants Network 加盟。
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